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「すごい…!」
感心したように呟いて息を漏らす。
街の東にある市場は昼を過ぎて人を減らしていたがそれでも活気があり、人の声が行き交っていた。
雑踏の中ではぐれないようセシリアの手を取り、微笑みかける。
「セシリアは市場に来るのも初めてなんだろう?」
ほとんど外に出たことがないと言っていた。
瞳を見せることを恐れるのなら人ごみへ出かけることなどなかっただろう。僕の考えを肯定するようにセシリアが小さく頷く。
繋いだ手に伝わる緊張が可笑しくて、ふっと笑ってしまった。
「どうしました?」
聞きとがめたセシリアは不思議そうに首を傾げる。
御前での衆目の方が圧力は凄かったと思うが、雑踏の方が緊張するらしい。
「いや、さっきより緊張してると思っただけさ。 陛下や姉上の前の方が落ち着いていた。 やっぱりああいう場の方が慣れているのかな?」
「セイレーヌといっても私は一月も任にありませんでしたから……」
慣れるほど祭事に出たことはないと言う。しかしそうは見えないほど板に付いていた。
「そうかい? でもさっきより緊張してる」
僕の言葉にセシリアがはにかむ。薄く朱に染まった頬にどきっとする。
「それは、あの、…を」
「え?」
「手を、こうして繋ぐなんて初めてなので、少し恥ずかしいです…」
消えるような声で告げられた台詞に心臓が大きく鳴った。
「エスコートとは違うものなのですね。 なんだか上手く言えないですけれど…」
話すセシリアの頬が赤みを増していく。
恥らう様子に、つられて頬が熱を持つ。
照れくさそうに顔を見合わせると彼女が僕の胸に飛び込んできた。
「きゃっ」
「大丈夫か?」
どうやら後ろから子供にぶつかられたらしい。
「ごめんなさい!」
6,7歳くらいの子供がセシリアの後ろから出てきた。
身をかがめて声の高さに目線を合わせる
「大丈夫ですよ。 あなたこそ痛いところはありませんか?」
「大丈夫」
ごめんなさいと口々に謝って走り去っていく。
「元気ですね」
微笑ましそうにセシリアは笑う。
「ああ、この辺りの商店の子だろうな」
「神殿にはあまりに小さな子はいなかったので子供たちだけで遊んでいる姿は少し驚きます」
子供って意外と足が速いのですね、と笑うセシリアに陰は見られない。
「イリアス様、あれは何ですか?」
通りの真ん中に屋台があるのがわかったようで細い指で指し示す。
「あれは果汁を搾ったジュースを出してる屋台だよ。 ちょうどいいから何か買っていこうか」
セシリアの手を引いて屋台に向かう。
「アップル、ストロベリー、オレンジ、キウイ、レモン、…、結構種類が多いな」
普通の屋台は2種類か3種類くらいだがこの屋台は全部で5種類もの果実を扱っているようだ。
「セシリアは何がいい?」
果実を選んだら好みで炭酸やミルクと割ってくれるという。このタイプの屋台は初めて見た。
「では、ストロベリーにミルクがいいです」
「僕はレモンを炭酸で割ってくれるかな」
注文した品を受け取って近くのベンチに座る。
「わあ…! おいしいです!」
一口飲んで、セシリアが感嘆の声を上げる。僕も頼んだ物を口にして驚いた。
「本当だ、とてもおいしい」
果汁は甘いからあまり好きではない。けれどこれは飲みやすくていい。
「普通の屋台は果汁を搾っただけで提供しているのだけれど、おもしろいね」
新しいスタイルでこれから流行りそうだ。
「いい天気で気持ちいいですね」
陽は暖かく、風は爽やかで気持ちが穏やかになる。
「そうだね…、良い日だ」
「イリアス様、今日はありがとうございました。
エスコートもそうですけれど、ここに連れて来てもらって、とても楽しいです」
「そうかい? 良かった」
「私、イリアス様と会えて本当に良かったです」
幸せそうに笑うセシリア。僕の方こそそう思っている。
「イリアス様?」
頭を撫でて激情をやり過ごす。
時折こうして無邪気に感情を煽ってくれる。
ままならない感情にすら幸せを感じるのは何故だろうか。
「ふふ…」
セシリアがくすぐったそうに笑う。
「僕もセシリアに会えて良かったよ。 毎日とても楽しい」
同じ時間を過ごして、二人で笑って、こんな毎日が続けばいい。
そう、強く思った。
