【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

文字の大きさ
28 / 97
二年目 ~領地編~

薄情ですか

しおりを挟む
 

 贋金に関連していた者の捕縛と別荘の捜索に入った翌日、クリスティーヌ様は学園に向けて旅立って行った。

 手紙を書くからと言われ、使用人個人に手紙?と不思議に思った俺へ可笑しそうに笑いレポートのことだと告げる。

『レポートのこと、手紙書くから読んで返事をしてちょうだいね』

 共同発表者なんだから結果を聞くのは当然のことよと言うクリスティーヌ様に、自分でも不思議なほどするりと言葉が落ちてきた。

『良い結果になることを期待しています』

 以前の俺なら祈っていると答えただろう。
 けれど、そういう言葉は止めた。
 共同発表者であるのならその言葉は他人事過ぎるから。
 俺の返事にふわりと笑ったクリスティーヌ様にそれでいいと受け入れられたような気がして喜びが胸をくすぐる。

 あっという間に過ぎた日々が鮮やかに胸に焼き付いていた。





 しかし事件の方は犯人を捕まえて万事解決とはいかなかった。
 別荘を使用していた貴婦人はすでに姿を消していてその行方は掴めていない。
 捕まえた贋金を使っていた二人から聞いた話では、別荘に着き贋金を使った後すぐに他の街へ向けて旅立ったという。
 使用人たちが別荘に残っていたのは貴婦人からの依頼があったため。
 いくらかの偽半金貨を分け与えられ報酬に目が眩んだという。
 贋金がこれほど早く見つかるとは思わなかったとも。

 ただ、使用人たちが仕えているのはその貴婦人ではなく別の貴族だった。
 貴婦人は彼らの主人である貴族と懇意にしていた女性で、関係を清算して立ち去る途中だったとか。
 あの偽半金貨は手切れ金だったとも男の方から聞けた。
 つまり贋金の出元はその貴族ということになる。
 貴族の身元に関しては二人とも明かすことにかなり抵抗していたようだが、自分たちの身の安全と引き換えに最終的には話をすることを選んだ。
 その名が以前連想した西方貴族のものであったことに驚きを禁じ得なかった。
 調査結果はクレイルさんが全て侯爵様に報告を上げている。
 近くレオンも聞くだろう。

『面白いものでな? 同じような過ちをするんだ』

 思い返されるレオンのいつかの言葉が俺の胸にわずかな影を落とした。

「アラン、ここにいたんですか」

 クレイルさんの声に顔を上げる。
 俺を探していたらしきクレイルさんへどうしたのかと聞く。

「あなたの実家からの除籍届について、侯爵様から連絡がきました」

 場所を変えますか?と聞かれてここで構わないと告げる。
 室内よりも風の通る裏庭の方が気持ちが楽だった。

「出されていた除籍届がようやく正式に受理され、子爵家の籍から抜けました」

 渡された書類に目を通し、思ったことを口にする。

「ずいぶんかかりましたね」

 除籍届が出されたのは昨年の冬の始まり。今は夏が終わり秋に入ろうかという頃だ。
 実に9か月の時間がかかったことに驚きの気持ちが浮かぶ。それだけ除籍手続きというのは煩雑で時間のかかるものなんだろうか。

「本来であればそれほど時間のかかるものではありません。
 ただ、今回は何の瑕疵もない子を除籍するという子爵の一方的な届け出でしたから、親子喧嘩のもつれで感情的に除籍を言い出したのではないか、関係が改善されて後から復籍を言い出す可能性も考えられて時間をおいていたようです」

 俺の疑問を読み取ったクレイルさんが説明を重ねてくれる。

「侯爵様の方からもレオン様がアランを侯爵家に招いた経緯を話し、改善が見込める余地はなく、また関係の修復はアランの負担にしかならないと伝えています。
 今後のアランの身の振り方は侯爵家が責任を持つとも。
 それでようやく受理されたようですね」

 俺の知らぬ間に侯爵様はずいぶんと手を尽くしてくれたようだ。感謝の念に頭が下がる思いだ。
 胸のどこかを埋めていた重苦しい気持ちが吐息となって口から零れる。

「……寂しいですか?」

 溜息を吐いた俺にクレイルさんが気遣わしげな視線を向ける。

「いえ、すっきりした気分なんです」

 重石が取れたような軽い心地になっている、なんて。

「……薄情ですかね」

 家族との縁が切れたことに心が軽くなったと感じるなんて。
 そんな日が来ることを、想像もしなかった。

「……アランがされたことを思えば無理からぬ感情だと思いますよ」

 私でもそう思うのですからアランの側にいたレオン様はもっとだったのでしょうと言葉を続けるクレイルさん。

「通常の除籍ではないことですが、アランの除籍に関しては今後復籍が叶わないよう特別な処理をしてあります。
 万が一子爵の気が変わってアランに何か言い出すと面倒ですから」

 それを聞いても惜しいとも何も思わなかった。すでに自分の心は家族の下にはないようだ。

「ありがとうございます」

 深く感謝の意を尽くすとクレイルさんが侯爵様に伝えておきますと言ってくれた。

「それからもう一つ、アランのこの度の働きで領内で贋金が蔓延することを防げましたし、犯人への足掛かりも掴めました」

 一人逃がしたことは残念でしたがそれは避けようがなかったと話すクレイルさんに頷きを返す。
 犯人たちの言を信じるのなら俺が贋金に気づいたときにはもう姿を消していたということなのだから。

「アランが果たした役割の大きさを見て侯爵様から特別報奨が出されることになりました」

 どこかいたずらな笑みを浮かべるクレイルさんに疑問を浮かべつつ言葉を待つ。

「そうですね、王立学園の学費や寮費でしたら軽く賄える程度でしょうか」

 目を瞠りクレイルさんに言われた言葉の意味を頭の中で繰り返す。
 つまり……。

「おめでとうございます、復学が叶いますよ」

「……!」

 あなたの働きが認められた証ですと微笑むクレイルさんになんと言っていいのかわからない。
 胸が一杯で言葉にならない俺に穏やかな声で侯爵様から言われた内容を話してくれる。

「具体的な時期は不明ですが、早ければ来年からアランを復学させ将来のレオン様の側近として教育をすることが決まりました。
 復学の費用とその間の生活費などをアランへの報奨とするそうです」

 そのつもりで準備をしておいてくださいと続けられ、礼を言う声が震えた。

「……ありがとう、ございます。
 こんなに早く復学が叶うとは思いませんでした」

 侯爵家で働くことで学費を稼ぎ、復学が叶うとしてももう少し先の話になると思っていた。

「それだけのことをアランはしたんですよ」

 自信を持ってくださいと微笑むクレイルさんに涙が滲む。

「はいっ! 俺、頑張ります!」

「ええ、期待しています」

 もちろん復学するまでは侯爵領での仕事もしっかりしてもらいますからねと告げられた言葉に胸を震わせ大きく返事をする。
 感謝、これからへの期待、また学べる喜び。
 いくつもの思いが胸を熱くする。
 レオンやクリスティーヌ様にこの喜びを伝えたくて仕方なかった。


しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。 そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間―― 「君との婚約を破棄することが決まった」 皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。 だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。 一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。 真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。 これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

処理中です...