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四年目 ~冬期休暇 そして春へ~
王族の罪
しおりを挟む顔色を悪くする西侯からついと視線を逸らし国王を見据える。
「公爵家が贋金のために金属を卸していたのは確実なようですが、王はどうお考えか?」
公爵家、王族の不始末にどう責任を取るのかと南侯に問われ額に汗をかき始める国王。
どうすれば責任を公爵だけに留められるのかとでも考えているのか。
焦りを浮かべた顔はありもしない打開策を必死に探っているように見えた。
「……犯した罪が明白であるのなら公爵家であろうと逃れられはしない」
国王の返答に翠色の目を細めて微笑む南の侯爵と、浮かべた笑みを変えないまま発する空気だけ冷たくする侯爵様に、隣のレオンがわずかに肩を強張らせた。わかる、怖い。
自分も同じように怒っていなければ侯爵様の空気に圧倒されて肝を冷やしただろう。
だから目の前のような鈍感な人間が理解できない。羨ましくもないが。
「弟であろうとも罪は罪、裁きに私情は挟まぬ」
鼻白んだ空気を感じ取れないのか尚も続ける国王を制止すべく卓に手を乗せる。
国王が言葉を止めたのを見て目配せを送り口を開く。
「公爵の罪は明白ですが、この会談の場を設けたのは公爵の処遇を決めるためではありません」
俺の言葉に続き、その程度で集まるほど我らも暇ではないなと隣の東侯が国王を煽る。
「私たちが問題にしているのは公爵の罪ではなく、それを隠蔽しようとした王家の罪についてです」
はっきりと『王家の罪』と口にしたことで国王の敵意が俺に移る。
東侯の息子に名を連ねたとはいえ、これまで王が見聞きすることもなかったような者。それも自身の半分にも満たない若造に言われるなど許しがたいだろう。
睨みつける視線に余計な感情が乗らないように冷静に言葉を続ける。
「北侯が述べましたようにご息女へ持ち掛けた縁談、これは公爵家と北侯のご息女を結びつけることで北侯の口を噤ませる為のものでしょう。
何かの拍子に公爵家の罪が明らかになっても、ご息女が巻き込まれると知れば北侯が罪を糾弾しきれないと考えての」
西方の立て直しなどその建前に過ぎない。
「もちろん、お二人の婚姻とその結果により西方が落ち着けばそれも良しとしたのでしょうが。
特段それを期待しているわけではなかった」
公爵の子息にその能力があるかなど未知数だし、これまで目立った活躍や働きの聞こえてこない子息に振る任務にしては荷が勝ちすぎている。
侯爵様の助けを期待して、というよりは侯爵様の力を削ぐことを目的としていたと考える方が自然だ。
万が一助けを得て西方の立て直しが成功すれば僥倖、その程度で。
そしてクリスティーヌ様が公爵家の罪を共に負うことになれば侯爵様に、侯爵家に対する人質として機能する。
どうなっても王家に損はないと考えたんだろう。
深い苛立ちが胸を焦がす。
「馬鹿な、甥と婚姻したところで公爵家の罪とは関係あるまい。
甥と婚姻すれば新しい家を興すことを許していたのだからな」
国王が薄ら笑いを浮かべ否定の声を上げる。
俺の発言に穴を見つけ喜色を浮かべた国王が落ち着きを取り戻す。
こちらに向けた目からは言い逃れる隙を作る若造と侮りが見えた。
この場を用意している以上、そんなに甘い訳がないのに。
「ええ、そうですね。
しかし、公爵のみならず子息まで罪に染まっていたとなれば別の話です」
国王を見据えゆっくりとした声で告げる。
こちらの自信が見えたのか国王が顔色を変えた。
先ほどの発言には調査に裏打ちされた根拠があるのだと。
「子息の罪とは?」
南の侯爵が問いを向ける。
家が伯爵家から贋金の見返りを受けていた、それだけではないんだろう?と翠色の瞳を愉快げにきらめかせ言葉を誘う。
「家の罪を知っていた、それだけではなく自身も積極的に贋金を流していたことが判明しています。
多くは女性を通してのようですね」
派手に遊んではいなくても金払いの良い客は記憶に残りやすい。
中には心づけとしてもらった半金貨を記念にと取っている者もおり、証拠には不自由はしなかった。
年季が明けたらこれで商売でもやろうかと笑っていた彼女たちに真実を明かすのは心苦しかったが、事情を明かすと意外にもすんなりと受け入れ証言と引き換えに報酬をくれないかと取引を持ち掛けるしたたかさを見せた。
やっぱりそんなことだと思ったと笑う切り替えの早さに、赴いたこちらの方が戸惑ったくらいだ。
聞かされた甥の醜聞に国王が怒りで顔を染める。
愚か者めがとの低い呟きに籠められたのは何の怒りか。
罪の大小ではなく恥を重く捉えているような発言に南の侯爵から失笑が零れた。
「そんな相手を北侯の息女へ薦めていたとはね」
大事な娘にそんな男を薦められたのでは北侯が怒るのも当然ですよと嗤われ国王が否定を唱える。
「あやつがそのような遊興に耽っていたなど預かり知らぬことだ!
