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昨日と同じように彼女の部屋をノックする。
セシリアはすでに起きていたらしくすぐに応えがある。部屋に入ると昨日と同じようにベッドに半身を起こしてドアの方を向いていた。
「セシリア、おはよう」
「イリアス様、おはようございます」
部屋に入ると花のような笑顔で迎えてくれる。
ショックを受けていないはずはないのに、辛い顔を見せない彼女に僕は感心していた。
「調子はどうだい?」
「ええ、とても良いです」
「そうか」
あれから二日、彼女はこの屋敷で静養を続けている。
今日は顔色もいいようで、そろそろベッドから出た方がいいかもしれない。医者のお墨付きも出たことだし。
「それなら、屋敷内の散歩をするのもいいかもしれないな」
今日は天気もいいし、風邪をひくこともないだろう。
ただ一つ、気掛かりなこともあった。ベッドの横に腰掛けて確認する。
「目を開けて…。 やはり、見えないかい?」
僕の言葉に従って彼女の紫碧が姿を現す。
鮮やかな色は初めて見た時と同じ衝撃を僕に与えた。
信じられない、この瞳が何も映していないなんて。
「ええ…、真っ暗です」
「そうか…」
そう。彼女は視力を失っていた。
原因は不明。意識を失う前は普通に見えていたらしい。
あの後、帰した医者を呼び戻してもう一度診てもらったが、眼自体に異常はないらしい。
「今日の昼過ぎにまた医者が来る。 僕は城に行かなければならないから同席はできないが、代わりにフレイを同席させる。
何かあれば彼に聞くといい」
セシリアを見せた医者は王家とも関わりがあり、時には他国の賓客を診察することもある。
当然公用語も話せるのでフレイを同席させる必要はないのだが、突然視力を失ったという現実に、一人で向かわせるのは心配だった。
「僕が同席出来ればよかったんだが…。 すまない」
「そんな…! イリアス様には何から何までお世話になって…。 本当にありがとうございます」
感謝します、と頭を下げるセシリア。
落ち着いた振る舞いを見せる彼女の強さを好ましく思う。
その一方で、それを寂しく感じている自分がいる。
おかしな思考だ。
「入ってくれ」
矛盾した思考を打ち切り、扉の向こうに待たせていた人物に呼びかける。
ドアを開けて一人のメイドが入ってくる。
「ミリアレーナだ。 今日から君の身の回りの世話をする」
突然のことでいろいろと不安なこともあるだろう。その負担を少しだけでも減らしたくてミリアレーナにはセシリアの世話を専属でしてもらうことにした。
よく気も利き、公用語が話せる彼女ならセシリアの話し相手にもなれるだろう。年も近いようだし。
ミリアレーナに向かってセシリアは笑顔で一礼した。
「セシリアと申します。これからよろしくお願いします」
自分に向けられた微笑みを見て、ミリアレーナは真っ赤になった。
「! よ、よろしくお願いします!」
ミリィは幼い見た目に反してしっかりした娘だ、きっとセシリアを助けてくれるだろう。
セシリアはすでに起きていたらしくすぐに応えがある。部屋に入ると昨日と同じようにベッドに半身を起こしてドアの方を向いていた。
「セシリア、おはよう」
「イリアス様、おはようございます」
部屋に入ると花のような笑顔で迎えてくれる。
ショックを受けていないはずはないのに、辛い顔を見せない彼女に僕は感心していた。
「調子はどうだい?」
「ええ、とても良いです」
「そうか」
あれから二日、彼女はこの屋敷で静養を続けている。
今日は顔色もいいようで、そろそろベッドから出た方がいいかもしれない。医者のお墨付きも出たことだし。
「それなら、屋敷内の散歩をするのもいいかもしれないな」
今日は天気もいいし、風邪をひくこともないだろう。
ただ一つ、気掛かりなこともあった。ベッドの横に腰掛けて確認する。
「目を開けて…。 やはり、見えないかい?」
僕の言葉に従って彼女の紫碧が姿を現す。
鮮やかな色は初めて見た時と同じ衝撃を僕に与えた。
信じられない、この瞳が何も映していないなんて。
「ええ…、真っ暗です」
「そうか…」
そう。彼女は視力を失っていた。
原因は不明。意識を失う前は普通に見えていたらしい。
あの後、帰した医者を呼び戻してもう一度診てもらったが、眼自体に異常はないらしい。
「今日の昼過ぎにまた医者が来る。 僕は城に行かなければならないから同席はできないが、代わりにフレイを同席させる。
何かあれば彼に聞くといい」
セシリアを見せた医者は王家とも関わりがあり、時には他国の賓客を診察することもある。
当然公用語も話せるのでフレイを同席させる必要はないのだが、突然視力を失ったという現実に、一人で向かわせるのは心配だった。
「僕が同席出来ればよかったんだが…。 すまない」
「そんな…! イリアス様には何から何までお世話になって…。 本当にありがとうございます」
感謝します、と頭を下げるセシリア。
落ち着いた振る舞いを見せる彼女の強さを好ましく思う。
その一方で、それを寂しく感じている自分がいる。
おかしな思考だ。
「入ってくれ」
矛盾した思考を打ち切り、扉の向こうに待たせていた人物に呼びかける。
ドアを開けて一人のメイドが入ってくる。
「ミリアレーナだ。 今日から君の身の回りの世話をする」
突然のことでいろいろと不安なこともあるだろう。その負担を少しだけでも減らしたくてミリアレーナにはセシリアの世話を専属でしてもらうことにした。
よく気も利き、公用語が話せる彼女ならセシリアの話し相手にもなれるだろう。年も近いようだし。
ミリアレーナに向かってセシリアは笑顔で一礼した。
「セシリアと申します。これからよろしくお願いします」
自分に向けられた微笑みを見て、ミリアレーナは真っ赤になった。
「! よ、よろしくお願いします!」
ミリィは幼い見た目に反してしっかりした娘だ、きっとセシリアを助けてくれるだろう。
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