青の光跡

桧山 紗綺

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21 彼女を飾る物

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 昼食を取った店はソフィアのおすすめと言うだけあってとてもおいしかった。
 食事の間はデリクの話題を避けるように料理を味わい、感想を言い合って楽しんだ。
 食器を下げてもらったテーブルでお茶を飲みながらこの後のことを考える。
 デリクの姿を見かけた辺りを中心に宿を探すか、それとも近くの商会を当たるか。
 アルフレッドが考え込んでいると、ソフィアもカップを見つめながら何かを思案しているのに気づく。
「ソフィア?」
 はっと顔を上げたソフィアが笑顔を作る。
「ごめんなさい、考え込んじゃった」
「いや、デリクのことだろう?」
 捜索の手順を考えていたんだろうし、謝ることじゃない。
「それもあるんだけど……。 この辺りの商会の聞き込みだと私は役に立てなさそうだなー、って思って」
「どうして?」
 余所者のアルフレッドよりソフィアの方が顔も聞くと思うんだけど。
「えっと……。 言いにくいんだけど商売敵というか……、あまり仲の良くない商会が近くにあるのよね。
 仲の良くない商会というか仲の良くない人が雇われてるというか」
 ソフィアの眉が困ったように下がる。
 珍しい。ソフィアが誰かを苦手だとか仲が良くないとか言うのを初めて聞いた。
 万人と気が合うことなんてないとわかっているけれど、それすらも楽しんでいるように見えていたから。
「そうなのか。 じゃあ宿屋の方を当たろうか」
「ごめんなさい。 付いてきておいて邪魔をしたみたい」
 邪魔なんてとんでもない。アルフレッド一人ではデリクの行方を掴むのに時間がかかったかもしれないし、こんなに早く王都に辿り着けなかった。
 ご両親も力を貸してくれるという。本来ならそこまでしないだろう。
 何度も浮かぶ感謝と謝罪は心の中で収め、違う言葉を口に乗せる。
「そんなことはないさ。 ソフィアがいなかったら王都で迷子になったかもしれない」
 おどけて言うとソフィアがふっと笑う。
「アルフレッドなら大丈夫よ。 地図を持って困った顔をしてたら女の人が案内を買ってくれるわ」
「どういう意味かな?」
 わざとらしい笑顔で問い返すと「そのままの意味よ」と躱されてしまう。
「だってアルフレッドは声をかけやすい顔……、雰囲気があるもの」
 はっきり顔と言ってからソフィアが言い直す。
 母に似たやわらかい印象の顔のおかげか女性に怖がられたことはない。
 店を立て直すために露店を始めた時に、意図的に無害そうな表情と空気を作れるように努力もした。
 客になりそうな女性に声をかける際にも助けられたので文句を言うつもりはないが、生まれたばかりの恋心がちくりと突かれて痛い。
 アルフレッドが黙ったのをどう解釈したのかソフィアがフォローを続ける。
「えっと、話しかけても大丈夫そうっていう見た目って大事よ。
 アルフレッドが困ってるので助けてくださいって言ったら仕事中でも手を止めて話を聞いてくれるわ、きっと。
 優しそうな美形が困ってたら放っておけない人は多いと思うもの」
 じいっとソフィアを見つめる。見ることに集中していないと赤面しそうだった。
 黙って言い訳するソフィアを見つめていると段々声が小さくなっていき、止まった。
「ごめんなさい……。 外見をどうこう言われるのって嫌だったわよね」
 俯いて申し訳なさそうに謝るソフィアに慌てる。
 黙っているのを怒ったと思ったようだけど、そんな意図はなかった。
「そうじゃなくて、面と向かって顔を褒められたのは初めてだったから、照れ臭くて……」
 アルフレッドが釈明すると意外なことを言われたようにソフィアが顔を上げる。
 目を丸くしてアルフレッドを見上げる視線に頬を掻く。
 赤くなっているアルフレッドの顔を見て納得したのかソフィアが肩の力を抜いた。
「良かった……。
 アルフレッドを怒らせちゃったかと思った」
 そんなに怒りっぽくはないつもりだけど、と笑うとソフィアも力のない笑みを返す。
「私だって子供のころ髪が夜の色みたいだって言われたことがあるもの。暗い色だから伸ばしても綺麗じゃないって言われたみたいで悲しかった。
 人によって言われたくないことは違うし、自分に悪い意味で言ったつもりがなくても相手を傷つけることがあるってわかってたのに……」
 膝の上で落ち着かなく手を組み替えるソフィアは言葉を続けた。
 幼いソフィアがその言葉で傷ついたんだろう。子供のうちは深く考えず、意図せぬ言葉で相手を傷つけてしまう。
 まだ落ち込んでいるソフィアにずっと思っていたことを告げた。
「俺はソフィアの髪を綺麗だって思うよ」
 アルフレッドが放った言葉にソフィアがぱっと顔を上げる。
「光が通ると青にも見えて、カットで色が変わる青玉みたいだ。
 金細工なら宵闇を照らす満月のように、銀細工なら静かな冬の月のように、アクセサリー映えする綺麗な髪だよ」
 再会したときに髪留めを贈ろうと思ってたというのは伏せてソフィアの髪の美しさを称える。
「え、えっと……!」
 驚きに顔を染めてアルフレッドを凝視するソフィアの顔が赤みを帯びていく。
「じゃ、じゃあ髪切っちゃったのは残念だったわね! アルフレッドがそう言ってくれるならきっと似合ったのに!」
 慌てながら言葉を紡ぐソフィア。
 こんな短い髪じゃ髪飾りなんてつけられないと言う前にアルフレッドは言葉を続けた。
「今のソフィアなら薄青の石を使ったピアスが似合いそうだな」
 再会したときに思っていたことを口にする。
 耳が見えるように伸ばした指で髪をかき上げ、細工もしていない石を耳に当てる。
 持っていた石はアクセサリーを作った残りで、細工も磨きもしていないのに、そこにあるのが自然だというように馴染んでいた。
「新月に輝く星みたいだ」
 鏡がないのが残念だ。とても似合っているのに。
 今度この石でピアスを作ろうと決める。自然と浮かんだ笑みで笑いかけるとソフィアは驚くくらい狼狽えた。
「あああああ、アルフレッド!?」
「どうかした?」
 自分を落ち着かせるように胸に手を当て深呼吸をするソフィア。
 首を傾げて言葉を待っていると「すごいセールストークね……」と聞こえてきた。
 全員にこんなことをしているわけではないんだけどな、と思ったが言わないでおく。
 そこまで口にしたら、別の意味があると捉えられかねない。
 そんな意図はないんだという態度でいなければ。
 でなければソフィアの側にはいられなかった。
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