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3-11 国を守る竜
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洞窟の中は明るかった。
石の壁に松明でもあるのかと思っていたけど、当然ながら誰も管理していないんだからそれを刺すところはあっても火種はない。
しかしぼんやりと足元の石畳が光り、周囲を浮かび上がらせていた。
……これも何かの魔法なのか……?
足を止めて振り返ると「歩いてきたところ」は光が消えている。
どうやら僕たちが向かう先に向かって光は点灯していくらしい。緩やかに下っている先まで見えるが、奥の方は闇だ。
何かが飛び出してくるとは考えづらいけど一応警戒しながら進む。
比較的丁寧に作られているようで躓くようなことはなさそうだけど、それでもなにがあるか分からない。
しかしエミリアとクー様は呑気なもので鼻歌交じりに歩いていた。
「楽しみだねクーちゃん?」
内証話でもするかのようにクスクスと笑いながら進んでいく。
一本道。地下に向かって一直線だ。軽く左側に曲がっているような感じもする。ぐるぐると螺旋状に下に向かってる……? かといっても緩やか過ぎてどれだけ曲がっているのか、どれだけ降ったのかも分からない。けれど不思議と不気味さはなかった。
「ねぇ、ユーリ。どう思う」
「ゆ・う・り。……どうって何がよ」
声を抑えたのを察してくれたのか結梨は肩まで登ってくる。
「罠とかあるのかな。もしくは待ち伏せとか」
「動物があの扉開けられるとは思えない。……待ち伏せされてたとしてもこんな一本道じゃお互いにやりづらいでしょ」
「それもそうか……」
道自体は人が二人並べば少し狭く感じるほどの広さしかない。
天井も思いっきり跳べば触れられるほどで確かに襲うにしても剣は振り回せないだろう。
もしもナイフなんかを構えて突撃されたとしても身を隠せる所はないし、十分な距離をとって発見できる……かな。
「……なによ。そんなに心配?」
「ん……まぁ……うん……」
自分でもなにがそんな不安なのか分からずにいた。
さっきの見られていた感覚が残っているのか、それともこの建物の雰囲気がそうさせるのか……。
……落ち着かない。
気にしすぎだというのはわかる、でも何か忘れているような……そんな感覚がつきまとって気が散った。
なにがそんなに気になるのか分からない。
当然ながら一度も来たことはないし、向こうの世界の何かに似てるってわけでもないーー。
うーん? と頭をひねって魔導書の中の知識だろうかと考えてみるけど取っ掛かりは見つからなかった。
「ここって大昔からあるんだっけ?」
先を行くエミリアに尋ねると自分のことのように嬉しそうに答えてくれた。
「はいっ、我が王国はこの地より始まったと聞いております。この地でかの黒の魔導士と共に初代国王はドラゴンと契約を交わし、国を起こしたそうです」
「黒の魔導士とその初代の国王さまとはどういう関係だったんだ?」
「さぁ……? この地に混沌が蔓延し時に黒の獣を従えし魔導士が現れ、とある青年に啓示をもたらしたそうなんです。『そなたは神を従える力をも秘めている』と」
「神ねぇ……」
「ドラゴンは神獣の一つとして扱われることもありますから……」
確かに他の生物とは一線を画している感じはある。この世界の動物たちは向こうの世界のものとそう変わらない。
カラスの羽が多かったり、狼の牙が異常に発達していたりと「生物が進化する上でありえたかもしれない」と思える程度だった。
しかし、ドラゴンはーー、
「クゥ?」
「いや、かっこいいなって」
「クゥッ!」
ホワードと祭られ、目の前にいるクー様は「そういう常識」とは違うところにいるような気がする。
魔法や神話、そういった異世界(ファンタジー)の部分だ。魔法(ファンタジー)が現実となった今でもそう思うのだからこちら側の人たちからすれば遥かに神聖な存在なのかもしれない。
エミリアに懐く姿は猫か犬だけど。
「……猫が神獣って言われてるのもそれはそれで不思議なんだけどな」
「牛や豚が神の遣いってところもあるから、それもアリなんじゃない?」
「……まぁ……しゃべるしね、ユーリ……」
向こうの世界に帰っても喋る猫なら神扱いされそうだ。
もっとも、結梨の声が聞こえるのは僕だけっぽいけど。これはあの転移魔法の効果と考えるか、それとも黒の魔導士と黒の神獣の間に交わされたなんらかの契りと考えるかーー。
どちらにせよ、考えたところで答えは出ない……か。
「ドラゴンが神獣だってのはわかったんだけどなんでそのドラゴンに狙われてんだ?」
「…………」
「……ん……?」
エミリアから返事はない。僅かに肩がこわばったように見えたから聞こえてはいるはずだけど……。
「バカ」
「え?」
結梨がため息まじりに吐く。
「……もしかして聞いちゃいけないことだった……?」
これは結梨に聞いたことだったけど答えたのはエミリアだった。
「いえ……、向き合わなくてはならない問題だとはわかってますから……」
苦しげに浮かべた笑顔が痛い。
クー様が肩で気遣い、それに「平気だよ?」と首をかしげる。
僕は結梨に目をやって「ばーか」二度目のバカを頂戴してしまった。
「国内にいるドラゴンは数えるばかりしかおりませんが、この世界にはある一定数の数が存在しています。……正確な数はわかりかねますが、それこそ人間を滅ぼすには十分な数が」
「滅ぼすって物騒な……」
半分冗談で言ったつもりだったけどエミリアは曖昧に微笑んで誤魔化しただけだった。
どうやらわりとマジな話みたいだ……。
「それが……なんでエミリアを狙うんだ?」
「竜宮の巫女とはかつて一体のドラゴンを従えたこの国の国王の伝説から継承されてきたものです。本来は国王がその任についていたのですが、そもそもドラゴンと人は相容れぬ存在。……言葉も通じなければ文化も違います。彼らには彼らの世界があり、私たちは互いに干渉はしません」
「でもクー様は一緒に暮らしてるよな?」
「クゥッ」とひと鳴き。とてもじゃないが「相容れぬ存在」とは思えない。
それに「滅ぼすには十分な数」がいるのに「相容れぬ存在」を容認しているのも謎だ。
不可侵条約があるわけでもあるまいに。……いや、あるのかな、この場合……?
