『庭師』の称号

うつみきいろ

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序章、第一話

生きててよかった

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 ◆

「あ、れ・・・・・・? ここは・・・・・・」

 気がつくと見たことのない部屋にいた。豪華な調度品、枕元に置かれた薬。どうやら上等なベッドに寝かされているらしい。

 状況を確認しようと起き上がると、後頭部がズキズキと痛んだ。思わず呻き声をあげる。

 そういえば夜道で襲われてボコボコにされたのだった。硬い物で頭を殴られた記憶があるが、頭蓋骨をかち割られるのは免れたらしい。みれば身体中包帯でぐるぐる巻きにされていて、かなり手厚い治療を受けたことがわかる。

 でも一体誰が。

 頭を悩ませていると、カチャリと小さく音がして右側のドアが開かれた。

「・・・・・・スズメ! 起きたのか!」
「ヨル?」

 水差しを持ってきたらしいヨルはスズメの姿をみるなり目をまん丸にさせた。

「よかった、目が覚めたんだな! お前何日も寝っぱなしだったんだぞ・・・・・・!」

 ヨルは水差しを乗せたトレイを乱暴に机に置くと、スズメの両肩を掴んだ。

「どこか痛いところは!?」
「頭・・・・・・」
「そうだよな、すぐ医者を連れてくる!」

 今にも飛び出していきそうなヨルの腕を慌てて掴んで、スズメは「待って!」と叫んだ。

「此処はどこなんだ!?」
「俺の家だ!」
「はぁ!?」

 とんでもない答えに素っ頓狂な声を上げてしまう。ヨルの家。何故。本来なら街の病院か、世話になっている教会で治療を受けるのが自然だろう。それなのにヨルはわざわざスズメを自分の家にあげて丁寧に看病したというのか。

「安心しろ、名門鴉族のお抱えの医者だ! スズメの怪我もきちんと治してくれる!」
「鴉族・・・・・・?」
「そうだ! 俺は鴉族の長の長男! 次期当主様だからな。大体のことは出来る!」

 爆弾発言にスズメは頭に別の痛みを感じた。

 知らなかった情報が多過ぎる。

 鴉族。自警団設立にも関わった夜行性の鳥人達のトップ。その名家の出だとヨルは言う。しかも長の長男、次期当主様。そんな肩書きの人に勉強を習っていたのかという驚きと、どうしてここまでしてくれるのかという疑問。

 そもそも鴉族の次期当主が何故自警団員なんてやっているのかさっぱり分からない。

 スズメの記憶が正しければ鴉族は同盟を結んで自警団の設立に手を貸したものの、その後は自警団への関わりを一切絶っているはずだった。それは自警団がほぼほぼ昼行性の軍勢で占められているのと、鴉族が独自の私兵を持っているからに他ならない。

 それなのに何故ヨルは自警団にいるのだろう。

「・・・・・・色々聞きたそうな顔だな」
「話してくれるなら」
「話すよ。隠す事なんて何もないからな」

 ヨルは近くの椅子を手繰り寄せゆっくりと座ると、何から話そうかと問い掛けた。

「まず、介抱してくれてありがとう」
「ああ」
「でもなんでここまでしてくれるんだ? 勉強教えたり食事奢ったり、自分の屋敷に連れてきて医者に診せたり」

 特にこれといって繋がりがある訳でもないのに。そう続けるとヨルは「入団して一年経った時」と話し始めた。

「俺の階級がまだずっと低かった頃、はじめて後輩が出来た」
「後輩・・・・・・」
「夜行性の鳥人で、俺よりずっと幼かった。そしてお前と同じアウトサイド出身者だった」

 そこまで聞いてスズメはやはりと思った。ヨルがスズメを誰かに重ねているのは分かっていたからだ。ヨルは当時を思い出しているのか、懐かしそうに目を細めている。

 それが何だか癪だった。

「俺は後輩を可愛がった。年下の弟みたいに思ってたんだ。喧嘩の仲裁もよくやった。気のいいやつなんだが、気性が荒いというか何と言うか・・・・・・曲がったことを曲がったままにできない奴でね」
「そいつは今どうしてんだ?」
「・・・・・・死んだよ」

 呟かれた言葉は部屋にやけに大きく響いた。ごくりと唾を飲む。

「ある日あいつは上官に食ってかかった。思い切り殴り付けたんだ。止める暇も無くてね」
「それで、どうなったんだ?」
「次の日その後輩は前線送りになった。クーデターを起こしてる奴等に真っ先に突っ込む役目を押し付けられたんだ」

 それであっさり死んだのだ、と。ヨルはぼんやりと窓の外の景色に目を向ける。

「・・・・・・俺はその後輩じゃないぞ」
「分かってる。混同しているつもりもない。スズメはスズメだ」
「分かってるなら・・・・・・」
「だから救える。あいつは死んだけどお前は生きてるからだ。あいつみたいにならないように、俺の手で正しい道に導いてやれる。もう二度と子供が死ぬところなんて見たくない。そう思った」

 気付けばヨルの声は僅かに震えていた。爪が食い込んで血が出るんじゃないかというほど拳を強く握り締めて言葉を搾り出す。

「それなのにこんなことになった。俺のせいだ。俺が正しいことに力を使えって言ったから、お前、反撃しなかったんだろ」
「それは」
「ごめん。こんなつもりじゃなかった」

 ヨルは涙を流して、スズメの方に向き直るとそっと身体を抱き締めた。

「生きてて良かった」
「謝んないでくれよ。俺、反撃しなかったこと後悔してないぜ。それにそんな簡単に死んだりもしない。俺はあんたの死んだ後輩じゃねぇからな」
「ああ、そうだな・・・・・・本当にそうだ」

 ヨルはゆっくり噛み締めるように呟いて、スズメの頭を優しく撫でた。
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