『庭師』の称号

うつみきいろ

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第三章

役に立ちたいんです!

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「これで一丁上がりだな」

 ハークは町民全員をスタンガンで怪我させることなく捕まえると、皆に縄をかけた。

 今はみんな広場に集められてぐったりと首を垂れている。そこにはコマドリが廃人にしてしまった孤児達もいて、相変わらずぼんやりと虚空を見詰めていた。コマドリはそれをみつけると、ゆっくりと彼らに歩み寄る。かつて小さなお友達を失った時とは違う。どうしたらいいかコマドリにはよく分かっていた。

 コマドリはすぅっと息を吸い込むと歌いはじめた。

『さぁもどれ諸人よ―――命の木の下に―――』

 町長達は即座に顔を青くし仰け反ったが、コマドリは歌をやめない。そのうち廃人となっていた子供達がぱちっと瞬きをし始めた。意識が戻ったのだ。

「コマドリ・・・・・・」
「戻し方、分かったの」

 驚くハークにコマドリは短く返した。

心には確かな痛みが広がっている。あの時この方法がわかっていたら、お友達も救えたのに。しかし後ろばかり向いていられない。

 前を向く生き方はハークに教えてもらったから。

「今までごめんなさいね」

 コマドリは孤児達に一言詫びると、ハークの元に歩み寄った。

「・・・・・・全部終わったな」
「ええ。町の皆はどうなるの?」
「人を二人も殺してるんだ。自警団の駐屯地まで連れていって事情聴取だな」

 ハークは苦々しい顔をした。恐らく両親のことでコマドリに気を遣っているのだろう。確かに悲しくはあるが顔も知らない親のことだ。正直に言うとまだあまり事態を飲み込めてはいない。

「ハークはどうするの?」
「支部に戻って、任務が来たら出掛けて・・・・・・またその繰り返しさ」
「じゃあ私も連れて行って」

 コマドリが言うと、ハークはばつが悪そうに背中を向けた。

「コマドリ。お前は自由だ。何処へでも好きなところに行ける。俺と一緒に来る必要はない」

 返ってきたのは予想外の言葉だった。ハークの声は固く、しかし少し震えていて、手は爪が食い込む程に握り締められていた。

「今更私を放り出すの?」
「・・・・・・」
「好きって言ってくれたのは嘘だったの?」

 少し前の幸せな時間を思い出すと胸が張り裂けそうで視界が揺らぐ。

「好きだからこそ、だ。今度は自分の足で行きたいところへ行って見たいものをみれる。その自由を他でもない俺が奪う訳にはいかない」
「私の行きたいところは、ありたい場所は、ハークの隣だよ!」

 肩を揺すっても、ハークは俯いたままだ。酷い、酷い。そんなの酷すぎる。

「嘘吐き! ハークのお嫁さんにしてくれるって言ったのに、任務が終わったら去っていくのね!」
「よ、嫁!? そこまでは言ってない気が・・・・・・!」
「本で読んだもの! 好き合ってる者同士は結婚するんだって! うわーん! もてあそばれた!」
「ち、ちがう! もてあそんでなんかない!」

 コマドリはハークがくれた花を握り締め、泣き喚いた。ハークはというとあわあわと慌てて、必死にコマドリを泣き止ませようとしている。

「お前は俺以外の鳥人をまともに知らないだろ! もしかしたら俺じゃないやつを好きになる可能性だってある」
「ならないもん! 私を助けてくれたのはハークなんだから!」

 コマドリの王子様はハークだけだ。外の世界への道を開いてくれた、初めてコマドリに触れてくれた人。だからその気持ちを他でもないハークに疑われたくなかった。

 悲しくてやるせ無くて、コマドリはハークの胸に飛び込む。ハークは恐る恐る肩を抱いてくれた。

「本当に俺でいいのか?」
「ハークがいい! だから離さないでよ!」

 コマドリがはっきりそう言うと、ハークは分かったと呟いてコマドリをぎこちなく抱き締めた。二人の間でコマドリが握っていたピンク色のポピーが風に揺らいでいる。

 暫く二人は無言で抱き合っていた。



「あー、お二人さん。その、もういいかな?」

 そこに水を差したのは白髪の自警団員だった。いつからいたのか、居心地悪そうに視線を逸らして突っ立っている。ハークとは違い、長いマントを羽織っていて、胸の勲章もたくさん並んでいた。

「ロム!」
「ロム支部長、ね」
「誰?」

 コマドリが尋ねると、ハークはロムを自分の上司だと紹介した。コマドリの目が輝く。これはチャンスだ。この人に直談判すれば、きっと。

「私、コマドリって言います。『歌姫』の称号を持っていて、私の歌声をきくと皆一時的に廃人のようになるの」
「ハークの報告できいているよ。はじめまして」

 差し出された手を掴んで大きく上下に振る。そして真剣な目でハークとロムを見詰めると、

「私、ハークの役に立ちたいんです! どうか私を自警団に連れていってください!」

 人生で一番大きい声でそう嘆願した。

 ◆

 結果としてコマドリの願いは聞き届けられた。自警団を補佐するボランティアとして支部への出入りが許されたのである。

「ああそうだ。これ、渡しておくから着けてね」
「これは?」

 ロムから宝石のついたチョーカーのようなものを渡されてコマドリは首を傾げる。

「制御装置だよ」
「制御装置?」
「君は能力制御がまだ不安定だからね。それをつけている間は能力が暴走しにくいから、常時着けていて欲しい」

 ロムが説明すると、横から目を吊り上げたハークが割って入ってくる。

「コマドリにそんなもの必要ない! こんなもので縛るのはやめてくれ!」

 どうやら折角自由になったコマドリを縛るような真似が許せないらしい。しかしコマドリは小さく首を横に振った。

「いいの。私これ気に入ったわ。これで安心して暮らせるもの」

 それにほら、可愛いでしょう? と笑うと、ハークは納得のいかない顔で口を閉ざす。

 かくして自警団東方支部にコマドリという新しい人員が増えたのだった。
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