「クーちゃんは特別なので。ーー人里に生まれて、人に育てられましたから」
「クゥッ」
「……?」
捨て犬を拾った、みたいな言い方だなほんと。
負い目を感じている様子もあるみたいだし、事情は複雑のようだ。ーーもっとも、僕としてはあまり踏み込みたくはないんだけどーー、
「そのクー様を目の敵にしてるとかそんな感じ? ドラゴンの身でありながら人間に力を貸すとは何事だーみたいな」
「ええ、まぁ……? そんなところです」
「ふーん……」
気乗りしない話題であるのはわかるが、妙に歯切れの悪い容姿に話も弾まない。
ーー何かを隠してる……? ような気もするし、考えすぎなような……??
結梨の様子をチラ見してみたけど黙って歩いているだけで特に変わった様子はない。
こういうことに関しては僕よりも結梨の方が向いてると思うんだけどなぁ……。
当の本人は傍観を決め込んで話しかけようとしなかった。もちろん、猫の言葉が通じる訳がないんだけど、そこはほら、僕という通訳(フィルター)を通したって良いワケで。
「ねぇ、ユーリ。神獣様として何か一言」
「会話を放棄しないで黒の魔導士サマ? あと、ユ・ウ・リ」
この世界では結梨より「ユーリ」の方が合ってると思うのになんとも勿体ない。
「ユーリ様はほんとうにお優しいのですね」
「ハァ!?」
言葉は通じていないはずだがクー様と心通わせるエミリアには結梨の言葉も多少わかるものがあるのかもしれない。
素っ頓狂な声を上げた結梨に微笑んで言葉を続けた。
「神獣様方は皆様気難しい方ばかりだと聞いておりますので……人の身である私たちに力を貸してくださるだなんて……、失礼ながら信じることができません」
「はぁ……?」
神獣様方、ってことは結梨みたいなのが他にもいるのか? ……猫とか犬が?
「でも街中歩いてても何も言われなかったけど?」
「黒の神獣様が街中を歩いているだなんて誰も思いませんもの」
有名人が街中に溶け込みすぎてて誰も気づかない、みたいな感じだろうか。
「はー……そういうもんですかー……」
神獣といえど所詮は結梨なので実感もわかない。
「なによ」
「いやなにも……?」
お互い厄介なものにされてしまったもんだと少しは同情する。
逆の立場だったらどうだろう。……女の子になるよりも猫の方がマシだったかもしれないな。
「僕からしたらクー様の方が稀少に思えるんだけどな」
「クゥ?」
だってドラゴンだし。
「まぁ……。……クーちゃんが狙われているのは確かなんですが……それだけでは彼らも手を出してきません。ドラゴンといえど、人と戦争になればただでは済みませんから」
「ホゥ……」
性能で勝るドラゴンに対し、数で応戦する人間達、ってことかな。
実際、アルベルトさんみたいなのが人の側にもいるみたいだし、人間離れしてたけどさ、アレは。
連続で打ち出された拳をなんとなく思い出してしまった。
柄にもなく熱くなって応戦したけどあの戦闘力は人間の物とは思えない。
少なくとも僕の世界では「異常」な運動速度だった。魔法が存在する世界だからなんらかのチート、ズルはしていたのかもしれないけど魔法は通常人が使えるものじゃないとしたらーー、……いや、化け物じみてから身体強化ぐらい使っててもおかしくないか。つか使ってないと人間の底力すげー。
とか思いながらなんとなくあの人は自力な気がする。
執事長の皮を被った脳筋戦士だし。
「恐らく今回彼らが動き出したのは……やはり原因は私なのでしょう」
「竜宮の巫女?」
「ええ……、誇り高い彼らはドラゴンを使役する巫女のことを快く思っておりませんでしたから」
「ふーん……」
そこらへんはエシリヤさんから聞いた話と重複する。
違った答えが返ってくるかと思ったけどそこらへんは同じらしい。
竜宮の巫女の存在が面白くない連中がいて、巫女であるエシリアを狙っている。
構図としては単純だけど「ドラゴンという種族が」「一人の女の子を」ってなると多少大袈裟に思える。
「プライド高すぎるだろ」
そんなの放っておけばいいのに。
ドラゴンを使役するっつったって、クー様だし。ちっこい子供のドラゴンじゃないか。
「そうも言っていられないのだと思います。巫女の存在はこの国そのもの……、国が再び力をつけることになれば竜騎士団(ドラゴンライダー)も復活することになるやもしれません」
「ドラゴンライダー? ああ、馬じゃなくて竜に乗った騎士か」
「ええ、前回の戦争で国有するドラゴンは殆ど命を落とし、その乗り手も……。ドラゴンと契約するということは、命を共にすることと相違ありませんから」
「……ほぅ」
……ちょっと待て。
いま若干引っかかったことがあって反応が鈍った。
ーードラゴンと契約することは命を共にする……?
