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四年目 ~冬期休暇 そして春へ~
四侯(+α)の意味
しおりを挟む退位を求められ頭が真っ白になったのか国王は固まったまま動かない。
しばらくしてようやく動きだした国王の顔には歪な笑みが貼りつけられていた。
「馬鹿な……、この程度のことで退位だと?」
国王の発言にレオンが口を開く。
「この程度とは、何を指して言っているのですか?」
公爵の罪を見逃したことなのか、隠蔽に走ったことなのか、それとも公爵の罪を知りながらそれを利用していたことなのか。
何を言ってもまずいことになると理解しているからか口を引き結び答えない国王へ別の罪を口に乗せる。
「王家が公爵の罪を知りながら、公爵家からの税を増やすことで口を噤んだことも聞いております」
「な、んだと……っ」
それが誰の口から洩れたのか、わからぬわけではないようだ。
「公爵から言質は取っております。
贋金作りに加担した利益に王家が気づき、いくらかを税として納めることで『秘密の商売』を見逃す約定があったと。
それから廃鉱と偽りながら採掘を繰り返し利益を隠していたのは王領地だった頃からのようですね。
代々そうして隠し財産を作り中央貴族の取り込みに利用していたとか」
贋金だと明言はしていなくとも法に触れる内容だと知っていてのこと。
公爵を庇ったのは財源を失うのが惜しかったからでしょうかと、レオンが聞いた内容を暴露していく。
侯爵たちから鋭い視線を向けられ額に汗の玉が浮かぶほどに焦りを見せる国王。
「なんとも呆れたことよな」
「言葉もないとはこのことですね」
東侯、北侯の言葉に「全くな」と南侯が同調する。
「はは、そうか……。
あいつが自分の罪を軽くするためにでっち上げをしたのだろう。
それを貴公らは鵜呑みにしたのか!」
死罪が相当の罪だ、軽くするためならば何でも口にするだろうと唾を飛ばす。
推論に捏造で王に退位を迫るとは野心が過ぎると引き攣った笑みで虚勢を張った。
証拠などないと高を括っているのだろう。
「王家が公爵家から不自然な増税を受け入れた記録は、文官の協力のもと手に入れております」
お望みであれば後でお持ちしますよと告げると、仇のように俺を睨む。
こんなちっぽけな人間に多くの者が振り回されその身を脅かされているのかと思うと不快感が募る。
「だとしても、それだけで退位などありえないだろう!?」
とうとう醜い本音を晒し地位にしがみつかんとする国王へ冷ややかに告げる。
「本当にそれだけが理由だと思っているんですか?」
俺の発言へどういう意味だと問う視線を向ける王へ退位を求める理由を重ねた。
「繰り返しますが我々が問題にしているのは王家の隠蔽です。
それは何も縁談のことだけを言っているのではありません」
まだ意味がわからないといった顔をしている王へ一番の罪を突き付けた。
これが侯爵たちが最大の問題だと退位を迫る決め手となったことだと告げて。
「自身らの罪が明るみに出る可能性を消すために贋金事件の犯人たちへ死罪を言い渡したこと、これはどのような理由を並べ立てようと許されることではない」
王が下した判決は国に属する者全てに取って脅威だった。
これを許せば王家に都合が悪いというだけで命を奪われるきっかけになりかねない。
今回のことでは相手は実際に罪を問われる立場だった。
しかし犯した罪に不相応な罰を言い渡された者もいる。
これが冤罪にまで及んだら?
一度手を染めたら、二度目はもっと簡単に線を踏み越える。
いずれ罪に手を染めずとも王家に不都合な者を消すための方法として使われかねない。
その懸念が侯爵様たちを動かした。
「潔く退位していただきたい」
「私が退いたらこの国はどうなる……」
南侯の言葉に往生際悪く言葉を吐く国王に黙っていた侯爵が翠の瞳を開く。
「一から十まで説明されねばわからないと?」
どれだけ恥を晒せば気が済むのかと言いたげに静かな声で問う。
向けられた翠色に国王が薄灰の瞳を見開く。
「愚行で国を傾けた王の後、王家の血は薄まる一方。
由緒正しい血を引き継ぐために受け入れたはずの東侯の姉君を蔑ろにし、血統に何の意味も持たない下級貴族の娘を寵愛し子を成しその子供を時代の王とする。
そこまでは先代の侯爵たちも受け入れた。
別に王など飾りに過ぎないからな。
だが、王家の役割をはき違え自身たちの都合の良いように国を動かそうとするのはやり過ぎた」
王の役割などただの飾りだと言い切った南侯へ、さすがに言いすぎだよと南公が翠色の瞳を細め苦笑する。
確かに愚王以降はその傾向が強いけどと認めながらも複雑な気持ちのようだった。
「自分たち意外に王の血が流れていないと安心していたというのなら筋違いですね。
私にも東侯にも、南侯たちにも王家の血は流れています」
我が家に流れているのは細々とした物ですがと含んだ笑みを送る。
さすがにもう気づいているでしょう、そう告げるような笑みだった。
「今さら説明の必要はないと思っていましたが、改めてご説明申し上げましょう」
髭を撫で、東侯が大仰な口調で説明を買って出る。
「愚王が国を傾けた話は有名ですが、それを正した王、愚王から見たら従兄弟の関係ですな。
彼の王には子がなく、愚王の子に王位は引き継がれた。
それから数代、王家は愚王の時代に力を付けた我らが侯爵家を筆頭とした地方貴族を目の敵にしながらも王として最低限の体裁を保っておりました」
言葉の端々に宿る敵意に顔を青褪めさせるも向けられる侯爵様や南侯の視線が王の反論を許さない。
