【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

文字の大きさ
54 / 97
三年目 ~再びの学園生活編~

余計に不安

しおりを挟む
 

 話が終わり、部屋を出たところでクリスティーヌ様の手を離す。
 ずっとそのままという訳にもいかないのに、名残惜しいと感じてしまう。

「驚かせてしまってすみませんでした」

「いいえ、私こそごめんなさい」

 驚かせたことを謝るとクリスティーヌ様が自分の方こそと告げ、恥ずかしいところを見せたわとはにかむ。
 その可愛らしさに心臓を掴まれた心地になる。
 浮かれていると自覚した後ではあのような行動に出た自分が信じられない。
 自分の手に残るほっそりとした手の感触に急に羞恥がこみ上げてきた。
 そんな俺を見ていたクリスティーヌ様がおかしそうに笑う。

「ふふ、どうして急に照れてるの?」

「いえ、大胆なことをしてしまったなと……」

 思い出すと恥ずかしい。
 熱くなってきた頬に手の甲を当て目を伏せる。
 いたずらに顔を覗き込むクリスティーヌ様が見られなくて視線を逸らすと、それが余計におかしいのかくすくすと笑う。
 屈託ない笑みを浮かべる彼女が愛おしくて、幸せに笑みが零れる。
 幸せだと伝えるとクリスティーヌ様もとろけるような笑みを浮かべた。





 そんな風にふわふわした気持ちで週末を過ごして戻った翌日。
 学園は予想通り、侯爵様が連行した伯爵家の話で持ちきりだった。
 この前から学園を騒がせていた贋金の話、伯爵家の関与、それを侯爵家が暴いたということ。

 侯爵家の権勢がますます高まると考えたのかクリスティーヌ様には更なる注目が集まり、俺の周りも騒がしさを増していた。
 クリスティーヌ様は俺が側にいられない時はロレイン様をはじめとした友人と共にいることが多い。
 すでに関係のできている友人同士の輪に入っていくのは難しいのか、俺を通して近づきになろうと考える者が出始めている。
 迷惑なことだと思いながら身を潜めていた。

「大丈夫か、アラン」

 もう出て来ていいぞと声を掛けられ、隠れていた書棚から顔を出す。
 級友の中でも一番早く会話をするようになった彼に匿ってくれたお礼を言う。
 今日たまたま図書館にいてくれて助かった。

「助かったよ、ありがとう。
 まったく、俺に声を掛けてもクリスティーヌ様とお近づきになれるわけじゃないのに」

 打算込みの友情を完全に否定はしない。
 けれど従者として側にいる俺がそんな相手をクリスティーヌ様の近くに置きたいと思うか、考えれば徒労だとわかるだろうに。
 せっかく空いた時間に図書館へ来たのに、押しかけてきた学生のおかげで読む時間が取れなかった。
 また後日来ようと書棚へ本を戻す俺を見ていた級友がぽつりと呟く。

「アラン、まさかと思うけど気づいてないわけじゃないよな」

「え?」

 何に?と疑問を顔に浮かべると級友は呆れた表情になる。

「仕方ないかー、お前クリスティーヌ様のことだけで頭一杯だもんな」

「それはその通りだけど、気づいてないってどういう意味なんだ?」

 一人で納得したように頷く級友に意味を聞く。
 何か見落としていることがあるのなら知っておきたい。
 知らないことで不利益が起こるのは困るから。

「いや、さっきの子」

 さっきの子と言われて先ほどまで図書館の中を早足で俺を探していた女子学生の姿が浮かぶ。
 外で呼び止められ、クリスティーヌ様と同じ講義を取っている人だったから何か伝言でもあるのかと足を止めたのが失敗だった。
 かなり長い雑談のような前置きに、本題を切り出すタイミングを窺っていると感じ、見つけたわずかな隙に断りを入れその場から立ち去ったのだが。
 後を追ってこられた時にはどうしようかと思った。
 級友が匿ってくれなかったらまた捉まるところだった。