それに控えめに遊んでいたくらいなら目くじらを立てることでもないだろう……!」
「――さすがは不義の関係から生まれた王ですな」
なんとも寛容なことだと嗤われ東侯を睨みつける。
王の睨みなど痛くも痒くもないといった態度の東侯。
東侯の姉は王妃として先王に嫁いだ。
夫に顧みられず若くして儚くなった姉君のことが東侯と王家との確執となっている。
姉君が嫁いだばかりの頃から不義の関係を持っていた先王、その結果生まれた現王のことも快く思ってはいない。
身内を蔑ろにされた恨みを未だ忘れぬ東侯、国王に直接の恨みがあるわけではなくとも先王と重なる発言に怒りを禁じえないようだった。
逸れていく話を南の侯爵が元へ戻す。
「そんなことを問題にしているのではないんですよ、国王」
焦りを浮かべ言い訳を紡ぐ国王へ呆れを通り越して侮蔑を浮かべた南の侯爵。
ここまで問題をはき違えて捉えられるとわざと煙に巻くつもりなのかと思うと嗤う彼に対して、それにしては下手なやり口だと南侯が真面目ぶった声で呟く。
「もうお忘れのようですが私たちが問題として挙げているのは、王族が贋金を作り国内に流した罪、それから王家が行ったその隠蔽についてです」
侯爵様も冷笑を浮かべ国王へ優しく説くように述べる。
馬鹿にされていることが伝わったのか怒りに顔を赤に染めた。
――本当に恥を知らない。
この場を主催した者たちの思いが揃ったのを感じた。
これではいつまでも話が進まないと大きく本題に向かって舵を取る。
「ええ、その中で一番大きな問題は王家の隠蔽です」
「な……っ!」
驚愕に咄嗟の反論が出ない国王へ言い聞かせるように説明をしていく。
「王家が公爵の罪を知っていてそれを放置したのみならず、積極的に隠蔽を図った。
これは国を揺るがす大問題です」
その自覚すらないのですかと厳しい声で東候が問う。
「まさか我々が集まったことを、そこまで軽く考えていたとは……。
呆れたものです」
四侯のみならず私がいた意味にも気づかない程とはね、と呟くと翠色の瞳を伏せもう何も言うことはないと口を閉じた。
「なんだ、何が言いたい!
さっきから隠蔽だのなんだのと! 全てそなたらの推論だろうが!」
声を荒げ自身が挙げられている罪を推論に過ぎないと言い逃れる。
その言葉に笑みを深めた侯爵様が国王へ突きつけた。
「推論で国王の退位を求めるほど我らは夢見がちではありませんよ」
国王が息を呑み手を震わせる。
隣の西侯も本気なのかと居並ぶ侯爵たちの顔を見回す。
返ってきた視線に、ようやくこの会談が最初から国王を退位させるために開かれたものであることを悟ったようだ。
信じられないと首を振った西侯へ、南侯が横目に冷たい視線を送る。
これ以上この王家を残しておく利などない。
それが北、東、南の各侯爵の総意だった。
「我々は国王の退位、王家がその座を明け渡すことを求める」
侯爵様の言葉を引き取り、南侯が国王に要求を突き付ける。
四侯の内の三人による突然の廃位要求に思考が追いつかないのか、国王は言葉を発することもできなかった。
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