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セレスタ 故郷編
助力要請 1
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昨日マリナの事情聴取をした騎士はマリナと、離れたところにいるヴォルフの顔を見て驚いている。
「貴女は……」
けれどすぐに事情を察したみたいで一つ頷くとマリナに会釈した。
さっきはいなかったので呼び出されたんだろう。
それだけ大事だということだ。
怪我人はあらかた運ばれて行ったけれど、辺りにはまだ緊張感が漂い、騎士が無事だった人から事情を聴いている。
背筋を伸ばしマリナに向き直った騎士からもそれが読み取れた。
ヴォルフを呼んで共に話を聞く。
「まずは治療にご協力いただきありがとうございます」
昨日の騎士、ヨハンさんはこの街の騎士団で小隊長を任されているらしい。
「いえ、それよりも何があったのか詳しくお聞かせ願えますか」
状況を見れば大体想像がつくけれど、詳しい情報が知りたかった。
頷いてヨハンさんが説明をしてくれる。
「見てお気づきかもしれませんが、盗賊が出ました」
予想はしていたけど、こんな朝に?という思いが強い。
マリナの顔を見てヨハンさんも頷いて言葉を続ける。
「ここのところ付近を騒がせていた連中で、特徴としては時間を問わず現れ、必ず金目の物を積んだ馬車を狙うということです」
(必ず……?)
ぴく、と反応するマリナを見て重々しい表情で頷く。
「ええ、どうやってかはわかりませんが、恐ろしいほどの嗅覚で金品を多く積んだ馬車を探り当てています」
「恐ろしいですね」
適当なことも言えず、当たり障りのない返事をする。
「まだ討伐に向かう段階ではないのですね」
盗賊団の規模や根城を完全に掴めていないのだろう。
「お恥ずかしい話ですが……」
悔しそうに目を伏せたヨハンさんにそういう意味ではないと首を振る。
「いえ、責めているわけではありません。
襲う馬車の選別の仕方といい、巧妙に動いているようですね」
いつ頃から活動しているのかもわからないし、マリナたちに騎士団の働きをどうこう言う権限はない。
「しかし今日のような大きな被害が出ることはありませんでした」
「そうなのですか?」
確かに怪我をしている人間は商人が多いように見えた。
これまでも度々襲撃があったのならば護衛くらいはつけるだろう。
馬車の外装や商人たちの服装を見るに、護衛を雇うお金がなかったようには思えない。
「ええ、人命が失われるような被害はこれまではなかったのです」
矢が刺さっていることから突発的な襲撃だったことは考えにくい。
方針が変わったのか盗賊団の人員が増えたのか、場所を変える前に大きな仕事をしていくつもりだったのか。
後はこれまでが様子見だったのか、だ。
ヨハンさんはこちらの立場を知っているので惜しみなく情報を与えてくれる。
それも思惑あってのことのようだけれど。
「見たところお二人は旅立たれるところだったようですが……」
「ええ、発つつもりで歩いてきたところ、この事態と遭遇しました」
たまたま居合わせた。
本来ならもう出発していたはずだ。
「恥を忍んで申し上げます。
どうかお力を貸していただけませんか?」
唐突な助力要請にヨハンさんの顔を見返す。
普通では考えられない話だ。
ヴォルフを見上げると眉を寄せ、訝しむような視線を向けている。
いくらマリナたちの正体を知っているからといって、普通は部外者を関わらせようとはしない。
それは自分たちで解決できないと示すようなもので、騎士団同士でも所属が違えば協力を嫌がられることがあるくらいだった。
「それはあなたの一存では決められないのでは?」
小隊長程度の立場の人間が勝手に決められることではない。
「ええ、そうですが……、お力を借りたい理由があるのです。
副団長も否とは言わないでしょう。
まずは副団長と会ってお話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
そういえばここの騎士団は団長が不在だったなと思い出す。
騎士団長が急な病により退任し、他の騎士団から選任された人物が来るまで団長は空席となっている。
本来なら副団長が引き継いでそのまま団長に上がるのが一番混乱がないのだけれど、副団長はまだ就任して2年目で、団長の任はまだ荷が重いと判断されたのだった。
ヴォルフに視線を向けて意見を問うといいんじゃないかと答えが返ってきた。
「まずは話を聞いて、それから決めればいい。
どのみちこのまま出発はできないだろう。 盗賊がどの辺りに潜んでいるかもわからないし」
確かに、向かう先に潜んでいる可能性もある。
それならばここの騎士団と連携して討伐してからの方がよさそうだ。
何よりヨハンさんの口にした、マリナたちの力を借りたい理由というのが気にかかった。
「貴女は……」
けれどすぐに事情を察したみたいで一つ頷くとマリナに会釈した。
さっきはいなかったので呼び出されたんだろう。
それだけ大事だということだ。
怪我人はあらかた運ばれて行ったけれど、辺りにはまだ緊張感が漂い、騎士が無事だった人から事情を聴いている。
背筋を伸ばしマリナに向き直った騎士からもそれが読み取れた。
ヴォルフを呼んで共に話を聞く。
「まずは治療にご協力いただきありがとうございます」
昨日の騎士、ヨハンさんはこの街の騎士団で小隊長を任されているらしい。
「いえ、それよりも何があったのか詳しくお聞かせ願えますか」
状況を見れば大体想像がつくけれど、詳しい情報が知りたかった。
頷いてヨハンさんが説明をしてくれる。
「見てお気づきかもしれませんが、盗賊が出ました」
予想はしていたけど、こんな朝に?という思いが強い。
マリナの顔を見てヨハンさんも頷いて言葉を続ける。
「ここのところ付近を騒がせていた連中で、特徴としては時間を問わず現れ、必ず金目の物を積んだ馬車を狙うということです」
(必ず……?)