感心したように呟いて息を漏らす。
街の東にある市場は昼を過ぎて人を減らしていたがそれでも活気があり、人の声が行き交っていた。
雑踏の中ではぐれないようセシリアの手を取り、微笑みかける。
「セシリアは市場に来るのも初めてなんだろう?」
ほとんど外に出たことがないと言っていた。
瞳を見せることを恐れるのなら人ごみへ出かけることなどなかっただろう。僕の考えを肯定するようにセシリアが小さく頷く。
繋いだ手に伝わる緊張が可笑しくて、ふっと笑ってしまった。
「どうしました?」
聞きとがめたセシリアは不思議そうに首を傾げる。
御前での衆目の方が圧力は凄かったと思うが、雑踏の方が緊張するらしい。
「いや、さっきより緊張してると思っただけさ。 陛下や姉上の前の方が落ち着いていた。 やっぱりああいう場の方が慣れているのかな?」
「セイレーヌといっても私は一月も任にありませんでしたから……」
慣れるほど祭事に出たことはないと言う。しかしそうは見えないほど板に付いていた。
「そうかい? でもさっきより緊張してる」
僕の言葉にセシリアがはにかむ。薄く朱に染まった頬にどきっとする。
「それは、あの、…を」
「え?」
「手を、こうして繋ぐなんて初めてなので、少し恥ずかしいです…」
消えるような声で告げられた台詞に心臓が大きく鳴った。
「エスコートとは違うものなのですね。 なんだか上手く言えないですけれど…」
話すセシリアの頬が赤みを増していく。
恥らう様子に、つられて頬が熱を持つ。
照れくさそうに顔を見合わせると彼女が僕の胸に飛び込んできた。
「きゃっ」
「大丈夫か?」
どうやら後ろから子供にぶつかられたらしい。
「ごめんなさい!」
6,7歳くらいの子供がセシリアの後ろから出てきた。
身をかがめて声の高さに目線を合わせる
「大丈夫ですよ。 あなたこそ痛いところはありませんか?」
「大丈夫」
ごめんなさいと口々に謝って走り去っていく。
「元気ですね」
微笑ましそうにセシリアは笑う。
「ああ、この辺りの商店の子だろうな」
「神殿にはあまりに小さな子はいなかったので子供たちだけで遊んでいる姿は少し驚きます」
子供って意外と足が速いのですね、と笑うセシリアに陰は見られない。
「イリアス様、あれは何ですか?」
通りの真ん中に屋台があるのがわかったようで細い指で指し示す。
「あれは果汁を搾ったジュースを出してる屋台だよ。 ちょうどいいから何か買っていこうか」
セシリアの手を引いて屋台に向かう。
「アップル、ストロベリー、オレンジ、キウイ、レモン、…、結構種類が多いな」
普通の屋台は2種類か3種類くらいだがこの屋台は全部で5種類もの果実を扱っているようだ。
「セシリアは何がいい?」
果実を選んだら好みで炭酸やミルクと割ってくれるという。このタイプの屋台は初めて見た。
「では、ストロベリーにミルクがいいです」
「僕はレモンを炭酸で割ってくれるかな」
注文した品を受け取って近くのベンチに座る。
「わあ…! おいしいです!」
一口飲んで、セシリアが感嘆の声を上げる。僕も頼んだ物を口にして驚いた。
「本当だ、とてもおいしい」
果汁は甘いからあまり好きではない。けれどこれは飲みやすくていい。
「普通の屋台は果汁を搾っただけで提供しているのだけれど、おもしろいね」
新しいスタイルでこれから流行りそうだ。
「いい天気で気持ちいいですね」
陽は暖かく、風は爽やかで気持ちが穏やかになる。
「そうだね…、良い日だ」
「イリアス様、今日はありがとうございました。
エスコートもそうですけれど、ここに連れて来てもらって、とても楽しいです」
「そうかい? 良かった」
「私、イリアス様と会えて本当に良かったです」
幸せそうに笑うセシリア。僕の方こそそう思っている。
「イリアス様?」
頭を撫でて激情をやり過ごす。
時折こうして無邪気に感情を煽ってくれる。
ままならない感情にすら幸せを感じるのは何故だろうか。
「ふふ…」
セシリアがくすぐったそうに笑う。
「僕もセシリアに会えて良かったよ。 毎日とても楽しい」
同じ時間を過ごして、二人で笑って、こんな毎日が続けばいい。
そう、強く思った。
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