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セレスタ 波乱の婚約式編

婚約式間近

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 出来上がってきた双翼の正装を袖に通してくるっと回る。
 軽く翻る布はマリナが見ても上質で、服に着られているようにならないかと不安になる。
「おかしくないかな……?」
 普段の物よりも明るい色のローブは細かな刺繍で装飾がされていてとてもきれいだ。
 マリナが考えていたような魔術的要素は全くなく、普通にデザインとして美しい。
 自分がこの衣装を着ていることが嘘みたいだ。
 袖にまで施された刺繍を撫で、現実であることを確かめる。
 こんなに早く双翼の正装を身に纏えるとは思わなかった。
 浮かれていると自分でもわかってしまう。
 油断するなと言い聞かせる。
 ここが終わりじゃない、これから始まるんだと。
 師匠にも見せたいけど、汚す前に脱いで片そう。
 婚約式の日にも顔を合わせるだろうし、これからも見せられる機会はたくさんあるはずだ。
 羽織っていたローブを脱ごうとしたとき扉が開いてヴォルフが入ってきた。
「悪いっ、と。 それ、この前言ってた正装か?」
「うん。 おかしくない?」
 ヴォルフの目の前でくるっと一回転する。
「ああ、似合ってる」
 やわらかい笑みを乗せて言われると照れてしまう。
「ありがと」
 短く礼を言ってローブを脱ぐ。
「なんだもう着替えるのか」
「うん、汚したら困るし」
 もちろん一着しかないわけではないけれど、それでも扱いに慎重になってしまうのは仕方ない。
 いつものローブに着替えて正装をしまう。
「あと少しね」
 婚約式まで日がない。
 準備をする人はさぞ忙しいだろう。
 マリナやヴォルフも忙しいけれど、まだ余裕がある。
「まずはフレスが先に来るんだったわね」
 隣国フレスが一番乗りで来るというのもなんだかおかしな気がするけれど、それだけセレスタの慶事を喜んでいるんだろう。
 婚約を発表したときも使者が真っ先に駆けつけたのはフレスだった。
 友好国としてこれからも仲良くしたいというアピールがあったとしても、うれしい限りだ。
 フレスの人は魔法技術の向上に貪欲なので、早めの滞在は空いた時間でセレスタの最新技術を視察したいという思惑も感じられた。
 双翼として他国の前に立つのが初めてのマリナもフレスの来賓とは近しく言葉を交わす機会があるだろう。
 向こうもそれを望んでいると思われた。
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