ぴく、と反応するマリナを見て重々しい表情で頷く。
「ええ、どうやってかはわかりませんが、恐ろしいほどの嗅覚で金品を多く積んだ馬車を探り当てています」
「恐ろしいですね」
適当なことも言えず、当たり障りのない返事をする。
「まだ討伐に向かう段階ではないのですね」
盗賊団の規模や根城を完全に掴めていないのだろう。
「お恥ずかしい話ですが……」
悔しそうに目を伏せたヨハンさんにそういう意味ではないと首を振る。
「いえ、責めているわけではありません。
襲う馬車の選別の仕方といい、巧妙に動いているようですね」
いつ頃から活動しているのかもわからないし、マリナたちに騎士団の働きをどうこう言う権限はない。
「しかし今日のような大きな被害が出ることはありませんでした」
「そうなのですか?」
確かに怪我をしている人間は商人が多いように見えた。
これまでも度々襲撃があったのならば護衛くらいはつけるだろう。
馬車の外装や商人たちの服装を見るに、護衛を雇うお金がなかったようには思えない。
「ええ、人命が失われるような被害はこれまではなかったのです」
矢が刺さっていることから突発的な襲撃だったことは考えにくい。
方針が変わったのか盗賊団の人員が増えたのか、場所を変える前に大きな仕事をしていくつもりだったのか。
後はこれまでが様子見だったのか、だ。
ヨハンさんはこちらの立場を知っているので惜しみなく情報を与えてくれる。
それも思惑あってのことのようだけれど。
「見たところお二人は旅立たれるところだったようですが……」
「ええ、発つつもりで歩いてきたところ、この事態と遭遇しました」
たまたま居合わせた。
本来ならもう出発していたはずだ。
「恥を忍んで申し上げます。
どうかお力を貸していただけませんか?」
唐突な助力要請にヨハンさんの顔を見返す。
普通では考えられない話だ。
ヴォルフを見上げると眉を寄せ、訝しむような視線を向けている。
いくらマリナたちの正体を知っているからといって、普通は部外者を関わらせようとはしない。
それは自分たちで解決できないと示すようなもので、騎士団同士でも所属が違えば協力を嫌がられることがあるくらいだった。
「それはあなたの一存では決められないのでは?」
小隊長程度の立場の人間が勝手に決められることではない。
「ええ、そうですが……、お力を借りたい理由があるのです。
副団長も否とは言わないでしょう。
まずは副団長と会ってお話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
そういえばここの騎士団は団長が不在だったなと思い出す。
騎士団長が急な病により退任し、他の騎士団から選任された人物が来るまで団長は空席となっている。
本来なら副団長が引き継いでそのまま団長に上がるのが一番混乱がないのだけれど、副団長はまだ就任して2年目で、団長の任はまだ荷が重いと判断されたのだった。
ヴォルフに視線を向けて意見を問うといいんじゃないかと答えが返ってきた。
「まずは話を聞いて、それから決めればいい。
どのみちこのまま出発はできないだろう。 盗賊がどの辺りに潜んでいるかもわからないし」
確かに、向かう先に潜んでいる可能性もある。
それならばここの騎士団と連携して討伐してからの方がよさそうだ。
何よりヨハンさんの口にした、マリナたちの力を借りたい理由というのが気にかかった。
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