『庭師』の称号

うつみきいろ

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序章、第一話

これでもう落ちこぼれじゃないだろ?

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「待て!」

 叫びながらヨルは大男の背中を追う。男もヨル達の存在に気付いたのか、右に曲がったり左に曲がったりして此方を撒こうとしてきた。何回も見失いそうになるのを必死に食らい付く。此処で逃したらあの少女は人買いに売られてしまう。そうなったら助けるのは不可能に近い。

「おい、ヨル!」
「なんだよ!」
「どんどん細くて暗い路地に入っていってる! ここは一旦引き返した方がいい!」
「そんなことしてたら逃げられちまうだろ!?」

 並んで走って言い合っている最中だった。

 前にいた大男が不意に立ち止まって此方に向き直る。片方の口角を上げてそれはそれは愉しそうに。

「逃げられなくなったのはお前らだ」

 ビクンと身体が跳ねる。
 後ろから迫る複数の大きな影。

(仲間がいたのか・・・・・・!)

 振り返るや否や上から素早く布を被され、抱え上げられる。そのまま縄を巻かれてヨル達は抵抗すら出来ずに少女と共に隠されていた馬車の荷台に詰め込まれる。

「今日は餓鬼が三人だ。大漁だな」

 男達はゲラゲラと下品に笑いながら馬車に乗り込んだ。ガタンと音がしてすぐに馬車が動き出す。絶体絶命の状況にヨルはどうすべきか必死に考えた。

 ◆

「おい馬鹿」
「馬鹿って呼ぶのやめろ」
「だって馬鹿でしょ。散々止めたのに結局みんな仲良く捕まってるし」

 犯人に聞き咎められないよう注意して小声で話す。少女の声は聞こえない。

「俺のせいかよ!?」
「当たり前でしょ。追い掛けているつもりが犯人達の根城に誘導されて笑っちゃうね」
「お前だってついてきた癖にっ!」

 少し声を荒げるとロムに静かにしろと蹴られた。割と近くに転がされているらしい。

「それよりここから逃げ出す方法なんだけど」
「え、なんかあるのか?」
「護身用のナイフを持ってる。縄はそれで解けると思う」

 ロムはそう言うと何とか自分に被せられている布を剥がすように指示した。ヨルは渋々口で布を咥えて身体をもぞもぞと動かす。此方も何も見えないから方向は当てずっぽうだ。そうして何とかロムを布から解放すると、今度はロムがヨルに掛けられている布を剥がす。
 漸く視界がクリアになったところで次の指示だ。

「僕の胸元にナイフがある。咥えて取って」
「なんで俺がこんな事・・・・・・」
「右じゃない、左だよ」
「はいはい分かりましたよ、やればいいんだろやれば」

 暫くごそごそと漁ると、硬いものが口に当たる。これだ。
 取っ手部分をしっかり噛んで引き抜く。

「よし、そのままじっとしてて」

 ロムはナイフに縛られた手を押し付けて少しずつ縄を切っていく。手の拘束が解けるとナイフを受け取って足に掛けられた縄も外す。今度はヨルの番だ。ぎっちりと結ばれた手足の縄を断ち切る。最後に攫われた女の子だ。掛けられた布をそっと剥がして縄を解いてやると、少女は泣きそうな顔でお礼を言った。

「さぁ、ここからだね」
「どうする?」
「犯人を捕まえるのは自警団に任せよう。俺たちは馬車から飛び降りて脱出する」
「まぁ仕方ないか」

 ヨルもロムの意見に頷いて、そっと後ろの扉を開く。
 ヨルは少女を抱いてロムの後ろに続いた。

「いい? せーのでいくからね」
「分かった」

 せーの、と小さく掛け声をあげようとした時だった。

「やっぱり駄目!」

 幼い少女は動いている馬車から飛び降りるのが相当怖かったらしい。ヨルの腕を擦り抜けて荷台の奥に戻ろうとする。

「なんだ!?」

 少女の叫び声に人攫い達も気付いたらしい。
 荷台を覗く為の窓が開けられ、大きく舌打ちされた。

「おい、餓鬼が逃げようとしてるぞ!」
「まずい!」

 ヨルは咄嗟に少女の腕を掴むと強引にロムの方へ投げ付けた。見事少女を抱き止めたロムはそのままの勢いで荷台から落ちる。

 ヨルも急いで飛び降りるが、

 ―――――バンッ!

 焼けるような痛みが背中を襲い、受け身も取れずに地面に転がった。

 視界の端で馬車が止まるのが見える。犯人達がくる。でも身体が動かない。多分骨が折れているし、それに。大男の右手で鈍く光っている銃に撃たれたのだと知る。

「ヨル!」

 犯人達が戻る前にロムがヨルの傍に駆け付けた。

「女の子は・・・・・・?」
「んなこと言ってる場合!?」

 ロムは自分が撃たれたように苦しそうに顔を歪めてヨルの傷に手をかざした。途端に身体中が青白い光に包まれる。
 痛みが、消えていく。

(そうか、『聖職者』の能力は怪我を治せるんだったな・・・・・・)

 遠のきそうな意識を必死に手繰り寄せ、ヨルは犯人達を睨み付けた。

 ロムが珍しく頑張っているんだ。ここで能力を使えなくてどうする。
 両手を犯人達にかざし、深呼吸する。大丈夫だ、絶対出来る。ロムとあの女の子を守るためなら。

 ヨルは意識を集中させて近付いてきた三人の男に『人形師』の糸を巻き付けた。

「・・・・・・!? なんだこれ!?」

 昏倒させて追い掛けられないようにすればいい。それなら。

 ヨルは三人の男を操って壁に思い切り突進させた。頭から突っ込んだ人攫い達は衝撃に耐え切れず倒れ込む。死なない程度にダメージを与えるよう狙ったが上手く脳震盪を起こしてくれたらしい。

 騒がしかった路地裏に静寂が訪れる。

「ヨル・・・・・・」
「はは・・・・・・これでもう落ちこぼれじゃないだろ?」

 力無く笑ってよろよろと身体を起こす。

「すげぇな、撃たれたところも骨折も治ってる」
「・・・・・・この馬鹿!」

 ロムは震える手でヨルの胸を叩いた。

「使いたく無かった!」
「えっ」
「一度使ったら君のことはもう二度と治せないんだよ! それなのに君は!」

 本当に馬鹿だとロムは涙を流した。その涙につられてヨルも目を潤ませる。

「ごめん。ごめんな」

 その日、ヨルははじめてロムに謝った。
 そして二人で犯人を縄で縛った後、少女と三人で自警団のもとへ行き、保護を受けたのだった。
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