『庭師』の称号

うつみきいろ

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序章、第一話

お前みたいな餓鬼に何ができる

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 それから数日。
スズメは薄暗くカビ臭い部屋で暮らした。
部屋を訪れるのはフードを被ったあの男だけ。男は名を『ユウギリ』と言った。当主から貰った名前なのだと大層大切そうに話していたのがやたら印象に残っている。
もしかしたらユウギリの境遇がスズメと近かったからかもしれない。身寄りの無かったスズメを救いあげたロムとヨル。ユウギリにとってはそれが鴉族の当主だったのだ。

 ユウギリは以前話した通り、当主にだけ忠誠を誓っていた。そして密かに当主の意とそぐわない行動を起こそうとしている者達を調べているようだった。つまり、クーデターについて。

「御当主様は次期当主をヨル様と決めていらっしゃる。けれどそれに反対する者が一族や使用人、私兵の中にいるんだ」
「同じ鴉族なのに」
「同じ鴉族だから、さ。ヨル様は今までの鴉族の当主とは全く違う。昼行性の鳥人との和平を望み、鴉族が避けていた自警団の団員になった。その行動を生理的に受け付けない連中がたくさんいるんだ。何せちょっと前まで昼行性の奴らとは戦争していたんだからな。敗戦後の恨みつらみもある」

 戦争の記憶、敗者となった夜行性の鳥人達が昼行性の鳥人から受けた屈辱。それらをなかなか手放せない気持ちは分かる。むしろヨルの方が異質だということも。

「はじめは御当主様もヨル様の行動に腹を立てていた。辞めさせようともされていた。けれどヨル様の真っ直ぐな心が御当主様の心を少しずつ変えていったのさ」
「でも変わらない奴もいる」
「そう。妹のトコヤミ様とトコヤミ様を担ぎ上げている者達。中には私利私欲を満たすためにトコヤミ様側についている者までいる」
「もしかして私兵団長、とか?」

 クーデターを起こすのに十分な武器を保管していた部屋を思い起こしながらスズメが尋ねると、ユウギリははぁと溜め息を吐いた。予想は的中らしい。あれだけの量の火薬弾薬を私兵団長に黙って溜め込むのは難しい。むしろ私兵団長が命令して武器を集めさせていると考えるのが自然だろう。それに私兵団長はトコヤミと秘密裏に会ってなにやら話し合っていた。それはスズメがこの耳でしっかりと聞いていたのだから間違いない。

「その通り、私兵団長がトコヤミ様と一緒になってクーデターを先導している。今ではほぼ全ての私兵がトコヤミ様側だ。つまりもう御当主様には止められない。止める武力がないんだ」

 本来なら当主を守る立場の私兵団が敵。それに対抗する手段もない以上、最早当主の肩書きは形だけのものとなっていた。当主もユウギリもこの状況をどうにかしたいと思いながらどうする事も出来ずに、ただ情報だけでも集めようと秘密裏に動いている。

「もうあまり時間がないんだ。計画の日取りが近づいている」

 ユウギリは絶望した顔で言って両手で顔を覆った。しかしスズメには希望の光が灯る。ユウギリは謙遜していたが、優秀な兵士らしい。計画の日取りまで調べあげている。もしかしてユウギリの握っている情報は予想より遥かに多いのではないか。

「なぁ」
「なんだ」
「ここにゴトウシュサマを呼べるか?」
「はぁ?」

 ユウギリは怪訝な目でスズメを見た。

「三人で話したいことがある。俺がそう言ってるってことをゴトウシュサマに伝えてくれるだけでもいい。俺もクーデターを止めたい。ヨルの力になりたいんだ」

 ヨルを助けたい。その気持ちでスズメの胸の中はいっぱいだった。クーデターが起これば恐らく当主もヨルも、当主側にいるユウギリのような鳥人も危険に晒されることになる。たとえ肉親といっても、トコヤミなる人物が危険分子を見逃すとは限らない。だからどうか最悪の展開を迎える前にどうにかしたかった。
 スズメは真剣な目でユウギリを見詰める。

「・・・・・・お前みたいな餓鬼に何が出来る」
「考えがあるんだ」
「はぁ・・・・・・分かった。でも期待はするなよ。言ってみるだけだ。全く、お前みたいな子供の手でも借りたいと思っちまうとはな」

 俺も落ちぶれたぜと続けて、スズメの目の前にパンと水を置くとユウギリはまた明日と去っていった。
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