「アランとお近づきになりたいって感じで必死だったもんな」

「??」

 言い回しがおかしな気がする。
 俺とではなくクリスティーヌ様と、もしくは侯爵家と、ではないだろうか。
 疑問符をいくつか浮かべた俺に級友が笑い出した。

「鈍いなー、アランを射止めれば優秀な夫が得られるだけじゃなく侯爵家との縁もできると狙われてるって話だ」

「……??」

 全く頭になかったことを言われて困惑する。
 そんなことを言われる身ではないと思うんだけど。

「お前、自覚ないとか言ったらそれはもはや嫌味だぞ」

 俺の考えていたことを見透かしたように咎める目になる級友。
 うーん。そう言われても。

「俺は平民だし」

「別にそれは問題にならないだろ、お前なら文官の登用試験も受かるだろうし生活に困ることはなさそうだ」

 文官になる道も考えたことはある。
 婚約解消された後、学費の問題さえなければきっと卒業して文官になる道を選んだだろう。
 なのでそれは否定しない。
 でも俺は婚約を解消されたこともある身だしと内心で呟く。
 それを考えれば二の足を踏む人は多いんじゃないかと思う。

「いや、あれは元々の相手がおかしいだけだ」

「俺、何も言ってないけど」

 なんで心を読んだようなことを言えるのかと不思議に思っているとなんとなくと返ってくる。
 顔に出てるんだろうか?

「まあそれは置いといて、お前と結婚すれば将来は安泰だって考えてる奴も多いんだよ。
 すでに侯爵家で働いているお前と一緒になれば共に侯爵家に仕えることだってできるかもしれないしな?
 そう考えれば下級貴族の次女三女ならかなりいい相手だ。
 お前が今平民なことなんて問題にならない」

 むしろそれしか見える欠点がないおいしい相手だぞと言われ困った気持ちになる。
 肯定したらすごく自信過剰な人間みたいだな。

「で、さっきの子もそういう意味でアランとお近づきになりたそうだったぞ」

 色々好みに趣味や休日何してるとか聞かれたろ?と聞かれて先ほどの会話を思い出す。
 あれはクリスティーヌ様に繋がる会話を引き出そうとしていたわけじゃなかったのか?
 休日も一緒に過ごしているのかと聞かれたのでそういった意味かと思った。

「それは……、困るな」

「アランにはクリスティーヌ様がいるしな」

「ああ、……え?」

 思わず顔を上げて級友をまじまじと見つめてしまう。

「なんで……」

「ん? 違うのか?」

 違わないと首を振る。なぜ知っているんだ?
 しかし続けられた言葉にさらに首を捻ることになった。

「だよな、アラン狙いの子たちもクリスティーヌ様が優先されるのはわかってるけど、主と結婚相手は別だって考えだろ。
 クリスティーヌ様がいずれ結婚すればアランの関心も向くだろうって長期戦の構えなんじゃないか?」

「ん???」

 なんか話が繋がってない気がする。
 沈黙が生まれ、しばし目を見合わせる。先に言葉を発したのは級友の方だった。

「……クリスティーヌ様がいるし、ってまさかそのままの意味で?」

「ああ、先日侯爵様に認めていただけて」

 隠す必要はないと言われていたので素直に答える。
 これ以上ないというほど目を見開いて級友が俺の顔を見つめ、「マジか」と口が動いたのがわかった。

「本当に?」

「嘘なんて言わないよ」

 そんな嘘、とても虚しい。
 結ばれることが夢想だった時を思い出して眉を寄せると悪いと謝られた。

「疑ってるわけじゃない、ただ信じられないだけだ!
 だがおめでとう!」

 はっきりと信じられないと言われたが、悪意があるわけではないのはおめでとうと伝える満面の笑みと弾む声での祝福に笑みが零れる。
 ありがとうと伝えるともう一度おめでとう良かったなと肩を叩かれた。

「発表はしないのか?」

「まだ届出を出したばかりなんだ。
 受理されるまでは隠す必要はないけれど、態度は相応しいものを取るようにと言われている」

「そっか、まあそうだよな」

 頷いて納得していた級友がそうだと目を輝かせる。

「俺の親戚が文官で城に勤めてるんだ、アランの届出が早く受理されるようにできないか聞いてみるよ」

「そんなわけにいかないだろう。
 大丈夫だよ、侯爵様からもそれほど時間のかかるものではないと聞いているし」

 高位貴族と王家が微妙な関係だとしても婚約届を否認することなどありえなく、俺の除籍届のように時間がかかるわけもない。
 そんな根回しをしてもらう必要はないんだ。その親戚の人もそんなことを頼まれても困るだろう。
 心配いらないから大丈夫だよと答えると級友もそっかと笑った。
 なんかその笑みに不安を感じたので、重ねて大丈夫だからと伝えると心配するなとイイ笑顔が返ってくる。
 なぜだろう、余計に不安になった。


しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。 そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間―― 「君との婚約を破棄することが決まった」 皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。 だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。 一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。 真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。 これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

処理中です...