いやまさか……、いや、よくある設定だし、ありえなくもないと思うけどーー、
「……もしかしてこの世界における『契約』って割と重いものだったりする?」
「……? 質問の意味がちょっと……」
「ええっと……、だからその……。……もしかしてユーリが死んだら僕も死ぬのかなぁ……? なんて」
ちょいちょい、と先を歩いていた小さな背中と自分を指出して伝える。
いや、なんとなくーーというか凄まじく嫌な予感がするけど、まさか、
「それこそ質問の意味を計りかねます……、お二人は『契約』なさっているのでは?」
「ーーーー」
……あ、これヤバい奴だ。
僕が死んでも結梨が死んでもお互いにゲームオーバーな奴だ。
「……まじか」
結梨を見つめると目が合った。向こうも同じようなことを考えているらしく「契約」の効果なのかは知らないけど、そのことが手に取るようにわかる。
「……ユーリが死んだら僕も死ぬ……」
「ええ……?」
一人、エミリアだけは何を当たり前のことを、とでも言いたげに首を傾げていた。
嘘だろ、まじかよ……。
人間の結梨ならともかく今の結梨は猫だ。黒の神獣とか言われてるけど所詮はただの「黒い猫」だ。
この世界においての「猫」がどれほど貴重な存在なのかはわからないけど、みたところーーっていうか結梨の様子からするにそのスペックは向こうの世界の「猫」と大差ない。月明かりに照らされると人間に戻るって特殊能力があるぐらいで、普通の猫と変わりない。
つまり、そんな結梨を連れて危ないことに首を突っ込んだりしたらーー、
「……やば……」
蹴飛ばせば吹き飛ぶような体だ。
人質に使われでもしたらお互いにヤバいすぎる。
「……なによ、迷惑してんのはこっちなんだからね」
「ああ……うん……?」
結梨の言い分ももっともだろう。
黒の神獣と黒の魔導士なら戦いに巻き込まれる確率は後者の方が圧倒的に大きい。
となると僕のメリットって結梨に「死んでこい」って言われないで済むぐらいじゃ……、
「……でもまぁ……どのみちユーリが死んだら僕も生きてけないしな……」
「…………!!?」
「なっ?!」
もしも結梨をこんな世界に連れてきた上に亡きものにしてしまいました、とか冗談でも結梨の爺さんに殺される。ていうか「あの世で世話をしてこい」と成仏されかねない。
そんな意味合いで言ったのだけど、何をどう勘違いしたのか結梨テイルアタック(いま命名)が飛んできた。
「なにすんだよ!」
「変なこと言うからでしょ!?」
言われれば意識するので流す。
流石にいまのは僕も恥ずかしい。
まぁ……実際、結梨を守れなかったらどのツラ下げてこの世界で生きてんだって気もするし、命が繋がってるってならそれはそれで……、
「いやいや、僕は良いとしても結梨はダメだろ」
「……なにがよ」
「ぁーー、いや……あの……、」
思わず素で突っ込んでしまったけど、僕が死んだら結梨も道連れってのはちょっと辛い。
もちろん死ぬ気も無いし死にたくもないんだけど、連帯責任っていうには重すぎやしないか……?
それに「契約」なんて物騒なものを交わしてる割にメリットがなさすぎる。
言葉が通じる? それだけ……?
いや、通じなかったら割と困ってたかもしれないけど。マジで……。
「ユーリって神獣っぽい技とか持ってないの……? 巨大化するとか、炎を吐くとか……」
適当にいってみたつもりだけど睨んで返された。
ーーそんなことできるわけないでしょ、……かぁ……。
言葉が通じなくても幼馴染だけあってなんとなく言いたいことはわかる。
だとすれば本当にメリットないな。この関係。……契約が結ばれてるかどうか怪しいもんだけど。
「お二人はきっと契約よりももっと深いもので繋がっているのでしょうね?」
やり取りを(片側一方通行の会話を)眺めていたエミリアは笑うけど僕らとしては冗談じゃなかった。
そんな繋がりいらないから契約を解除させて欲しい……クーリングオフとかないの……?
生憎、魔導書には契約に関する記述はなかったと思うし(たぶん)。あったとしても見落としてる(のだとすれば屈辱的だ)ので一旦置いておくしかないだろう。
あの本がこちらのものだとすれば、それに関する文献もどこかに眠っているハ……ズーー、
「……おお……」
「着きましたね」
「おお……」
思わず感嘆の声を上げるしかできなかったけど、ついた。
緩やかな下り道をひたすら歩いた先に大きな扉。
振り返れば元来た道は闇の中で、待ち伏せされなかったのが不思議なほどに暗い。
「……ここが竜宮の祠……?」
「ーーの最深部ですね」
大きな石の扉があった。
地上の祠にあった扉よりもさらに大きな、そして荘厳な彫刻が刻まれたそれは二つの大きな獣のようだ。いまにも動き出しそうな迫力に思わず息を飲む。
「……」
動き出してもおかしくないーー、突然低い声で「汝らに問う……」とか言い始めてもおかしくない出来だ。
というか、生き物じゃないことが不思議に思えるほどに「生々しい」。
まるでその獣たちが実在する生き物で、生きたまま「彫刻にされた」と言っても違和感がないほどに。
「これは……?」
エミリアも神妙な面持ちで二対の巨大な獣を見上げている。
「かつての黒の神獣と黒の魔導士様です」
「……ん……?」
確かに片側は見ようによっては猫にも見える。猫科、百獣の王、ライオンか神話に登場するキマイラかーー。
荘厳なタテガミを靡かせ、鋭い牙をむき出しに吠えている。
その四肢は逞しく、鋭く伸びた爪は如何なる物さえも切り裂いてしまえそうだ。
「……これが黒の魔導士……?」
対するもう一体の「獣」は二本足で立っているように「見える」ものの、やはりそれはどう見ても獣だった。
神獣が猫ならこっちは犬かもしれない。
狼を思わせる獰猛な牙に鋭い目、全身を覆う長い毛は流水を思わせるほどに美しく流れている。
フェンリル。北斗神話に登場する月と太陽を飲み込んだロキの飼い犬を連想させるほどに巨大な顎は唸るように引きつけられている。
「……僕……変身とかできないよ……?」
今後のために、期待されても困るので釘を打っておく。
こんな大怪獣ヨロシク特撮映画みたいなのは流石にゴメンだ。
「あくまでも当時の人々がお二人の様子を描いたものですので……、『神をも屈服させる力を使いし黒の魔導士は夜と朝、昼を飲み込み、この世を支配する程に力を見せた』。かの時代から魔法を使える人は崇拝されていたようですので、恐らくは神格化してこうなったのかと……」
「はぁー……?」
あらためて見上げるが完全に怪物だ。
黒の魔導士は神様扱いされる程だった……?
