『庭師』の称号

うつみきいろ

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第三章

お前はそんなことしない

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「おのれこの悪魔! 覚悟しろ!」

 男衆は松明を持って怒りを露わにしている。何が何だか分からないハークは慌ててコマドリの前に出て両手を広げ、コマドリを庇った。

「ちょっと待ってくれ! コマドリはついさっき能力の制御を覚えたんだ!」
「自警団員さん。俺たちはそいつに力の使い方を教えろなんて言ってねぇ。始末してくれと頼んだんだ!」

 男衆はそう言うと辺り一面に油を撒き散らす。

「何をしているんだ!」
「その悪魔も母親と同じだ! こうなれば仕方ない! 二人とも焼き殺すしかない!」
「母親と同じ!? どういう事だよ!」

 訳のわからないことを言いながら火をつけようとする男をハークは必死に止める。

 すると男衆の中から若い男に背負われた老齢の男が前に進み出た。この町の町長だ。

「私から説明しよう」
「町長!」

 別の男が止めようとするのを町長は片手を上げて制する。

「この男も自分が殺される理由くらい知りたいだろう」
「俺があんたらに殺されるだって?」
「この悪魔の誘惑にかかってしまったならもう救いようがない。気の毒だがあんたもここで死んでもらう」

 町長の言葉を合図に男はハークにも油を浴びせかけた。どうやら本気で自警団員に手を出すつもりらしい。これは少々大暴れをしても正当防衛で許されるなと考えつつ、ハークは町長の言葉に耳を傾ける。

「こやつの母親も同じ能力を持っていた。美しい歌声で魅了し廃人にしてしまう能力。余りにも危険過ぎる。町に災いをもたらす力だ。だから秘密裏にこの塔に監禁していた。しかしある時、世話係の男を誘惑し子を授かったのだ」

 コマドリが生まれる前の話。ハークはその内容よりも、コマドリの心が心配だった。

 この町にはコマドリの両親の姿はなかった。となれば。

「コマドリの両親を殺したのか」
「勿論だ。世話係も母親も処刑した。当然だろう。これ以上に子を授かって厄介事を増やされてはたまらん」

 厄介事というのは、能力を持つ鳥人がこれ以上増えるのは困るということだろう。

 なんて浅はかな。今の能力研究では、称号持ちは一家系に一人しか生まれないと判明している。もしコマドリの母親が生きていればコマドリに能力は発現しなかった筈だ。それなのに、何も知らずに監禁して殺害して。この町は今までにどれだけの罪を重ねてきたのだろう。

「本当はその時に赤ん坊も殺すつもりだったのだ。しかし母親は最期に我々を呪って言った。子供にも能力は遺伝する。子供を傷付けたり殺したりしたら町に大変な災いが降りかかると!」

「だからずっとコマドリを監禁していたのか!」
「殺せぬならばそうするしかあるまい!」

 町長は男衆に命令してあちこちに火をつけ始めた。

「今までは母親の言葉もあって手をこまねいておったがもう我慢ならん。これ以上数を増やすつもりなら、二人とも処刑だ!」

 そう言い残して町民達は足早に去っていった。慌てて追いかけるが、扉に鍵をかけられてしまう。

「ちくしょう! あいつら!」

 火の回りが早い。ハークは油のかかった上着を脱ぎ捨てて、急いでポケットの中に忍ばせていた釘を取り出し力をこめる。ハークの『鍛冶屋』の称号の能力はあらゆる武器を作り上げる。出来上がったのは斧だ。

 ハークはその斧を持って思い切りコマドリのいる鳥籠の錠前に叩き付ける。

『ハーク逃げて!』
「偉いな、コマドリ。あいつらの前で動揺してても能力を使わずに我慢出来たな」
『そんなこと言ってる場合じゃないわ! 火が!』
「大丈夫」

 ガンガンと何度も斧を叩き付けるうちに鳥籠の錠前や鉄柵が変形してきた。もう少しだ。

「必ず助けるし、俺も死なねぇー!」

 カランッ! という音と共に錠前が落ちる。軋む扉を無理矢理開くとハークは手を差し出した。しかし、コマドリは奥の方へ後退り、ぺたりと壁に背中をつける。

「コマドリ、怯えなくて大丈夫だ。気付いてないかもしれないが、男達がやってくる前、お前は能力を使わずに話してた」
『・・・・・・!?』
「『私もずっと好きだった。嬉しい!』って言ってくれただろ?」

 そう言われてコマドリははっと自分の口に手をあてた。確かに声に出して言っていた。告白に夢中で全然気付いていなかった。

「俺を見ろ! 何ともない! ちゃんと能力の制御が出来ている証拠だ!」

 ハークは鳥籠に入り、コマドリの腕を掴むとぐいっと手前に引き寄せる。

「近づかないで! 私の力であなたも傷付いてしまう!」
「大丈夫だ」

 バランスを崩したコマドリを受け止めてハークは微笑んだ。

「コマドリ、お前はそんなことしない」
「あ・・・・・・」

 ハークの言う通り、コマドリの声を聞いてもハークが廃人になることはなかった。

 以前のように勝手に力が漏れ出す感覚も無い。

「ま、愛の力ってやつだな」

 ハークは少し冗談めかして言って、コマドリを横抱きにして抱え上げた。

「きゃっ!」
「扉の方は火が回ってもう駄目だ。窓から飛び降りるぞ!」
「飛び降りるってこの高さから!?」
「大丈夫、大丈夫」

 ハークは再び釘を取り出すと、そのまま窓から飛び降りた。コマドリは思わず目を瞑ってしまう。しかし次の瞬間訪れたのは地面に叩き付けられる痛みではなく、上に引っ張られるような浮遊感だった。

「これは・・・・・・?」
「パラシュート。俺が能力で作れるのは攻撃性の高い武器だけじゃ無い。装備品だって作れるんだ」

 盾とかバリケードとかな、と得意げに言ってハークはコマドリを抱えたまま華麗に地面に降り立ってみせた。

「さーて、じゃあ町民達にきっついお灸を据えるとしますか!」

 ハークの新緑の目は怒りで爛々と光っている。次の瞬間、彼の右手にはスタンガンが握られていた。
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