『庭師』の称号

うつみきいろ

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序章、第一話

足引っ張らないでね、落ちこぼれさん

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「スズメ、ロムが花持って来てくれたぞ」
「あいつが花? 嘘だろ?」
「そう言ってやるなよ。ああ見えて割といい奴なんだ」

 花瓶に生けた花を持って現れたヨルは、悪態をつくスズメに苦笑した。

「いい奴は人質とって交渉なんかしてこねぇ」
「その話は聞いたけどさ。結果的にはみんな幸せなんだからいいんじゃないか?」

 ヨルは薬を取り出しながら言う。確かにヨルの言う通りではあるのだが、認めるのは癪に触る。

「というかもう薬いいって。大体治ったし」
「駄目だ。まだ完治とは言えないだろう。全身の傷が癒えるまで屋敷からは出さないからな」
「過保護・・・・・・」

 正直に言うと自分が昼行性の鳥人であるせいでヨル以外の屋敷の人間には苦い顔をされているので一刻も早く立ち去りたいのだが、ヨルはスズメを帰そうとしてくれない。
訓練学校にも行けないし、仲間達にも会えないし、ヨルの過保護振りも困りものである。
しかも全部スズメを思ってのことなので余計に質が悪い。

 因みにスズメを襲った男達は自警団によって捕まったらしい。だから恐らく仲間たちは無事に暮らしていると思うのだが、この目で安否を確認しないとどうにも落ち着かない。

「なぁヨル」
「駄目だ」
「もう! なんでだよー!」

 誰かこの頑固者をどうにかしてくれ。
 スズメは一旦外出の話題をやめて、ばふっとスプリングのきいたふかふかのベッドに身体を預けた。

「おい、薬」
「なぁー、なんか話してくれよ。なんであんたが自警団やってんのかとかさ。暇過ぎて死にそう」

 大人しくヨルから薬を受け取りながらスズメは話を強請った。
 するとヨルが「うーん」と唸る。

「長いし、面白くもない話だぞ」
「それでいいよ。ききたい」

 スズメが返事をするとヨルは分かったと頷く。
 話はヨルが訓練学校に入学するところまで遡った。

 ◆

「お考え直しください、坊ちゃん!」
「止めるなよ、爺や! もう願書も出して受理されたんだ」

 ヨルは鞄に教科書を詰め込みながら言った。老齢の執事はそれはもう慌てていて泣きそうになっている。

「鴉族は代々自警団には関わらない決まりです! ご存知でしょう」
「意味のない決まりだ! 父上達はいつも怪しげな算段を立てていてクーデターの火種を作ってる。俺はそんなの御免だね! 世の中の平和のために生きるんだ!」
「当主様は夜行性陣営の地位の回復に努めていらっしゃるのです! 坊ちゃんはその後継者になるのですよ!?」

 執事は必死に言い募るが、ヨルの耳には届かない。昼行性がどうだとか夜行性がどうだとか、くだらないといったらない。もう戦争は終わっているのだから、これからは仲良くやっていけばいいのに世の中はちっとも平和にはならない。いつも何処かで血が流れている。だからそれを止めに行くのだとヨルは意気込んでいた。

 ヨルは鴉族の中では完全に異質な存在だったのだ。
 当主はそんなヨルを半分見放していて、妹のトコヤミにも当主の教育を施している。

 けれどヨルには次期当主の座なんてちっとも惜しくなかった。ヨルの目には将来自警団員として活躍する夢しか映っていなかったのである。

 そしていよいよ入学初日。

「なぁお前だろ? 鴉族の子供っていうの」
「え、そうだけど・・・・・・」
「うわーマジかよ! 悪の親玉が自警団に入ろうとしてやんの!」

 子供というのは残酷だ。
 訓練学校は正に社会の縮図。昼行性の鳥人たちが幅をきかせ、夜行性の鳥人はいわれのないことで虐められる。実際、ヨル以外の夜行性の鳥人も小突かれたり陰口を叩かれたりしていた。しかしその状況が余計にヨルのやる気に火をつけることとなる。

 正義感の強いヨルは虐められている者をみれば間に入り、悪口を投げかけられれば丁寧に説得を試みた。

 そんなことをしているうちに周りからは『変わり者』のレッテルを貼られ、遠巻きにされるようになってしまったのであった。

 更にヨルを苦しめたのは、実技も座学も苦手であることだった。自分でも要領が悪いのは気付いていたが、頑張って勉強してもテストの結果には反映されず、実技も未だ自分の能力を使いこなせていなかった。

