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セレスタ 波乱の婚約式編

俺とシャルロッテとアルフと爺様と 1

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 騎士団の訓練所。その休憩室で俺は従姉妹とその恋人のやり取りを胸焼けしそうな思いで見ていた。
「新作のお菓子なのだけれど、どうかしら?」
 不安そうな声でシャルロッテがアルフに作ってきた菓子を出す。
 どうせアルフに持ってくる前に家で散々練習してきたんだろう、絶対普通以上に美味いし、それをアルフが不味いなんていうはずもない。
「……! おいしい!
 いつも美味しいけれど、これもとてもおいしいよ。
 中に入ってる果物が爽やかで……、好きだな」
 アルフが満面の笑みを浮かべる。
 恋人の絶賛を受けてシャルロッテが顔を真っ赤に染める。
 いつも思うけど俺がここにいるの忘れてるんじゃないだろうな、こいつら。
 半ば無視されたような感じで面白くない。
「俺ももらうぞ」
 一応断ってから手に取る。
 シャルロッテが一瞬咎めるような目をしたが何も言わない。
 アルフが食べるまで待ってやったんだからいいだろ。
 口に入れるとさく、と心地よい音がした。
 アルフの感想通り、シャルロッテ作の菓子の中でも秀逸の出来だと思う。
 生地に入れてある乾燥した果実の欠片が爽やかな風味を作り出している。
 こいつはどこを目指してるんだろうな。
 年々菓子作りが上手くなる従姉妹に若干の疑問を覚える。
 今でも十分店が開けるくらい美味い。
 もはや趣味の領域ではない気がした。
 俺が遠慮をしないのを知っているからいつも多めに菓子を焼いてくる。
 訓練後の乾いた喉を潤すぬるめの茶を飲みながら甘ったるい恋人たちを眺めて過ごす。
 お邪魔虫だというのは理解してるがここで俺が席を外すのもあからさまだろうし、何よりこの時間が嫌いじゃない。
 そんなくつろぎの時間を破ったのはなぜか王宮に来ていた俺たちの爺様ジジイだった。



 一番初めに気付いたのはアルフだった。
 いきなり立ち上がったことに驚いたシャルロッテがアルフの視線を追う。
「……! お爺様!!」
 シャルロッテの声に俺も慌てて後ろを振り向く。
「憩いの時間に押しかけてしまったか。 すまないな、シャルロッテ」
 憩いの時間という言葉の時に俺をちらりと見た。
 サボってるわけじゃねえよ。
 内心毒づきながら一応立ち上がって挨拶を述べる。
「ああ、お前も元気そうだなテオバルト」
 短い言葉をよこすとジジイはアルフに笑みを向けた。
「アルフも久しいな。 シャルロッテは王宮に度々参っているようだが迷惑をかけてはいないか?」
「いえっ! 迷惑なんて!
 いつもテオバルトと私を応援してくれる姿に力をもらっています。
 一層訓練に身が入るのも彼女のおかげですから」
 緊張からか紅潮した顔でアルフが答える。
 直立不動で答えるアルフにジジイも厳めしい顔で励むよう伝えた。
「お爺様、王宮に用事があったのですか?」
 普段は領地にいるジジイがわざわざ王宮に来る理由ってなんだろな。
 シャルロッテも想像がつかないみたいに首を傾げている。
「ああ、シャルロッテに話しておこうと思った話があってな」
「私に……?」
 シャルロッテが目を瞬く。
 それなら家で話せばいいだろ、なんで王宮に来る必要があんだよ。
「ついでにお前たちも聞いていくか?」
 内容が全くわからないことに不安を感じたが俺もアルフも肯いた。
「話というのはお前の友人のことだ」
 人払いができているかを確認してからジジイが口を開く。
 シャルロッテの友人?
 儚げな伯爵家の幼馴染みの顔が浮かぶ。
 違うか。王宮に来る必要ないな。
「ああ、最近は会っているか? マリナ殿と」
 その名前を聞いて俺は顔を顰めた。
 ジジイはシャルロッテを見ていてこっちの表情には気づかない。
 アルフが俺を肘でつつき注意してくる。
 危ねえ、双翼の話で浮かべる顔じゃなかったな。
 自分の迂闊さは知っているが、どうもあの女は苦手だ。
 顔が思い浮かんで小さく舌打ちする。
「どうした?」
 舌打ちを聞きとがめてジジイがこっちを向く。
「ちょっと嫌なことを思い出しただけだ」
 気にするなと手を振る。
 ジジイは訝しむ目をしていたがシャルロッテに視線を戻した。
「マリナと? 王子の婚約式で忙しそうだったから最近は会っていませんわ。
 婚約式が終わったら時間が出来ると思ったからそろそろ会いに行こうかと思っていましたけれど」
 一緒に王都に出かけるくらい仲が良いのは知っている。
 気が強い女同士、気が合ったのか?
 ジジイがシャルロッテの話を聞いて眉間に皺を作る。
 なんだかあいつの話が気に入らないってよりはシャルロッテに話しづらいって顔に見えるな。
「そうか……。
 私が今日来たのはマリナ殿のことでな」
「マリナがどうかしましたの?」
「マールアに攫われたらしい」
「…………え?」
「…………は?」
「…………どういうことですか?」
 シャルロッテが息の抜けたような声を出し、俺も意味が分からないと声を零す。
 まともに返事ができたのはアルフだけだった。
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