27 / 97
二年目 ~領地編~
柔らかく甘やかな
しおりを挟むクレイルさんが手配した応援も到着し屋敷の中を捜索し始めたところで、俺とクリスティーヌ様はその場を後にした。
許可を出したのはクリスティーヌ様でもその場に残る必要はない。
これ以上留まることをよしとしなかった護衛の人の説得もあり、先に馬車で戻った。
俺もクレイルさんからの指示で捜索は他の人に任せて戻ることになる。
屋敷に戻りクレイルさんへ途中経過の報告をする。
よくやりましたと労いの言葉を貰い、次はお叱りの言葉が来るかと身構える。
しかしクレイルさんからは疲れたでしょうからもう今日はもう休んで良いですよと穏やかな声がかけられた。
戸惑いながらクリスティーヌ様を巻き込んだことを咎めないのか聞く。
「クリスティーヌお嬢様も反省していらっしゃいましたよ。
どうやらアランに怒られるより謝られた方が堪えたようですね」
俺はただクリスティーヌ様の身が心配で危険がある場所には近づかないでほしかっただけなのだが、また傷つけてしまっただろうか。
そうクレイルさんに零すとそれもお嬢様はちゃんとわかっておいでですよと微笑んでくれた。
後できちんと謝らないといけない。それから助けてもらったお礼も。
慌ただしい空気の中、クリスティーヌ様の姿を探す。
見つけた彼女は夕涼みに出ていたのか、裏庭で佇んでいた。
「お嬢様」
声を掛けるとクリスティーヌ様がゆっくりと振り返る。
「アラン」
名前を呼んだきり黙ってしまうクリスティーヌ様。
仄かな緊張を抑えて口を開く。
「先ほどは助けていただいてありがとうございました」
「わざわざいいのに。
でも無事で良かった……」
安堵の息を吐くクリスティーヌ様に謝罪を伝える。
「先ほどは申し訳ありません、心配のあまり言い過ぎました。
お嬢様は、ちゃんと自身の身の安全を考えていらしたのに」
クリスティーヌ様は離れた場所から様子を窺うだけのつもりで危険に近づくつもりはなかった。
それをさせてしまったのは俺の油断が原因だ。
俺の謝罪にクリスティーヌ様は首を振る。
「私を心配してのことだってちゃんとわかってるわ。
私も本当なら全て人に任せるべきところに手を出したって反省してるの」
二人付いていた使用人の一人を伝言役に出したためもう一人はクリスティーヌ様の側から離れられず。俺を助けるために無理を押して魔法を使ったと。
「でもアラン、自分の身も大切にして。
今回のことは仕方のないタイミングだったとわかっているけれど、一人で犯人と相対するなんて危険なことだったわ」
「取り逃がす危険と比較したら些少だと思ってしまいました。 判断が甘かったと思っています。
ですが他所に逃がすわけにはいかなかった」
他所の街に逃がしてしまえば行方が追いづらくなる。
そうして捜索に時間をかけている間に他領に入られたら、侯爵家にとってまずいことになる。
なんとしてもこの街で取り押さえる必要があった。
「無事取り押さえられて良かったです」
まだ終わったわけではないが、これで贋金が侯爵領を騒がせることはなくなるだろう。
一安心だと息を吐く俺をクリスティーヌ様が見ていた。
「アランのおかげで侯爵家は助かったわね」
過分な言葉に首を振る。
「そんな、クレイルさんや皆のおかげです」
俺はクレイルさんの指示に従っていただけだし、今回犯人を取り押さえたのはクリスティーヌ様と連れていた護衛の人だ。俺が果たした役割などそれほどものでもない。
俺の言葉をクリスティーヌ様は穏やかな声で窘める。
「最初に贋金に気づいたのはアランでしょう。
もっと自信持っていいのよ」
それがなかったらもっと蔓延していたかもれないんだからと言われて面映い。
信頼や賞賛の籠った笑みに気持ちが浮き立つ。
「ええ、偶然の導きが皆様をお守りすることに繋がった。
それを誇らしく思います」
レオンやクリスティーヌ様をはじめとした侯爵家の人々。
俺のやったことが彼らを守る一助になったのならとても嬉しい。
「私たち……?」
ええ、と口元を綻ばせる。嬉しさが滲んでしまうのを止められなかった。
「大切な人が幸せでいてくれる。
それが俺にとっても幸せですから」
その日々を守りたいと願っている。それが叶ってよかった。
自分が見つけたことが皆のためになったと言ってもらえる誇らしさや嬉しさに笑みが緩む。
ふいに落ちた沈黙にそろそろ中に戻るよう促そうかと考えていると、俺たちの間を突風が吹き抜けた。
「風が出てきましたね、もう中に入りましょうか」
そう言いながら顔を上げるとクリスティーヌ様の頭の上に淡い紅色の花弁が乗っているのが目に入る。
緩く編んだ金の髪を飾るような場所に落ちた妙につい口元が綻ぶ。
「アラン?」
「ああ、失礼しました。
髪に花びらが止まっていますよ」
付いている辺りを指し示すとクリスティーヌ様の手が花弁の近くを滑り、ひらりと髪から離れる。
思わず両手で受け止めると、クリスティーヌ様が不思議そうな顔を向けた。
「付いていた花びらです。
落ちてしまうのが惜しくなってしまい、つい受け止めてしまいました」
とてもお綺麗だったのでと口にするとクリスティーヌ様が手を伸ばす。
差し出された手の上に花弁を乗せ、先ほどの光景を語る。
「まるでクリスティーヌ様の髪を飾るように降ってきましたね」
偶然の妙とはおもしろいですねと言うとクリスティーヌ様もそうねと静かな声で呟く。
それきり黙ってしまったクリスティーヌ様だけれど口元に浮かぶ笑みは柔らかく、目を細めて手の中の花弁を見つめる視線は甘やかで。
ふいに直視してはいけないような、そんな気分に襲われた。
83
あなたにおすすめの小説
婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!
さこの
恋愛
婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。
婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。
100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。
追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~
Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。
その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。
そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた──
──はずだった。
目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた!
しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。
そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。
もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは?
その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー……
4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。
そして時戻りに隠された秘密とは……
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる