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フレイの忠告
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「これは……、なんですか?」
テーブルの上に散らばった紙切れを見てフレイは切り出した。
「見ればわかるだろう」
「わかりませんよ、こんなに細かくなっていたら」
フレイが言ったとおり、何度も何度も切り裂かれた切れ端はかろうじて名前が読み取れるくらいで、原型を留めていない。
「きちんと説明してくれませんか。
セシリア様に関係のある、……重要な話なのでしょう?」
読み取れた中にはセシリア様の名前があり、イリアス様の不機嫌の理由が知れる。
「冷静に話が出来る自信はないが、かまわないか?」
イリアス様の様子を見て予想はしていたが、余程のことが書いてあるらしい。
フレイが頷くと紙切れから目を逸らして話し出した。
「そこにある手紙。 実に不快なことが書いてある」
手紙にはフレイが予想していたものと大して違わず、イリアス様を怒らせるには十分な内容が書いてあった。
曰く、生誕祭でのセシリアの歌には大変感激した。
ついてはセシリアを当家で召し抱えたい。
話を付けてくれた場合相応の礼をする。
要約するとそのような内容だった。
「セシリア様を召し抱えたい…、ですか」
歌もさることながら容姿も素晴らしいと滲ませてきた文面からは卑しい欲心があってのことだと伝えている。
「つまりセシリア様を愛人にしたいから譲ってくれ、ということですか」
はっきりと口にするとイリアス様の目がさらに鋭さを増した。
「汚らわしい表現をするな」
イリアス様が低い声で吐き捨てる。
「言い方を変えても同じことですよ」
大切にしているセシリア様にこんな言い寄られ方をされたら不快に思うのも当然ではあるが…。
「それで、どうするつもりですか」
「こんな人間に渡せる訳ないだろう」
そういう返事が返ってくると思っていたけどそんな問題じゃない。
「では聞きますが、違う方にならセシリア様を譲るのですか」
このような申し込みではなくセシリア様と想いを交わし、正式に付き合いを申し込んできたとしたら―――。
「それを許せるのですか?」
「……!」
「黙っていては何も伝わりませんよ」
「わかっている…!」
苦々しそうに声を絞り出す。
「……」
「セシリア様を縛りたくないなんて馬鹿なことを考えているんですか?」
「なっ…!」
「セシリア様を大切に想う気持ちはわかります。 あの方は清らかすぎて少しの穢れでも濁ってしまう清水のようだ」
だからこそ触れることをためらってしまうのだろう。
一瞬目を閉じてセシリア様の姿を浮かべる。
物語から抜け出たような神秘的な雰囲気を纏う姫。
少女のように無防備に笑う顔を見ていると庇護せずにはいられなくなってしまう。
けれど、簡単に泥水に染まってしまうような底の浅い方でもない。
「本当はわかっているのでしょう。 セシリア様は他者の穢れに堕としめられるような方ではないと」
絶えず水の湧き出す泉のようなものだ。
どれだけ水を掻き回しても一部の色が変わるだけで、やがて新しい水に流されて消えてしまう。
「あの方は強い。 貴方の助けが無くても生きていける」
一番言われたくないことだったろう。庇護する理由がなくなれば傍にいる理由もなくなってしまうから。
「だが…!」
「不安定なセシリア様の立場を考えればイリアス様の庇護は中途半端なものです。
いっそイリアス様の下を離れたほうが…」
「言うな!」
フレイの言葉は激昂したイリアス様の声に遮られた。
この方が感情のまま声を荒げることなど何度あっただろう。
瞳の中の感情を読まれることを厭い、頑なに視線を合わせようとしない。
だが、複雑な胸中は震える拳に現れている。
「手を離したくないのなら、対策を講じるべきです。 放っておけば後悔しますよ」
「だが、僕は……。 セシリアの意思を無視したくない」
呆れて盛大な溜息を吐いてしまった。
「方法はいくらだってあるでしょう、怖がっているだけでは失いますよ」
俯いたままこちらを見ないイリアス様にため息をもう一つ吐いて部屋を辞去する。
「失礼します」