初代国王を導いたとか、祭祀的な立ち位置なのかと思っていたけどこれでは鬼神に近い。
畏れた結果が信仰につながり、怒りを抑える為に生贄や祈りを捧げるーー。
……とまでは言わないけど、エミリアが「目を煌めかせるほど」に輝かしい存在なのかは疑問に思えてきた。
この世界の文字は魔導書のものと同じようだし、やっぱり伝承について書かれてる書物とか見せてもらおう……。自分が何に間違えられてるのかは把握しておいたほうがいいだろう。人違いなのだとしても「そういう風に見られる」のは避けられないんだろうし。
「あかり、あかり」
「ん? どしたの?」
「……私たちの記憶って意識と脳、どっちに基づくものだと思う?」
「……んんん……?」
何だか急に現代チックな、ファンタジーに相応しくない話題が飛び出してきて頭がついていかなかった。
「そこはほらアカシックレコードに基づくとか魂に刻まれてるとか」
「記憶ってさ、脳に保存されてる電子情報でしょう? コンピューターの0と1の配列みたいに人の頭にも刻まれてる」
「ああ……うん……」
わかった。これ何か答えて欲しいわけでも何かに同意して欲しいわけでもないや。ただ会話で考えをまとめたいだけだ……。
「でも意識ってね、……私も専門に勉強したわけじゃないから分からないんだけど……魂ってものが存在せず『記憶の情報によって』価値観や経験則なんかが反映されたものが私たちで、意識と呼ばれるものなのだとしたら……、」
「……だとしたら?」
「『脳に刻まれた記憶』って意識に反映されるのかしら……」
「……」
「だから、この体の記憶って、私たちの記憶や意識に上書き、もしくは追記されてるのかしら……?」
結梨が言いたいことはなんとなくわかった。
僕がここに入った時から感じていた違和感を有利も感じていたんだろう。
ーーこの場所に来たことがある、……気がする。
異世界に飛ばされたのだから「来たことがある」なんてことは「絶対にありえない」。
現実世界のどこかに似ているのかと思っていたけど、こんなものを向こうの世界で見たことは「絶対にない」。
だとすればその「違和感」や「既視感」は「体に刻まれたもの」ではないだろうか? ということなんだろう。
転移したのは僕らの意識か魂と呼ばれるもので、この体の持ち主に入った。精神の交換か乗っ取りなのかはわからないけど、この体が以前ここに来たことがあって、僕はそのことを知らないけど「体は覚えていた」というだけの話。
「……少なくとも他の場所に見覚えはなかったかな」
「でも、私だけじゃなくて燈も既視感(デジャブ)を感じてた。……平気よね……?」
体の記憶が意識を蝕むようなことがあるとすれば、それは知らずうちに「体の方に引っ張られていく」ことになるんだろうか。
いつのまにか「この体の持ち主」が「僕らの知識」を持つような状態にーー、
「……心配しすぎだって。大丈夫だよきっと」
「でもーー、」
「ユーリは『この体の持ち主』とか『刻まれた記憶』とか気にしてるけど僕はそう思わない」
「……?」
「たぶんこの体は僕らのものだ。見たことがあるような気がするのは『女の子』と『猫』に変換された時に書き込まれたんだと思う。……体の仕組み弄るぐらいだから記憶を弄るぐらい楽勝じゃないかな……?」
「それはそれで信じられないし怖いんだけど……」
「まぁね」
既に弄られてるのだとすればもうどうしようもないし、正直そんなことを言ったら「今の自分は本当に自分なのか」ってことになるし、そもそも自我ってなんだ。だから不安に思う気持ちは分かるけど、怯えることはない。
「大丈夫。結梨は結梨だよ。それは僕が知ってる」
「……燈(あかり)。……そんな格好で言われても説得力ないけどね」
「あはは……」
言っておいてなんだけど、僕は僕で相変わらず有利から借りた制服を着ているし、マントと帽子を被って完全に「黒魔道士」だ。我ながら自重しろって感じだけど、実はちょっと楽しい。
女の子の体になってる事自体は不便だし、気恥ずかしさもあるんだけど、やはり魔法が使える事は自分の中で大きかった。
「小難しい話し立ってしょうがないよ。受け入れよう、異世界(ファンタジー)なんだから」
「……あんたのそういうトコ、たまになんかムカつく」
「エェ……」
「……けど……、こういう時は助かる……ありがと……」
「どういたしまして……?」
結梨が素直にアリガトウなんてなにか変なこと考えてるんじゃないかって怖いんだけど……。
「で、どーすんのよ? 開けないの?」
関心は扉の向こう側に移ったようなのでひとまずホッとする。
別に深い意味はなかったらしい。
「開けないのかって、ユーリが」
「ゆ・う・り!」
「ああ!」
結梨の言葉がわからず首を傾げていたエミリアに言葉を通す。
僕らがどーでもいい話をしている間もエミリアはエミリアで僕らをずっと眺めていて、扉の中に入ろうとはしなかった。
というかそもそも、こんな扉どうやって開けるんだろう。また引き戸ってわけでもないだろうし、そもそも「引き戸」で開くサイズとも思えない。
「こちらをご覧ください」
「ほう?」
促されたのは二枚の扉が合わさっている中央部分、ちょうど胸ぐらい高さのところを中心に紋章が描かれていた。
「二体のドラゴン……か?」
「ええっ、そうです」
この紋章は城の中でも何度か見たことがある。
クー様をかなり大きくしたーー、のではなく成長させたような姿のドラゴンだと思ったのを覚えてる。
けど、城のものは「一体のドラゴン」だった。
ここの紋章に描かれているのは陰と陽を表す太極図(たいきょくず)のように互いを飲み込まんとするような二対のドラゴンだ。
片側は禍々しく燃え上り、もう片方は流れる水が如く美しい。
「初代国王の紋章です。2体のドラゴンと契約したそうで……」
「ふーん……」
連帯責任の契約を二体とねぇ……?
