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ミミズクとフクロウ
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◆
「ここが南方支部か・・・」
木造りの建物の前でスズメは思わず声を上げた。柱には立派な彫り模様。変わった形の大きな窓と扉。入り口に生えているヤシの木には美味しそうな実がたわわに成っていた。
スズメはどちらかといえば北寄りの地域出身なのでこのような南方特有の建築は見たことがない。
「すごいですね!僕らのいた東方支部とは全然違う!」
「何を喜んでいるんだ。東方のが外気温は快適だろう」
「情緒がないなぁ。それにしてもその服装、暑くないんですか?」
「暑いに決まっている。早く中に入って涼ませてくれ」
「白衣かジャージ、脱いだらいいのに」
スズメの言葉に耳を傾ける気はないのか、フクロウはさっさと建物の中に入っていく。慌てて追い掛けると今度は急に立ち止まったフクロウの背中に鼻をぶつけた。
「痛っ!急に立ち止まらないでくださいよ!」
「・・・」
フクロウは何も言わずに前を睨み付けている。視線の先を辿ればフクロウの前に人が立っているのがみえた。
長身の身体、焦茶色の髪に蜂蜜色の瞳。モノクルをつけ、フクロウと同じく白衣を纏っている。
「えっと、こんにちは?」
「やぁこんにちは。君たちは東方支部からの応援だね。よく来てくれた」
その人物は柔和な眼差しで握手を求めてくる。
「私はミミズク。よろしく頼むよ」
「あっ、はい!ってちょっと!」
差し出そうとした手は間にいるフクロウに阻まれた。
「ふん、よろしくするつもりなんてない」
「相変わらずだね、君も」
「えっ、お二人は知り合いなんですか?」
「自警団訓練学校からの腐れ縁でね」
ミミズクが苦笑するとフクロウはそっぽを向いた。どうやらフクロウはミミズクのことが嫌いらしい。
「申し訳ないが無理矢理よろしくしてもらうよ、フクロウ。今回の任務を請け負っているのは私も同じなんだ」
「研究者は僕一人で構わないというのに、合同研究などと・・・くだらない」
「合同研究?」
スズメが首を傾げると、ミミズクは取り敢えず奥へ、と二人を南方支部の会議室に通した。
そして椅子に腰掛けるよう促すと、早速いくつかの資料を取り出す。
「これが今回の任務の詳細ですか」
「そうだ。具体的には南方の砂漠化と奇病について」
「砂漠化と奇病?」
スズメはざっと資料に目を通す。
ここに来るまで上層部から詳しい話は聞いていなかったのでミミズクが纏めてくれて助かった。
資料によれば、ニューサマーゲートのあちこちで突如草木が枯れ、土が砂に変わる現象が起きているようだ。そうしてできた砂漠が人々の生活を脅かす規模まで成長しているとも書いている。一部の集落では作物が育たないために食料をめぐって争いが起きているらしい。
「砂漠化については分かりました。しかし奇病というのは・・・」
「奇病についてはこちらの資料だよ。要約すれば人が砂に変わる病とでもいおうか」
「人が砂に?」
「そう。これが今まで取ってきたデータだ」
ミミズクがまた違う紙を手渡してくる。そこには生々しい内容が記されていた。病の発症から末期へと移り変わる過程の一部始終、細胞の顕微鏡写真、血液検査の結果などありとあらゆるデータが揃っている。
写真をみると本当に人の細胞が死滅して砂のように崩れていく様が見て取れた。
「これは・・・酷いですね」
スズメが思わず溢すと、フクロウは鼻を鳴らした。
「ふん、僕は君の取ったデータなんて信じないぞ。僕は僕だけを信じる」
「フクロウ、まだそんなことをいうのか。何度も言うけどこれは合同研究なんだよ。そんなんじゃ共に研究なんてできない。私と一緒に奇病について研究しろって上から言われているだろう?」
諭すミミズクにフクロウは頷かない。不服そうに唇を尖らせてゆらゆらと椅子を前後に揺らしている。
その態度ときたら、まるで子供である。
「じゃあどうするっていうんだい?」
「僕は僕で勝手に調べる。君は君で調べればいい。僕はこのまま患者のいる現場に行くつもりだ」
「それはおすすめ出来ないな。ちゃんと書類を読んでくれ。不用意に現場に近付けば奇病にかかる恐れがある」
ミミズクは眉間に皺を寄せて書類をトントンと指で叩いた。
「原因の特定も出来ていないのに何を」
「特定できていないから迂闊な行動は慎めと言っているんだ」
頑ななフクロウにミミズクも段々と語気が強くなる。