愚王とはっきり口にしても誰からも咎める声は上がらなかった。
「そして先代の頃、我が家から王妃を迎えることを王家が求めた。
中央の新興貴族を取り込むための縁談を重ねてきた結果、王家の血が薄まっているのではないかとの懸念が出たためです」
古い家柄で王家の血がそれなりに濃く入っており年頃の合う娘がいたというだけで、と鋭い眼光で国王を見据える。
「先王は父親が勝手に決めたことと内心反発を覚えていたようですな。
しかし婚姻は大人しく受け入れ、その後で愛人を作り王妃より先に子を成した」
これには私の父は元より当時の王も憤慨しておりましたよと、当時を知るわけもない現王へ王家のもう一つの罪を突き付ける。
国のためと望んだわけでもない婚姻を押し付けておきながら、涙を呑んで嫁いでいった令嬢を蔑ろにした。
自身の欲を優先し、国のためという名分さえ踏みにじった罪。
「先にという言い方もおかしいですかな、蔑ろにされた王妃は子を成すことなく若くして亡くなりましたから」
他者、それも非業の死を遂げた王妃の身内から聞かされる自身の父の罪に国王が顔色を悪くする。
悲境に落とされた王妃とそのように彼女の身を貶めたのが自身の父、ひいては自分の存在であることを恥じる気持ちが多少でもあれば、額ずくことはできずとも東侯へ神妙な態度を取っただろう。
顔を青くしているのが自身の進退だけであるのを知っているため、向けられる視線は厳しいものだった。
「ともかく次の王になると決まったのが更に血の薄まった不義の子だったわけです」
当時の議会は相当紛糾したようですと年長の東侯が語る。
「いっそ他の血の濃い家から養子を迎えて王家を再興した方が良いのでは。
そういった意見が出たのも当然の流れでした」
しかし結果としてそうはならなかった。
「『変えるのはいつでもできる』それが我らの先代の出した結論です。
致命的な決裂はもう起こった、この先を遠巻きに見届けてからでも十分ではないかと」
国を割るほどの地方貴族と王家の断裂は東侯の姉の件をきっかけにもう始まっている。
王家の様子を見ながら力を蓄え、いざという時に即座に動けるようにしておけば良い。
王家が分をわきまえそれなりの統治をするのであれば、わざわざひっくり返すことはすまいというのが当時の四侯の間で交わされた約定だった。
いつでも王家を挿げ替えることはできたと言われた国王が青を通り越して顔を白くさせた。
「そしてお忘れのようですが、王統に繋がる家がもう一つあるのですよ。
愚王の血が流れない、王の血統が」
東侯の目が一人の人物に向けられる。
釣られるように視線を送った相手に翠色を向けられ、王が息を呑み肩を震わせる。
これまでの言葉が戯言でないのをはっきりと感じたようだった。
終わりを悟った国王へ侯爵様が引導を渡すため口を開く。
「愚王の前の代、元々の王家に連綿と受け継がれていた特徴をご存じですか?」
侯爵様の問いに国王が唇を震わせる。
けれど言葉にはなることはなかった。
「翠色の瞳、それが古い王家の血統を表す特徴です。
愚王の叔母に当たる姫が南方の王領地を賜り南侯の子息の一人を迎えたところから南公の家は始まりました」
公爵は一代限りだが姫の子は功績を残し侯爵位を賜ることとなった、それが他の地方とは違い南に侯爵家が2つある理由だ。
元から南侯を名乗っていた侯爵家を立て一歩引いているが、時に『南公』と呼ばれることもある彼の家。
「積極的に血を薄めていた現王家よりもその身に流れる血は由緒正しい、そうは思いませんか?」
侯爵様が向けた刃を隠した笑みに声もなく椅子に身を預ける国王。
代えの利かない存在であるという縁を奪われ、反論の気力もなくなったようだった。
「とうに王統からは外れているし別に王位など望んではいないのだけれど、これ以上は看過できないね。
私も、国が潰れることは望んでいないから」
南公がそう後を引き取る。
望んでいなくとも役割を果たす責任はあると決意の光をその翠色の瞳に宿していた。
「馬鹿な……」
唇を戦慄かせ降って湧いた廃位を受け入れられず、尚も頷かない国王へ侯爵様が言葉を重ねる。
「どうしても納得できない、そう言われるのでしたら王家の罪を理由に引き摺り下ろさねばならなくなります。
穏便にできるうちに自らその座を明け渡してください」
四侯で集まったのは国内を大きく揺るがす王家の罪を明るみに出さないため。
諸侯に大きく知られれば動揺大きく諸外国へ付け入る隙を生むとの懸念から、この罪は表には出さないと計画の原案の段階から話してあった。
抵抗を続けその座にしがみつくのであれば凄惨さを極める結果になりかねませんが、と笑う侯爵様へ国王が項垂れる。
それは事実上の敗北宣言だった。
「ではめでたく譲位が決まったところで次の話に参りましょうか」
国王が退位を受け入れたところで侯爵様たちから話を引き継ぐ。
理解できないといった視線を向ける国王へ穏やかに言い聞かせる声で言葉を続けた。
「罪があれば罰があるのは必然でしょう?
退位してそれで終わり、無罪放免になるなどおかしくはないですか?」
国王が下した理不尽な命で生命の危機に陥っている者もいるのにと言い含めるような笑みを向ける。
廃位を受け入れればそれで終わりだと思っていた国王の甘さに、絶望することはないと微笑む。
「大丈夫ですよ、国王が言い渡した罪よりは乱暴ではありませんから」
ちゃんと行為と結果は等しくなるように考えてありますからと告げると、不思議なことに国王の身が更に震え出した。
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