「ヨル、お前は『人形師』の称号だったな。人の動きを自在に操れる能力――確かに使いこなすのは難しい力だが、お前のは見ていられないぞ」
「すみません、先生」

 本来なら複数人まとめて操れる強力な力の筈なのだが、ヨルには制御が難しい能力だった。この頃には実家にも殆ど見放されていたから、助けを求めることも出来ない。

 だからヨルはとにかくがむしゃらに目の前の課題に取り組んだ。

 そんなある日のことである。

「今日は二人一組で訓練にあたってもらう。みんな隣の席の奴とペアをつくれ」

 先生の言葉に、隣の席の奴をみる。そこには鳩族出身の生徒が座っていた。確か名前は『ロム』。『聖職者』という人を癒す力を持っていて、座学も実技も優秀な生徒だった。いつも気怠げにしているのが気になってはいたが一度話してみたいと思っていた奴でもある。だって相手は鳩族だ。仲良くなれれば世界の未来も明るい。

 しかしロムはたった一言でヨルの期待を裏切った。

「足引っ張らないでね、落ちこぼれさん」
「はぁ!?」
「何、怒ったの? 座学も駄目、実技も駄目。立派な落ちこぼれでしょ」

 蒼い瞳が此方を見返して意地悪く笑う。

「大体なんで鴉族の癖に自警団員なんか目指してるの。家には反対されてるでしょ?僕だったら許されるなら絶対訓練学校なんか入らない」
「お前は自警団員になりたくないのか・・・・・・?」
「なりたくないね。家に言われて仕方なく此処にいるだけ。だってちまちま犯人を取り締まっても無駄じゃん」

 ロムはペンを手元で器用に一回転させた。

「何やっても差別は無くならないし、争いも絶えない。僕がいくら能力で癒してやってもすぐ死ぬ。僕はね、一層のことこんな世の中なくなっちゃえばいいと思ってるよ」

 十をやっと越えた歳で、ロムは何もかも諦めたように言った。
 それがヨルとロムの出会いだった。

 ◆

 訓練の内容は至極単純だった。建物に立てこもっている犯人役の三人の生徒を捕まえること。決定打になる能力を二人ともが有していない場合は組の入れ替えがあった。

 順番に訓練に臨み、全員捕まえた組や一人だけ捕まえることに成功した組などが戻ってくる。そろそろヨルとロムの番だ。

「僕の能力は回復だから決定打にならない。犯人を捕まえるのは君だからね」
「わ、分かってる」
「僕は君のいる方に犯人を追い立てるから。その後は勝手にやって」

 全く抑揚無く話す割にロムの指示は的確だった。自分と違って要領の良い同級生にヨルは悔しげに唸る。

(みてろよ、絶対全員捕まえてやる!)

 人の身体を操る能力で三人の動きを止める。その間に縄で縛ってしまえば一丁上がりだ。

 ついに順番が回ってきた。先生が手をあげて合図をする。瞬間、ロムが素早く建物の裏側へと滑り込んだ。中で何やら悲鳴が上がり、犯人役の生徒が三人とも外に飛び出してくる。

「はやっ!?」

 展開の早さに面食らいながらも、ヨルも能力を使う為構える。ヨルが念じると手から細い透明の糸のようなものが幾つも現れ、犯人役の生徒達へと飛んでいく。

 一人、二人―――!

 残念ながら三人目は取り逃がすが、三人目が向かっていった方向にはロムがいる。

「おい! 一人いったぞ!」

 言いながら捕まえている二人の動きを必死に押さえ込む。しかしロムは一歩も動かず、腕組みをして壁に寄りかかった。

「は!?」
「言ったでしょ、後は勝手にやってって。僕の分の仕事は終えたよ」
「これは協力し合う訓練だろ!?」

 思わず激昂すると、一瞬集中力が途切れた。まずいと思った時にはもう遅い。
 糸が切れて捕まえていた二人の生徒も自由にしてしまった。

「そこまで!」

 無情にも先生の号令がかかる。ヨルとロムの結果は零人だ。

「あーあ、君とじゃなかったらもう少し良い成績だったのに」
「お前が最後動かなかったからだろ!?」

 ロムのあんまりな言葉にカッと頭に血が昇る。けれどロムはどこ吹く風だ。

「たった三人も捕まえられないってその能力どうなの? もう自警団員になるの諦めたら?」
「なんでお前にそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ! お前こそやる気がないなら訓練学校なんか辞めちまえ!」

 ヨルはロムの胸ぐらを掴んで怒鳴った。努力しても芽が出ない自分への怒りと努力すれば確実にいい団員になれるのにやる気のないロムに対する憤り。しかもそのロムに馬鹿にされる屈辱にヨルは震えた。

「お前たちやめないか!」

 先生が止めに入ったおかげで殴り合いの喧嘩にはならなかったが、ロムとヨルの関係に亀裂が入ったのは避けられない結果だった。

 ◆
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