この二人、相当折り合いが悪いようだ。
厄介だなぁとスズメは内心考えて、まぁまぁと二人を宥める。
「資料が折角あるんだから、一応全部読んでみましょうよ。ね、フクロウさん」
「時間の無駄だ!」
「そう言わずに!ね!」
強引に書類をフクロウの眼前に突き出すと、フクロウは渋々それを受け取った。
「・・・報告では感染者は砂漠になった地域を中心に発生しているな。砂漠の砂に原因となる物質は見つけられず、か。感染者の体内からウイルスや毒素は検出されていない。今のところ症状を食い止める方法は無く、感染した者は段々と身体が崩れていき砂となって骨も残さず死亡。ふん、お粗末な内容だな」
「そう言わないでくれ。いくら調べてもこれ以上の情報が得られないんだ。仕様がないだろう」
「研究の基本は見方を変えることだ。大気は調べたのか。鳥人から鳥人への感染の可能性の検証は?やれることがまだまだあるぞ」
「そう思うなら是非今日から君も研究チームに参加してくれ」
ミミズクは笑顔は崩さずに、しかし明らかに苛立ちを含んだ声で言った。
今まで頑張って作り上げてきた研究資料を馬鹿にされたのだ。気持ちは分からなくもない。いくらフクロウが優秀な科学者であったとしても流石に今の一連の言葉は受け入れられないだろう。ミミズク以外の研究者もきっと同じ感想を抱くに違いない。全く困ったものだ。
「フクロウさん、少しは譲歩してみては?」
「どうして僕が」
「言うこときかないと実験付き合ってあげませんよ」
スズメは最後のカードを切った。どうやらフクロウはスズメの持つ能力について深い関心があるらしくよく研究させてくれと言い寄ってくるのだ。
「な!こいつらと研究したら君を研究してもいいということかね!?」
「えー、まぁ、そうです」
「分かった!研究チームに所属しよう!」
フクロウは余程スズメの生態に興味があるのか、一も二もなく頷いた。この脅し文句を使えば大体の言うことはきいてくれるのだから便利だ。しかしどんな研究をされるのかという懸念は常にある。あまり使いたくない手である。
「では僕は砂漠化の調査を、フクロウさんは奇病の研究をするということで構いませんね?」
「仕方ない」
「よろしく頼むよ」
スズメが再度確認すると、両側から了承の声が上がった。
これでようやく任務を開始できる。
(よしやるぞ!)
スズメは一人意気込んだ。
「ここが南方支部か・・・」
木造りの建物の前でスズメは思わず声を上げた。柱には立派な彫り模様。変わった形の大きな窓と扉。入り口に生えているヤシの木には美味しそうな実がたわわに成っていた。
スズメはどちらかといえば北寄りの地域出身なのでこのような南方特有の建築は見たことがない。
「すごいですね!僕らのいた東方支部とは全然違う!」
「何を喜んでいるんだ。東方のが外気温は快適だろう」
「情緒がないなぁ。それにしてもその服装、暑くないんですか?」
「暑いに決まっている。早く中に入って涼ませてくれ」
「白衣かジャージ、脱いだらいいのに」
スズメの言葉に耳を傾ける気はないのか、フクロウはさっさと建物の中に入っていく。慌てて追い掛けると今度は急に立ち止まったフクロウの背中に鼻をぶつけた。
「痛っ!急に立ち止まらないでくださいよ!」
「・・・」
フクロウは何も言わずに前を睨み付けている。視線の先を辿ればフクロウの前に人が立っているのがみえた。
長身の身体、焦茶色の髪に蜂蜜色の瞳。モノクルをつけ、フクロウと同じく白衣を纏っている。
「えっと、こんにちは?」
「やぁこんにちは。君たちは東方支部からの応援だね。よく来てくれた」
その人物は柔和な眼差しで握手を求めてくる。
「私はミミズク。よろしく頼むよ」
「あっ、はい!ってちょっと!」
差し出そうとした手は間にいるフクロウに阻まれた。
「ふん、よろしくするつもりなんてない」
「相変わらずだね、君も」
「えっ、お二人は知り合いなんですか?」
「自警団訓練学校からの腐れ縁でね」
ミミズクが苦笑するとフクロウはそっぽを向いた。どうやらフクロウはミミズクのことが嫌いらしい。
「申し訳ないが無理矢理よろしくしてもらうよ、フクロウ。今回の任務を請け負っているのは私も同じなんだ」
「研究者は僕一人で構わないというのに、合同研究などと・・・くだらない」
「合同研究?」
スズメが首を傾げると、ミミズクは取り敢えず奥へ、と二人を南方支部の会議室に通した。
そして椅子に腰掛けるよう促すと、早速いくつかの資料を取り出す。
「これが今回の任務の詳細ですか」
「そうだ。具体的には南方の砂漠化と奇病について」