正直理解に苦しむ。
「んで、どうやって開けるんだ?」
「いえ、簡単なことです。ここにこーして」
笑顔でエミリアが紋章に手を置くと、
「おおおおお!!?」
手を置いた所を中心に紋章に光が走り、それは徐々に広がってーー、
「スゲぇ!」
一瞬で門全体を、門に刻まれた彫刻を、光が染め上げた。
「……すごいな、エミリア!」
「そんなそんなっ……私は何もっ……」
手をそのままに照れるエミリア。
先ほどまでぼんやりとしか見えなかった彫刻や紋章がかなり細かく彫られていることが分かり、再び感嘆の声を漏らす。
「……で、どーなんのよココから」
「……へ?」
結梨に言われてふとエミリアを見つめる。
扉が開く様子もなければ「汝らに問う……」なんて言葉も聞こえてはこない。
「え……えーと……?」
なんとなく嫌な予感がした。
考えてみれば上の祠も引き戸を「力づく」で開けていた。
どういう仕組みかは分からないが、全身の体重を乗せれば「ズズズーっ」と動く程度に力技だった。
……となると、まさかここも……?
「手伝っていただいてよろしいですか?」
ーーえー……。
なんなんだよこの脳筋システム。魔法があるのに筋力頼りっておかしいだろ……。
とか思わないでもないんだけど、魔力源が限られていて必要最低限しか魔法を行使できない状況で「魔法を相手にする」となると、魔法に対抗するほどの「身体能力を備える必要がある」ってことなんだろう。だとすればアルベルトさんの超人スキルにも納得がいく。
「……納得していいのかな、あれは……」
ウダウダ言ってても仕方がないので肩を鳴らしながら扉に手をやると、エミリアが不思議そうな顔でこちらを見上げた。
「ええっと……、押すのではなく叩くんですよ?」
「……叩く……?」
殴るの間違いじゃなくて?
なんだか物騒な思考回路になりかけてるのはこの体の持ち主うんぬん。
それは否定したので脇に置いといて、エミリアに「どういうこと?」と尋ねる。
「この扉は分厚くて、向こう側まで声を届かせるのは大変です。ーーですから、」
コンコン、と空いた左手でノックするかのように扉を叩いた。
「このようにしてお知らせするのです」
「……お知らせって……一体誰に」
そして一体何を……。
唖然とする僕をよそにエミリアは嬉しそうに微笑み、胸を張って見せた。
「この国の主様ですっ」
……。
対照的に僕の頭は考えることをやめていた。
あれだ、拳と拳で語らおうから始まったわけだし、この世界では考えるな感じろ精神なんだ、きっと。
深追いしたら怪我をする。なんとなくその場の雰囲気でなんとなく肉体言語で答えよう。うん、そうしようーー。
真面目に考えたところで無駄かもしれないと悟り、右足を下げて扉(というよりも壁)を殴り飛ばす準備をしたところで「ばっかじゃないの」といつも通り、結梨から冷めたツッコミが飛んできた。
「力任せでどーすんのよ。頭使いなさいよアタマ。あんたはそういうタイプじゃないでしょ」
「……え……でも……、」
「もしもーし」
呆然とする僕の前で結梨はコンコン、と扉をノックし声をかける。
「……」
そういえば祠の扉を開けたのも実質は結梨みたいなもんだ。
もしかしてこの扉も……、
「……ほら、あんたもやりなさいよ。私の声じゃ聞こえても『伝わらない』んだから」
「あ、そっか」
僕も習って扉をノックする。もしもーし。
エミリアは不思議そうな顔をしているが思えばこんな重い扉を力技であけようとする方がおかしい。
中に誰かいるなら鍵だって閉まってるかもしれないし開けてもらえればーー、
「鍵はお主らが開けたじゃろう」
……なんか聞こえた。
「あー……? お……?」
もしかして結梨がふざけたのかと思って顔を見合わせる。……見合わせたってことは僕らじゃない。
エミリアに振ってみると「えへへ」と照れくさそうに笑った。
「エミリア……?」
「いっ、いえ! 私じゃないですよ!? 主様です!!」
「主様……」
再び沈黙を見つめると声は続いてこない。
「えーと……主様……?」
こちらの声が聞こえてるのだろうか。
少なくとも向こう側から聞こえた声はとても鮮明だった。
とても扉越しに聞こえたようには感じず、直接脳内にでもーー、
「察しがいいな小娘」
「……」
面倒くさいタイプが待ってるんだなー……。
「二人にも聞こえてるんだよね?」
確認を取る。エミリアは嬉しそうに頷き、結梨は驚きながらも小さく頷いた。
脳筋だとかなんとか考えてたけどちゃんと異世界(ファンタジー)してるじゃないか……。
どうやらこの扉の向こう側にいる「主様」とかいう人は、他人(ひと)の頭のなかを読み取り、さらに「頭の中に直接」話しかけられる力を持っているらしい。
ある意味チートだ。主様とか言われるのも頷ける。他人の考えが読めるなら支配するのも簡単だろう。
『考えを巡らせるばかりで体を動かさぬーー、愚か者のすることじゃぞ』
「脳筋は良くないって叱られたばかりなんだよ」
というか、人の頭の中を覗いておいて文句を言うなんて図々しすぎるだろうヌシ様。心狭くないか。
『聞こえとる』
「聞こえるように言っとる」
「あかり?」
「はぁー……」
結梨が怪訝そうに首を傾げるけどなんだか急に面倒になってきた……。
