『庭師』の称号

うつみきいろ

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序章、第一話

嫌ってるんじゃない。興味がないだけ

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それからは喧嘩、喧嘩、喧嘩の毎日だった。

 顔を合わせれば嫌味を言い合い、実技訓練では常に張り合っていた。大抵はヨルの負けになるのだが、それでもいつか見返してやるとヨルは諦めなかった。しかしどうしても心は荒む。

 ヨルはある日の休日、気分転換に街の市場へと出掛けた。―――のだが。

「なんで此処にいるんだよ」
「うるさいな、こっちの台詞だよ」

 ばったりと居合わせたのは私服を着たロムだった。

「ロム様、お知り合いですか?」

 ロムの隣には茶色の修道士服を着た男が控えていた。知り合いかと尋ねているが、ヨルの漆黒の髪を見て鴉族の鳥人だと気付いたのだろう。汚いものをみるような目でこちらを見下ろしてくる。

「・・・・・・うん、知り合い。君は先に戻っていてよ」
「えっ! しかし私はロム様の護衛で」
「これだけ人の目のある場所なんだから大丈夫」

 ロムは男を下がらせ、ヨルの腕を強引に引っ張ってその場を後にした。

「お、おい!」

 ヨルが抗議の声をあげても返事も無しだ。
 やがて修道士の男が見えなくなったところでロムは漸くヨルの腕を放す。

「なんなんだよ一体!」
「面倒事になりそうだったから」
「面倒事?」

 オウム返しすると、ロムははぁと溜め息を吐いた。

「さっき君めちゃくちゃ睨まれてたでしょ」
「そんなのいつものことだ」
「・・・・・・僕はね、昼行性の鳥人がどうだとか夜行性の鳥人がどうだとか興味ないの。あのまま面倒なことになって巻き込まれたらたまらない」

 ロムの言葉にヨルは弾かれたように蒼穹の色を宿した両目を見詰めた。
 てっきりロムは夜行性の鳥人を見下しているのだと思っていた。けれど今彼は昼行性も夜行性も関係ないと言ったのだ。そういえば学校でロムが夜行性の鳥人の差別に加わっている姿はみたことがない。鴉族の癖にと言われたことはあったけれど。

「お前って・・・・・・本当に世の中の何もかもを嫌ってるんだな」
「嫌ってるんじゃない。興味がないだけ」
「本当に興味がない奴は面倒事になりそうでも見て見ぬふりするんだよ」

 以前ロムはこんな世の中はなくなってしまえばいいと言っていた。それは差別の無くならない世の中を嫌悪しての言葉だったのだとヨルは漸く本当の意味で理解した。

「じゃあなんで俺には鴉族の癖にって言うんだ?」
「馬鹿だからだよ」
「馬鹿!?」
「苦労するのが分かっててわざわざ訓練学校にやって来るなんて馬鹿以外の何者でもないでしょ。しかも差別のない世界にするだのなんだの言って。その成績で出来る訳もないのにさ」

 ヨルは驚愕した。言葉遣いは乱暴だが、それではまるでヨルの心配をしているみたいではないか。いやそれでも普段のロムの言動や行動にはヨルへの苛立ちが滲み出ていた。ヨルが言うことを聞かない頑固者だからか。それとも。

「なんでそんな一生懸命になれるの? 僕には分からない」

 拗ねた口調で吐き出された言葉にああ成程と合点がいった。

「ロムもしかして、お前も心の奥底では世の中を変えたいって思ってるんじゃないか?」

 ヨルと同じように。しかしヨルのように真っ直ぐに進んでいけない自らに嫌気がさして、結果ヨルに嫉妬した。

「やってみたいんだろ、俺みたいに」
「はぁ? 何言ってんの。そんなこと・・・・・・」

 否定して見せようとしたロムの声が不自然に途切れる。ロムの視線の先を辿れば―――

「・・・・・・っ!」

 細い路地裏に大男に口を塞がれた少女が引き摺っていかれるのがみえた。

(人攫い!?)

 ヨルはそう認識すると同時に駆け出していた。

「おい、ヨル!」
「助けを呼んでる暇がない! 追い掛けないと!」

 止めようとする声を跳ね除けると後ろで舌打ちが聞こえる。

「人攫いが出ました! 自警団に通報をお願いします!」

 近くの店の主人にそう伝えたロムがすぐさま追い掛けてくるのを気配で感じながら、ヨルは走る速度を上げた。ヨルの頭の中には少女を助けることしかない。

(能力が上手く使えないなんて言ってられないぞ!)

 自分自身に喝を入れつつ、ヨルはロムと共に犯人を追いかけた。

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