『庭師』の称号

うつみきいろ

文字の大きさ
41 / 55
第三章

お前のことが好きだ

しおりを挟む


「髪、良し! お肌の手入れ、良し! お洋服、良し!」

 コマドリは朝から入念に身支度を整えてハークを待っていた。何度も鏡で確認して、笑顔の練習もする。これがここ最近のコマドリの日課だった。

(今日は可愛いって言ってくれるかな?)

 コマドリは鳥籠の中から窓の外を眺めて物想いにふける。あの日初めてハークの前で笑顔を見せてからハークはずっとそわそわしている。視線を彷徨わせ、真っ赤になって早口になったり、かと思えば一言も発さずに俯いたりもする。あの日から可愛いとは言ってくれないが、コマドリに対して何か新しい感情を抱いているのはきっと間違いない。コマドリはその感情が自分と同じものなのかずっと確かめたいと思っていた。

 一人思案していると、扉を軽くノックする音が響いた。いつもの時間。ハークだ。

 コマドリは居住まいを正して、扉を開けたハークに笑い掛ける。

『おはよう』
「あ、あぁおはよう」

 ハークは少し俯いて返事する。笑顔の練習をした甲斐があったらしい。ハークの耳は真っ赤だった。コマドリはハークの見えないところで小さくガッツポーズをして、上目遣いにハークを見詰める。
 よく見るとハークは背中の後ろに何かを隠しているようだった。

『?』

 コマドリが不思議そうな顔をすると、ハークははっと顔を上げて後ろに隠していたものをコマドリの目の前に差し出す。

「これ、やる! 綺麗だろ?」

 ピンク色のポピーの花。外で摘んできてくれたのだろう。受け取った時に触れた手は汗で濡れていて、ハークがとても緊張しているのが分かった。これはあれだ。ロマンス小説で読んだのと同じシチュエーションだ。そう考えるとコマドリの心は踊った。

『ありがとう。とっても嬉しい』
 うっとりと受け取ると、
「いや、へへ・・・・・・照れるな。俺こういうの慣れてねぇんだ」
 ハークは赤面しながらもコマドリに微笑み、手を取った。

「ずっと言いたかったことがあるんだ」

 ああついに! とコマドリは歓喜した。夢にまでみた告白の瞬間が来るのだ。コマドリはぎゅっとハークの手を握り返した。

「お前のことが好きだ」

 時が止まる。

「・・・・・・」
『・・・・・・』

「えーと、好きっていうのはだな、つまり・・・・・・」

 ハークは自分で言っておいて照れが限界点を突破したのか、ごにょごにょと何かを呟いている。しかしコマドリはそれどころではなかった。

 ハークから告白された。

 胸が熱くなるのを感じる。やっと、両想いになれたのだ。

 あぁ早くこの想いを伝えなければ。コマドリは檻越しにハークに抱き付いて目を潤ませた。

「私もずっと好きだった! 嬉しい!」

 ハークも無言でコマドリを抱き返す。
 凄く幸せだった。その瞬間までは。

「そこまでだ! 自警団員を誘惑するとはこの悪魔め!」

 ハークとコマドリしかいなかった世界に第三者の怒号が響く。扉を蹴破ってやって来たのは町の男衆だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界子供ヤクザ【ダラムルバクト】

忍絵 奉公
ファンタジー
孤児院からスラムで育ったバクト。異空間収納と鑑定眼のダブルギフト持ちだった。王都西地区20番街では8割を縄張りとする先代のじいさんに拾われる。しかしその爺さんが死んだときに幹部同士のいざこざが起こり、組は解散。どさくさにまぎれてバクトが5・6番街の守役となった。物語はそこから始まる。7・8番街を収めるダモンとの争い。また後ろ盾になろうと搾取しようとする侯爵ポンポチーコ。バクトは彼らを越えて、どんどん規格外に大きくなっていく。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...