ここまで気を張ってきた反動か、急に緩い空気にやる気が削られて、僕が真剣になってたのがバカみたいに思える。いや、そんなことはないんだろうけどさ……なんていうかーー、
「状況わかってるのか、この主様って」
「どうでしょう……? この国の事は把握していらっしゃるはずですが、なにぶん高齢なもので……」
「「おい」」
……奇遇だな主様、いまハモったぞ。
「とりあえず押せば開くのか?」
……主様から返事はないっと。
うぃーっと扉を押してみるけどビクともしない。
心なしか扉の向こう側から笑い声が聞こえた気がした。
「……ちょっと退け、エミリア」
「へ、え、あっ……?」
流石にちょっとムカッと来た。
扉の向こう側には人がいて? 鍵は開いているから入れという。
けれどその扉は押しても開かず、もちろん引き戸って罠でもない。
なのに入り方を教えてくれないってならーー、
「……ちょっと手荒にやっても文句は言われないだろ」
好きに入れと拡大解釈させて頂く。
頭の中に浮かべるのはあの魔道書。
パラパラとページをめくり、必要な魔法陣を幾つか取り出してーー、
「後悔すんなよヌシ様。手加減はできないと思うからさーー、」
両手を前に突きだし、魔法陣を一つ展開すると更にそこに「魔法陣を重ねがけ」していく。
一つ、二つ、三つ。
青白く光る円形のそれは幾何学模様を中で渦巻かせながらも互いに作用し始め、徐々に収縮されていく。
「喰らえッ、複合魔術・天元の雷槌!!!」
「ちょっ、燈(あかり)!!!」
結梨の叫び声を掻き消すかのように魔法陣の作動する耳鳴りのような音が響き、魔法陣が歯車のように回転し始めるとーー、
「……ぉ……?」
しゅ~っと紋章に吸い込まれていった。
「……え……?」
代わりに訪れたのは沈黙である。
否、静寂とも呼べる。
何が起こったのかわからないエミリアは目を丸くし、僕もぱちくり瞬きを繰り返した。
「……失敗した……?」
複合魔術は魔導書の中に記載されていた「魔術を乗算させる方法」だ。
無論組み合わせがあり、相反する魔術を掛け合わせようとしてもうまくいかない。
一度も試したことない(向こうの世界では発動しなくて当たり前だった)から初挑戦だったんだけど……、
「……はぁー……なんかこの感じ久しぶりだなぁ……」
盛大にバットを空振りした虚しさがある。
この世界にきて「魔法が使えるのが当たり前」だったから「発動しない」のってこんなに寂しいものだったんだな……。なんだかその「当たり前の事」を再実感した。
せいいっぱい頭を働かせて、知恵を振り絞って解読した魔導書。
書かれている言葉を授業で習う英語そっちのけで覚え、翻訳し、理解しようとした。
いま思えば英語なんてあの世界の言語だ。同じ世界で4本足の愛玩動物といえば犬か猫でドックかキャットみたいな単純な話だ。……どれだけの苦労と時間をかけて僕は本を読み解き、魔法陣を描いた上で「失敗し続けて来た」のか……。
それまでに積み重ねてきた労力が「わかっていながらも無駄になる瞬間」、いや「無駄だったんだ」と突きつけられるあの感覚ーー。
それを久ししぶりに味わい、僕は落胆していた。
いや、失望していた。僕自身の無力さに、「想いを形にできない不甲斐なさにーー」。
「燈(あかり)!! バカなこと言ってないで!」
「ん……?」
結梨に怒られて視線を戻すと紋章が光っていた。
「……あれ……」
魔法はどうやら消えていなかったらしい。
不発か思いもよらぬ化学反応か、扉の紋章がじんわりと光り始めたかと思えば「うわっ?!!」目を覆う程の光が扉から発せられた。思わず一歩後ろに飛び下がり、構える。半分上に上げた腕で光を遮り、悲鳴を上げた。
地響きを伴い、大きな音を立てながら扉が奥へと動いていた。
二つの大きな彫刻の施された扉は「自ら」その扉としての役割を果たそうとしていたーー。
「ーーーー」
そうして十数メートルはあるであろう両開きの扉が開き、奥の部屋に閉じ込められていたのであろう空気が雪崩れ出してくる。
足元から、ゾワッと。思わず一歩後ろに退いてしまうほどの「なにか」が。
「……燈」
その空気から逃げるように肩によじ登ってきた結梨がその目を奥の部屋へと向ける。
「ああ……」
僕自身、柄にもなく緊張していた。ごくり、と息を飲み、神経をそこに集中させる。
猫の目ならばその部屋に、いや大きく「開いた空間に」鎮座する物体をハッキリと見えているのだろう。
徐々に目が慣れていく中、ゆらゆらと青い炎によって浮かび上がる姿を僕も捉え始めていた。
分かっていた、何処かでこうなるんじゃないかってのは気付いていたーー。
それでも尚、息を飲み、緊張せざるえない圧倒的な存在感がそこにはあった。
憧れていた。何処かでこう言う出会いを求めていたーー。
そして魔法に引き続き、僕はその存在に出会うことになった。
「……紅(あか)いドラゴン……」
部屋の中には巨大な、……地下とは思えない大きな空洞の中の中に地上の祠ほどある身体をした「ドラゴンが」こちらを睨んでいたーー。
石の壁に松明でもあるのかと思っていたけど、当然ながら誰も管理していないんだからそれを刺すところはあっても火種はない。
しかしぼんやりと足元の石畳が光り、周囲を浮かび上がらせていた。
……これも何かの魔法なのか……?
