『庭師』の称号

うつみきいろ

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第四章

スズメくんはどうして戦うの?

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「それがハークと私の出会い」
「ほ、本当に長かった・・・・・・しかも途轍もなく恥ずかしいラブロマンスを聞かされた・・・・・・」

 照れるコマドリとは対照的にスズメは顔を引き攣らせた。あの無骨な性格のハークがそんな大恋愛をしたとは、にわかには信じられない。
しかし言われてみればハークはコマドリに対してだけは優しいのだ。声のトーンが明らかに違うし、支部へ戻ってコマドリにおかえりと言われると笑顔を向けさえしていた。だからコマドリの言うことは真実なのだろう。

「コマドリさんの戦う理由はハークさんと共にあることなんですね」
「ええ」

 コマドリは胸の前で両手を重ねて頷く。

「――スズメくんはどうして戦うの?」

 囀るような美しい声と共にトパーズ色の澄んだ目が此方に向く。コマドリも共に戦う仲間。コマドリにだけ話させてスズメが自分の話をしないのはフェアじゃないだろう。余り他人に話したい内容ではないが、信頼関係を作るには必要なことだと思った。

 スズメは意を決して口を開く。

「はじめは仲間たちを真っ当な道に進ませたいと思ったのがきっかけでした」
「仲間達?」
「私はスラム出身で、小さい頃は歳の近い孤児同士で寄り集まってスリなんかをして生計を立てていたんです。けれど俺の称号にロム支部長が目をつけて、俺が自警団に入るなら仲間の面倒をみてやるって」

 仲間達は皆、生まれ育った土地で元気にやっている。時々届く手紙では結婚して子供を授かった者や事業に成功して自分の家を持った者もいるようだ。孤児の面倒をみる施設も正式に建てられて、漸くスズメの肩の荷も下りた。

「まぁ、じゃあ支部長とは昔からの知り合いなのね」
「はい」

 少し驚いた様子のコマドリに、あの人何も話してないんだなと呆れながらスズメは首を縦に振った。知り合いであることくらい話しておいてくれてもいいのに。昔からロムは言葉足らずな人だ。

「でも今の理由は少し違う」

 スズメは静かに目を閉じた。

「昔とてもお世話になった人がいたんです。その人は私に色々なことを教えてくれて、命をかけて愛してくれました」
「命をかけて?」

 ヨルとの様々な思い出がスズメの頭の中を巡る。勉強を教えてもらったこと。抱き締めて頭を撫でてもらったこと。時には厳しく叱り、頑張った時には輝くような笑顔で褒めてくれたこと。

 そしてあの雨の日。鴉族の私兵団と自警団が争う中、自分の代わりに血溜まりに眠るヨルの姿も。

「・・・・・・その人は私を庇って死んでしまったんです。でも私は、その人の思いを引き継ぎたい。あの人の夢見た世界を実現したい」

 ヨルはいつも平和を望んでいた。どうかその願いが彼の死と共に途切れてしまわないように。皆がヨルの声を、姿を忘れてしまっても、彼の望んだ光がずっとみんなの中で輝き続けるように。

「それが自警団で戦う理由?」
「いえ、世界を変える理由です」

 スズメはすうっと深呼吸をして真っ直ぐコマドリを見つめた。

「昼行性と夜行性の垣根を失くす。差別も争いもない世の中。そんな世界にしたいって。するんだって。それが命を守ってもらった者の責任だと思うんです」

 ヨルの願いはそのままスズメの願いだった。それほどまでにヨルの死はスズメの心に大きな爪痕を残し、また奮い立たせる原動力にもなっていた。

 もう誰にも負けない。世界が望む形に変わるまでは決して。

 スズメの決意が通じたのか、コマドリは「そう」と呟いた。

そして不意に扉の方へ視線を移した。つられてスズメも扉に目を向けると、いつの間にそこにいたのか両腕を組んだハークが立っていた。

「あー、その、盗み聞きするつもりは無かったんだけどよ」
「構いませんよ」

 居心地悪そうにするハークに返事すると、ハークはほっと胸を撫で下ろして書類を掲げた。

「任務の依頼がきた。用意が出来たらコマドリと一緒に作戦室に来てくれ。ロムと先に行ってるぜ」

 そう言って執務室を出ていく。

「用意って?」
「今回は長旅になるって意味ね。緊急出動用の準備は事前に済ませてあるわよね?」
「はい」

 自警団では数日執務室に寝泊まりしたり、長期の出張が急遽入ることもある。そんな時の為に自警団員は常に旅の用意をしておくよう義務付けられているのだ。

 スズメは緊急用の装備を持って、コマドリの後に続く。

(ヨル、見守ってて)

 スズメは心の中で密かに呟いて扉を潜り抜けた。
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