「砂漠化と奇病?」
スズメはざっと資料に目を通す。
ここに来るまで上層部から詳しい話は聞いていなかったのでミミズクが纏めてくれて助かった。
資料によれば、ニューサマーゲートのあちこちで突如草木が枯れ、土が砂に変わる現象が起きているようだ。そうしてできた砂漠が人々の生活を脅かす規模まで成長しているとも書いている。一部の集落では作物が育たないために食料をめぐって争いが起きているらしい。
「砂漠化については分かりました。しかし奇病というのは・・・」
「奇病についてはこちらの資料だよ。要約すれば人が砂に変わる病とでもいおうか」
「人が砂に?」
「そう。これが今まで取ってきたデータだ」
ミミズクがまた違う紙を手渡してくる。そこには生々しい内容が記されていた。病の発症から末期へと移り変わる過程の一部始終、細胞の顕微鏡写真、血液検査の結果などありとあらゆるデータが揃っている。
写真をみると本当に人の細胞が死滅して砂のように崩れていく様が見て取れた。
「これは・・・酷いですね」
スズメが思わず溢すと、フクロウは鼻を鳴らした。
「ふん、僕は君の取ったデータなんて信じないぞ。僕は僕だけを信じる」
「フクロウ、まだそんなことをいうのか。何度も言うけどこれは合同研究なんだよ。そんなんじゃ共に研究なんてできない。私と一緒に奇病について研究しろって上から言われているだろう?」
諭すミミズクにフクロウは頷かない。不服そうに唇を尖らせてゆらゆらと椅子を前後に揺らしている。
その態度ときたら、まるで子供である。
「じゃあどうするっていうんだい?」
「僕は僕で勝手に調べる。君は君で調べればいい。僕はこのまま患者のいる現場に行くつもりだ」
「それはおすすめ出来ないな。ちゃんと書類を読んでくれ。不用意に現場に近付けば奇病にかかる恐れがある」
ミミズクは眉間に皺を寄せて書類をトントンと指で叩いた。
「原因の特定も出来ていないのに何を」
「特定できていないから迂闊な行動は慎めと言っているんだ」
頑ななフクロウにミミズクも段々と語気が強くなる。
この二人、相当折り合いが悪いようだ。
厄介だなぁとスズメは内心考えて、まぁまぁと二人を宥める。
「資料が折角あるんだから、一応全部読んでみましょうよ。ね、フクロウさん」
「時間の無駄だ!」
「そう言わずに!ね!」
強引に書類をフクロウの眼前に突き出すと、フクロウは渋々それを受け取った。
「・・・報告では感染者は砂漠になった地域を中心に発生しているな。砂漠の砂に原因となる物質は見つけられず、か。感染者の体内からウイルスや毒素は検出されていない。今のところ症状を食い止める方法は無く、感染した者は段々と身体が崩れていき砂となって骨も残さず死亡。ふん、お粗末な内容だな」
「そう言わないでくれ。いくら調べてもこれ以上の情報が得られないんだ。仕様がないだろう」
「研究の基本は見方を変えることだ。大気は調べたのか。鳥人から鳥人への感染の可能性の検証は?やれることがまだまだあるぞ」
「そう思うなら是非今日から君も研究チームに参加してくれ」
ミミズクは笑顔は崩さずに、しかし明らかに苛立ちを含んだ声で言った。
今まで頑張って作り上げてきた研究資料を馬鹿にされたのだ。気持ちは分からなくもない。いくらフクロウが優秀な科学者であったとしても流石に今の一連の言葉は受け入れられないだろう。ミミズク以外の研究者もきっと同じ感想を抱くに違いない。全く困ったものだ。
「フクロウさん、少しは譲歩してみては?」
「どうして僕が」
「言うこときかないと実験付き合ってあげませんよ」
スズメは最後のカードを切った。どうやらフクロウはスズメの持つ能力について深い関心があるらしくよく研究させてくれと言い寄ってくるのだ。
「な!こいつらと研究したら君を研究してもいいということかね!?」
「えー、まぁ、そうです」
「分かった!研究チームに所属しよう!」
フクロウは余程スズメの生態に興味があるのか、一も二もなく頷いた。この脅し文句を使えば大体の言うことはきいてくれるのだから便利だ。しかしどんな研究をされるのかという懸念は常にある。あまり使いたくない手である。
「では僕は砂漠化の調査を、フクロウさんは奇病の研究をするということで構いませんね?」
「仕方ない」
「よろしく頼むよ」
スズメが再度確認すると、両側から了承の声が上がった。
これでようやく任務を開始できる。
(よしやるぞ!)
スズメは一人意気込んだ。
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