足を止めて振り返ると「歩いてきたところ」は光が消えている。
どうやら僕たちが向かう先に向かって光は点灯していくらしい。緩やかに下っている先まで見えるが、奥の方は闇だ。
何かが飛び出してくるとは考えづらいけど一応警戒しながら進む。
比較的丁寧に作られているようで躓くようなことはなさそうだけど、それでもなにがあるか分からない。
しかしエミリアとクー様は呑気なもので鼻歌交じりに歩いていた。
「楽しみだねクーちゃん?」
内証話でもするかのようにクスクスと笑いながら進んでいく。
一本道。地下に向かって一直線だ。軽く左側に曲がっているような感じもする。ぐるぐると螺旋状に下に向かってる……? かといっても緩やか過ぎてどれだけ曲がっているのか、どれだけ降ったのかも分からない。けれど不思議と不気味さはなかった。
「ねぇ、ユーリ。どう思う」
「ゆ・う・り。……どうって何がよ」
声を抑えたのを察してくれたのか結梨は肩まで登ってくる。
「罠とかあるのかな。もしくは待ち伏せとか」
「動物があの扉開けられるとは思えない。……待ち伏せされてたとしてもこんな一本道じゃお互いにやりづらいでしょ」
「それもそうか……」
道自体は人が二人並べば少し狭く感じるほどの広さしかない。
天井も思いっきり跳べば触れられるほどで確かに襲うにしても剣は振り回せないだろう。
もしもナイフなんかを構えて突撃されたとしても身を隠せる所はないし、十分な距離をとって発見できる……かな。
「……なによ。そんなに心配?」
「ん……まぁ……うん……」
自分でもなにがそんな不安なのか分からずにいた。
さっきの見られていた感覚が残っているのか、それともこの建物の雰囲気がそうさせるのか……。
……落ち着かない。
気にしすぎだというのはわかる、でも何か忘れているような……そんな感覚がつきまとって気が散った。
なにがそんなに気になるのか分からない。
当然ながら一度も来たことはないし、向こうの世界の何かに似てるってわけでもないーー。
うーん? と頭をひねって魔導書の中の知識だろうかと考えてみるけど取っ掛かりは見つからなかった。
「ここって大昔からあるんだっけ?」
先を行くエミリアに尋ねると自分のことのように嬉しそうに答えてくれた。
「はいっ、我が王国はこの地より始まったと聞いております。この地でかの黒の魔導士と共に初代国王はドラゴンと契約を交わし、国を起こしたそうです」
「黒の魔導士とその初代の国王さまとはどういう関係だったんだ?」
「さぁ……? この地に混沌が蔓延し時に黒の獣を従えし魔導士が現れ、とある青年に啓示をもたらしたそうなんです。『そなたは神を従える力をも秘めている』と」
「神ねぇ……」
「ドラゴンは神獣の一つとして扱われることもありますから……」
確かに他の生物とは一線を画している感じはある。この世界の動物たちは向こうの世界のものとそう変わらない。
カラスの羽が多かったり、狼の牙が異常に発達していたりと「生物が進化する上でありえたかもしれない」と思える程度だった。
しかし、ドラゴンはーー、
「クゥ?」
「いや、かっこいいなって」
「クゥッ!」
ホワードと祭られ、目の前にいるクー様は「そういう常識」とは違うところにいるような気がする。
魔法や神話、そういった異世界(ファンタジー)の部分だ。魔法(ファンタジー)が現実となった今でもそう思うのだからこちら側の人たちからすれば遥かに神聖な存在なのかもしれない。
エミリアに懐く姿は猫か犬だけど。
「……猫が神獣って言われてるのもそれはそれで不思議なんだけどな」
「牛や豚が神の遣いってところもあるから、それもアリなんじゃない?」
「……まぁ……しゃべるしね、ユーリ……」
向こうの世界に帰っても喋る猫なら神扱いされそうだ。
もっとも、結梨の声が聞こえるのは僕だけっぽいけど。これはあの転移魔法の効果と考えるか、それとも黒の魔導士と黒の神獣の間に交わされたなんらかの契りと考えるかーー。
どちらにせよ、考えたところで答えは出ない……か。
「ドラゴンが神獣だってのはわかったんだけどなんでそのドラゴンに狙われてんだ?」
「…………」
「……ん……?」
エミリアから返事はない。僅かに肩がこわばったように見えたから聞こえてはいるはずだけど……。
「バカ」
「え?」
結梨がため息まじりに吐く。
「……もしかして聞いちゃいけないことだった……?」
これは結梨に聞いたことだったけど答えたのはエミリアだった。
「いえ……、向き合わなくてはならない問題だとはわかってますから……」
苦しげに浮かべた笑顔が痛い。
クー様が肩で気遣い、それに「平気だよ?」と首をかしげる。
僕は結梨に目をやって「ばーか」二度目のバカを頂戴してしまった。
「国内にいるドラゴンは数えるばかりしかおりませんが、この世界にはある一定数の数が存在しています。……正確な数はわかりかねますが、それこそ人間を滅ぼすには十分な数が」
「滅ぼすって物騒な……」
半分冗談で言ったつもりだったけどエミリアは曖昧に微笑んで誤魔化しただけだった。
どうやらわりとマジな話みたいだ……。
「それが……なんでエミリアを狙うんだ?」
「竜宮の巫女とはかつて一体のドラゴンを従えたこの国の国王の伝説から継承されてきたものです。本来は国王がその任についていたのですが、そもそもドラゴンと人は相容れぬ存在。……言葉も通じなければ文化も違います。彼らには彼らの世界があり、私たちは互いに干渉はしません」
「でもクー様は一緒に暮らしてるよな?」
「クゥッ」とひと鳴き。とてもじゃないが「相容れぬ存在」とは思えない。
それに「滅ぼすには十分な数」がいるのに「相容れぬ存在」を容認しているのも謎だ。
不可侵条約があるわけでもあるまいに。……いや、あるのかな、この場合……?
「クーちゃんは特別なので。ーー人里に生まれて、人に育てられましたから」
「クゥッ」
「……?」
捨て犬を拾った、みたいな言い方だなほんと。
負い目を感じている様子もあるみたいだし、事情は複雑のようだ。ーーもっとも、僕としてはあまり踏み込みたくはないんだけどーー、
「そのクー様を目の敵にしてるとかそんな感じ? ドラゴンの身でありながら人間に力を貸すとは何事だーみたいな」
「ええ、まぁ……? そんなところです」
「ふーん……」
気乗りしない話題であるのはわかるが、妙に歯切れの悪い容姿に話も弾まない。
ーー何かを隠してる……? ような気もするし、考えすぎなような……??
