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二年目 ~領地編~
薄情ですか
しおりを挟む贋金に関連していた者の捕縛と別荘の捜索に入った翌日、クリスティーヌ様は学園に向けて旅立って行った。
手紙を書くからと言われ、使用人個人に手紙?と不思議に思った俺へ可笑しそうに笑いレポートのことだと告げる。
『レポートのこと、手紙書くから読んで返事をしてちょうだいね』
共同発表者なんだから結果を聞くのは当然のことよと言うクリスティーヌ様に、自分でも不思議なほどするりと言葉が落ちてきた。
『良い結果になることを期待しています』
以前の俺なら祈っていると答えただろう。
けれど、そういう言葉は止めた。
共同発表者であるのならその言葉は他人事過ぎるから。
俺の返事にふわりと笑ったクリスティーヌ様にそれでいいと受け入れられたような気がして喜びが胸をくすぐる。
あっという間に過ぎた日々が鮮やかに胸に焼き付いていた。
しかし事件の方は犯人を捕まえて万事解決とはいかなかった。
別荘を使用していた貴婦人はすでに姿を消していてその行方は掴めていない。
捕まえた贋金を使っていた二人から聞いた話では、別荘に着き贋金を使った後すぐに他の街へ向けて旅立ったという。
使用人たちが別荘に残っていたのは貴婦人からの依頼があったため。
いくらかの偽半金貨を分け与えられ報酬に目が眩んだという。
贋金がこれほど早く見つかるとは思わなかったとも。
ただ、使用人たちが仕えているのはその貴婦人ではなく別の貴族だった。
貴婦人は彼らの主人である貴族と懇意にしていた女性で、関係を清算して立ち去る途中だったとか。
あの偽半金貨は手切れ金だったとも男の方から聞けた。
つまり贋金の出元はその貴族ということになる。
貴族の身元に関しては二人とも明かすことにかなり抵抗していたようだが、自分たちの身の安全と引き換えに最終的には話をすることを選んだ。
その名が以前連想した西方貴族のものであったことに驚きを禁じ得なかった。
調査結果はクレイルさんが全て侯爵様に報告を上げている。
近くレオンも聞くだろう。
『面白いものでな? 同じような過ちをするんだ』
思い返されるレオンのいつかの言葉が俺の胸にわずかな影を落とした。
「アラン、ここにいたんですか」
クレイルさんの声に顔を上げる。
俺を探していたらしきクレイルさんへどうしたのかと聞く。
「あなたの実家からの除籍届について、侯爵様から連絡がきました」
場所を変えますか?と聞かれてここで構わないと告げる。
室内よりも風の通る裏庭の方が気持ちが楽だった。
「出されていた除籍届がようやく正式に受理され、子爵家の籍から抜けました」
渡された書類に目を通し、思ったことを口にする。
「ずいぶんかかりましたね」
除籍届が出されたのは昨年の冬の始まり。今は夏が終わり秋に入ろうかという頃だ。
実に9か月の時間がかかったことに驚きの気持ちが浮かぶ。それだけ除籍手続きというのは煩雑で時間のかかるものなんだろうか。
「本来であればそれほど時間のかかるものではありません。
ただ、今回は何の瑕疵もない子を除籍するという子爵の一方的な届け出でしたから、親子喧嘩のもつれで感情的に除籍を言い出したのではないか、関係が改善されて後から復籍を言い出す可能性も考えられて時間をおいていたようです」
俺の疑問を読み取ったクレイルさんが説明を重ねてくれる。
「侯爵様の方からもレオン様がアランを侯爵家に招いた経緯を話し、改善が見込める余地はなく、また関係の修復はアランの負担にしかならないと伝えています。
今後のアランの身の振り方は侯爵家が責任を持つとも。
それでようやく受理されたようですね」
俺の知らぬ間に侯爵様はずいぶんと手を尽くしてくれたようだ。感謝の念に頭が下がる思いだ。
胸のどこかを埋めていた重苦しい気持ちが吐息となって口から零れる。
「……寂しいですか?」
溜息を吐いた俺にクレイルさんが気遣わしげな視線を向ける。
「いえ、すっきりした気分なんです」
重石が取れたような軽い心地になっている、なんて。
「……薄情ですかね」
家族との縁が切れたことに心が軽くなったと感じるなんて。
そんな日が来ることを、想像もしなかった。
「……アランがされたことを思えば無理からぬ感情だと思いますよ」
私でもそう思うのですからアランの側にいたレオン様はもっとだったのでしょうと言葉を続けるクレイルさん。
「通常の除籍ではないことですが、アランの除籍に関しては今後復籍が叶わないよう特別な処理をしてあります。
万が一子爵の気が変わってアランに何か言い出すと面倒ですから」
それを聞いても惜しいとも何も思わなかった。すでに自分の心は家族の下にはないようだ。
「ありがとうございます」
深く感謝の意を尽くすとクレイルさんが侯爵様に伝えておきますと言ってくれた。
「それからもう一つ、アランのこの度の働きで領内で贋金が蔓延することを防げましたし、犯人への足掛かりも掴めました」
一人逃がしたことは残念でしたがそれは避けようがなかったと話すクレイルさんに頷きを返す。
犯人たちの言を信じるのなら俺が贋金に気づいたときにはもう姿を消していたということなのだから。
「アランが果たした役割の大きさを見て侯爵様から特別報奨が出されることになりました」
どこかいたずらな笑みを浮かべるクレイルさんに疑問を浮かべつつ言葉を待つ。
「そうですね、王立学園の学費や寮費でしたら軽く賄える程度でしょうか」
目を瞠りクレイルさんに言われた言葉の意味を頭の中で繰り返す。
つまり……。
「おめでとうございます、復学が叶いますよ」
「……!」
あなたの働きが認められた証ですと微笑むクレイルさんになんと言っていいのかわからない。
胸が一杯で言葉にならない俺に穏やかな声で侯爵様から言われた内容を話してくれる。
「具体的な時期は不明ですが、早ければ来年からアランを復学させ将来のレオン様の側近として教育をすることが決まりました。
復学の費用とその間の生活費などをアランへの報奨とするそうです」
そのつもりで準備をしておいてくださいと続けられ、礼を言う声が震えた。
「……ありがとう、ございます。
こんなに早く復学が叶うとは思いませんでした」
侯爵家で働くことで学費を稼ぎ、復学が叶うとしてももう少し先の話になると思っていた。
「それだけのことをアランはしたんですよ」
自信を持ってくださいと微笑むクレイルさんに涙が滲む。
「はいっ! 俺、頑張ります!」
「ええ、期待しています」
もちろん復学するまでは侯爵領での仕事もしっかりしてもらいますからねと告げられた言葉に胸を震わせ大きく返事をする。
感謝、これからへの期待、また学べる喜び。
いくつもの思いが胸を熱くする。
レオンやクリスティーヌ様にこの喜びを伝えたくて仕方なかった。
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