懊悩するイリアス様は、もうこちらの言葉など聞こえていないようだった。
テーブルの上に散らばった紙切れを見てフレイは切り出した。
「見ればわかるだろう」
「わかりませんよ、こんなに細かくなっていたら」
フレイが言ったとおり、何度も何度も切り裂かれた切れ端はかろうじて名前が読み取れるくらいで、原型を留めていない。
「きちんと説明してくれませんか。
セシリア様に関係のある、……重要な話なのでしょう?」
読み取れた中にはセシリア様の名前があり、イリアス様の不機嫌の理由が知れる。
「冷静に話が出来る自信はないが、かまわないか?」
イリアス様の様子を見て予想はしていたが、余程のことが書いてあるらしい。
フレイが頷くと紙切れから目を逸らして話し出した。
「そこにある手紙。 実に不快なことが書いてある」
手紙にはフレイが予想していたものと大して違わず、イリアス様を怒らせるには十分な内容が書いてあった。
曰く、生誕祭でのセシリアの歌には大変感激した。
ついてはセシリアを当家で召し抱えたい。
話を付けてくれた場合相応の礼をする。
要約するとそのような内容だった。
「セシリア様を召し抱えたい…、ですか」
歌もさることながら容姿も素晴らしいと滲ませてきた文面からは卑しい欲心があってのことだと伝えている。
「つまりセシリア様を愛人にしたいから譲ってくれ、ということですか」
はっきりと口にするとイリアス様の目がさらに鋭さを増した。
「汚らわしい表現をするな」
イリアス様が低い声で吐き捨てる。
「言い方を変えても同じことですよ」
大切にしているセシリア様にこんな言い寄られ方をされたら不快に思うのも当然ではあるが…。
「それで、どうするつもりですか」
「こんな人間に渡せる訳ないだろう」
そういう返事が返ってくると思っていたけどそんな問題じゃない。
「では聞きますが、違う方にならセシリア様を譲るのですか」
このような申し込みではなくセシリア様と想いを交わし、正式に付き合いを申し込んできたとしたら―――。
「それを許せるのですか?」
「……!」
「黙っていては何も伝わりませんよ」
「わかっている…!」
苦々しそうに声を絞り出す。
「……」
「セシリア様を縛りたくないなんて馬鹿なことを考えているんですか?」
「なっ…!」
「セシリア様を大切に想う気持ちはわかります。 あの方は清らかすぎて少しの穢れでも濁ってしまう清水のようだ」
だからこそ触れることをためらってしまうのだろう。
一瞬目を閉じてセシリア様の姿を浮かべる。
物語から抜け出たような神秘的な雰囲気を纏う姫。
少女のように無防備に笑う顔を見ていると庇護せずにはいられなくなってしまう。
けれど、簡単に泥水に染まってしまうような底の浅い方でもない。
「本当はわかっているのでしょう。 セシリア様は他者の穢れに堕としめられるような方ではないと」
絶えず水の湧き出す泉のようなものだ。
どれだけ水を掻き回しても一部の色が変わるだけで、やがて新しい水に流されて消えてしまう。
「あの方は強い。 貴方の助けが無くても生きていける」
一番言われたくないことだったろう。庇護する理由がなくなれば傍にいる理由もなくなってしまうから。
「だが…!」
「不安定なセシリア様の立場を考えればイリアス様の庇護は中途半端なものです。
いっそイリアス様の下を離れたほうが…」
「言うな!」
フレイの言葉は激昂したイリアス様の声に遮られた。
この方が感情のまま声を荒げることなど何度あっただろう。
瞳の中の感情を読まれることを厭い、頑なに視線を合わせようとしない。
だが、複雑な胸中は震える拳に現れている。
「手を離したくないのなら、対策を講じるべきです。 放っておけば後悔しますよ」
「だが、僕は……。 セシリアの意思を無視したくない」
呆れて盛大な溜息を吐いてしまった。
「方法はいくらだってあるでしょう、怖がっているだけでは失いますよ」
俯いたままこちらを見ないイリアス様にため息をもう一つ吐いて部屋を辞去する。
「失礼します」
懊悩するイリアス様は、もうこちらの言葉など聞こえていないようだった。
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