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二年目 ~領地編~
柔らかく甘やかな
しおりを挟むクレイルさんが手配した応援も到着し屋敷の中を捜索し始めたところで、俺とクリスティーヌ様はその場を後にした。
許可を出したのはクリスティーヌ様でもその場に残る必要はない。
これ以上留まることをよしとしなかった護衛の人の説得もあり、先に馬車で戻った。
俺もクレイルさんからの指示で捜索は他の人に任せて戻ることになる。
屋敷に戻りクレイルさんへ途中経過の報告をする。
よくやりましたと労いの言葉を貰い、次はお叱りの言葉が来るかと身構える。
しかしクレイルさんからは疲れたでしょうからもう今日はもう休んで良いですよと穏やかな声がかけられた。
戸惑いながらクリスティーヌ様を巻き込んだことを咎めないのか聞く。
「クリスティーヌお嬢様も反省していらっしゃいましたよ。
どうやらアランに怒られるより謝られた方が堪えたようですね」
俺はただクリスティーヌ様の身が心配で危険がある場所には近づかないでほしかっただけなのだが、また傷つけてしまっただろうか。
そうクレイルさんに零すとそれもお嬢様はちゃんとわかっておいでですよと微笑んでくれた。
後できちんと謝らないといけない。それから助けてもらったお礼も。
慌ただしい空気の中、クリスティーヌ様の姿を探す。
見つけた彼女は夕涼みに出ていたのか、裏庭で佇んでいた。
「お嬢様」
声を掛けるとクリスティーヌ様がゆっくりと振り返る。
「アラン」
名前を呼んだきり黙ってしまうクリスティーヌ様。
仄かな緊張を抑えて口を開く。
「先ほどは助けていただいてありがとうございました」
「わざわざいいのに。
でも無事で良かった……」
安堵の息を吐くクリスティーヌ様に謝罪を伝える。
「先ほどは申し訳ありません、心配のあまり言い過ぎました。
お嬢様は、ちゃんと自身の身の安全を考えていらしたのに」
クリスティーヌ様は離れた場所から様子を窺うだけのつもりで危険に近づくつもりはなかった。
それをさせてしまったのは俺の油断が原因だ。
俺の謝罪にクリスティーヌ様は首を振る。
「私を心配してのことだってちゃんとわかってるわ。
私も本当なら全て人に任せるべきところに手を出したって反省してるの」
二人付いていた使用人の一人を伝言役に出したためもう一人はクリスティーヌ様の側から離れられず。俺を助けるために無理を押して魔法を使ったと。
「でもアラン、自分の身も大切にして。
今回のことは仕方のないタイミングだったとわかっているけれど、一人で犯人と相対するなんて危険なことだったわ」
「取り逃がす危険と比較したら些少だと思ってしまいました。 判断が甘かったと思っています。
ですが他所に逃がすわけにはいかなかった」
他所の街に逃がしてしまえば行方が追いづらくなる。
そうして捜索に時間をかけている間に他領に入られたら、侯爵家にとってまずいことになる。
なんとしてもこの街で取り押さえる必要があった。
「無事取り押さえられて良かったです」
まだ終わったわけではないが、これで贋金が侯爵領を騒がせることはなくなるだろう。
一安心だと息を吐く俺をクリスティーヌ様が見ていた。
「アランのおかげで侯爵家は助かったわね」
過分な言葉に首を振る。
「そんな、クレイルさんや皆のおかげです」
俺はクレイルさんの指示に従っていただけだし、今回犯人を取り押さえたのはクリスティーヌ様と連れていた護衛の人だ。俺が果たした役割などそれほどものでもない。
俺の言葉をクリスティーヌ様は穏やかな声で窘める。
「最初に贋金に気づいたのはアランでしょう。
もっと自信持っていいのよ」
それがなかったらもっと蔓延していたかもれないんだからと言われて面映い。
信頼や賞賛の籠った笑みに気持ちが浮き立つ。
「ええ、偶然の導きが皆様をお守りすることに繋がった。
それを誇らしく思います」
レオンやクリスティーヌ様をはじめとした侯爵家の人々。
俺のやったことが彼らを守る一助になったのならとても嬉しい。
「私たち……?」
ええ、と口元を綻ばせる。嬉しさが滲んでしまうのを止められなかった。
「大切な人が幸せでいてくれる。
それが俺にとっても幸せですから」
その日々を守りたいと願っている。それが叶ってよかった。
自分が見つけたことが皆のためになったと言ってもらえる誇らしさや嬉しさに笑みが緩む。
ふいに落ちた沈黙にそろそろ中に戻るよう促そうかと考えていると、俺たちの間を突風が吹き抜けた。
「風が出てきましたね、もう中に入りましょうか」
そう言いながら顔を上げるとクリスティーヌ様の頭の上に淡い紅色の花弁が乗っているのが目に入る。
緩く編んだ金の髪を飾るような場所に落ちた妙につい口元が綻ぶ。
「アラン?」
「ああ、失礼しました。
髪に花びらが止まっていますよ」
付いている辺りを指し示すとクリスティーヌ様の手が花弁の近くを滑り、ひらりと髪から離れる。
思わず両手で受け止めると、クリスティーヌ様が不思議そうな顔を向けた。
「付いていた花びらです。
落ちてしまうのが惜しくなってしまい、つい受け止めてしまいました」
とてもお綺麗だったのでと口にするとクリスティーヌ様が手を伸ばす。
差し出された手の上に花弁を乗せ、先ほどの光景を語る。
「まるでクリスティーヌ様の髪を飾るように降ってきましたね」
偶然の妙とはおもしろいですねと言うとクリスティーヌ様もそうねと静かな声で呟く。
それきり黙ってしまったクリスティーヌ様だけれど口元に浮かぶ笑みは柔らかく、目を細めて手の中の花弁を見つめる視線は甘やかで。
ふいに直視してはいけないような、そんな気分に襲われた。
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