結梨の様子をチラ見してみたけど黙って歩いているだけで特に変わった様子はない。
こういうことに関しては僕よりも結梨の方が向いてると思うんだけどなぁ……。
当の本人は傍観を決め込んで話しかけようとしなかった。もちろん、猫の言葉が通じる訳がないんだけど、そこはほら、僕という通訳(フィルター)を通したって良いワケで。
「ねぇ、ユーリ。神獣様として何か一言」
「会話を放棄しないで黒の魔導士サマ? あと、ユ・ウ・リ」
この世界では結梨より「ユーリ」の方が合ってると思うのになんとも勿体ない。
「ユーリ様はほんとうにお優しいのですね」
「ハァ!?」
言葉は通じていないはずだがクー様と心通わせるエミリアには結梨の言葉も多少わかるものがあるのかもしれない。
素っ頓狂な声を上げた結梨に微笑んで言葉を続けた。
「神獣様方は皆様気難しい方ばかりだと聞いておりますので……人の身である私たちに力を貸してくださるだなんて……、失礼ながら信じることができません」
「はぁ……?」
神獣様方、ってことは結梨みたいなのが他にもいるのか? ……猫とか犬が?
「でも街中歩いてても何も言われなかったけど?」
「黒の神獣様が街中を歩いているだなんて誰も思いませんもの」
有名人が街中に溶け込みすぎてて誰も気づかない、みたいな感じだろうか。
「はー……そういうもんですかー……」
神獣といえど所詮は結梨なので実感もわかない。
「なによ」
「いやなにも……?」
お互い厄介なものにされてしまったもんだと少しは同情する。
逆の立場だったらどうだろう。……女の子になるよりも猫の方がマシだったかもしれないな。
「僕からしたらクー様の方が稀少に思えるんだけどな」
「クゥ?」
だってドラゴンだし。
「まぁ……。……クーちゃんが狙われているのは確かなんですが……それだけでは彼らも手を出してきません。ドラゴンといえど、人と戦争になればただでは済みませんから」
「ホゥ……」
性能で勝るドラゴンに対し、数で応戦する人間達、ってことかな。
実際、アルベルトさんみたいなのが人の側にもいるみたいだし、人間離れしてたけどさ、アレは。
連続で打ち出された拳をなんとなく思い出してしまった。
柄にもなく熱くなって応戦したけどあの戦闘力は人間の物とは思えない。
少なくとも僕の世界では「異常」な運動速度だった。魔法が存在する世界だからなんらかのチート、ズルはしていたのかもしれないけど魔法は通常人が使えるものじゃないとしたらーー、……いや、化け物じみてから身体強化ぐらい使っててもおかしくないか。つか使ってないと人間の底力すげー。
とか思いながらなんとなくあの人は自力な気がする。
執事長の皮を被った脳筋戦士だし。
「恐らく今回彼らが動き出したのは……やはり原因は私なのでしょう」
「竜宮の巫女?」
「ええ……、誇り高い彼らはドラゴンを使役する巫女のことを快く思っておりませんでしたから」
「ふーん……」
そこらへんはエシリヤさんから聞いた話と重複する。
違った答えが返ってくるかと思ったけどそこらへんは同じらしい。
竜宮の巫女の存在が面白くない連中がいて、巫女であるエシリアを狙っている。
構図としては単純だけど「ドラゴンという種族が」「一人の女の子を」ってなると多少大袈裟に思える。
「プライド高すぎるだろ」
そんなの放っておけばいいのに。
ドラゴンを使役するっつったって、クー様だし。ちっこい子供のドラゴンじゃないか。
「そうも言っていられないのだと思います。巫女の存在はこの国そのもの……、国が再び力をつけることになれば竜騎士団(ドラゴンライダー)も復活することになるやもしれません」
「ドラゴンライダー? ああ、馬じゃなくて竜に乗った騎士か」
「ええ、前回の戦争で国有するドラゴンは殆ど命を落とし、その乗り手も……。ドラゴンと契約するということは、命を共にすることと相違ありませんから」
「……ほぅ」
……ちょっと待て。
いま若干引っかかったことがあって反応が鈍った。
ーードラゴンと契約することは命を共にする……?
いやまさか……、いや、よくある設定だし、ありえなくもないと思うけどーー、
「……もしかしてこの世界における『契約』って割と重いものだったりする?」
「……? 質問の意味がちょっと……」
「ええっと……、だからその……。……もしかしてユーリが死んだら僕も死ぬのかなぁ……? なんて」
ちょいちょい、と先を歩いていた小さな背中と自分を指出して伝える。
いや、なんとなくーーというか凄まじく嫌な予感がするけど、まさか、
「それこそ質問の意味を計りかねます……、お二人は『契約』なさっているのでは?」
「ーーーー」
……あ、これヤバい奴だ。
僕が死んでも結梨が死んでもお互いにゲームオーバーな奴だ。
「……まじか」
結梨を見つめると目が合った。向こうも同じようなことを考えているらしく「契約」の効果なのかは知らないけど、そのことが手に取るようにわかる。
「……ユーリが死んだら僕も死ぬ……」
「ええ……?」
一人、エミリアだけは何を当たり前のことを、とでも言いたげに首を傾げていた。
嘘だろ、まじかよ……。
人間の結梨ならともかく今の結梨は猫だ。黒の神獣とか言われてるけど所詮はただの「黒い猫」だ。
この世界においての「猫」がどれほど貴重な存在なのかはわからないけど、みたところーーっていうか結梨の様子からするにそのスペックは向こうの世界の「猫」と大差ない。月明かりに照らされると人間に戻るって特殊能力があるぐらいで、普通の猫と変わりない。
つまり、そんな結梨を連れて危ないことに首を突っ込んだりしたらーー、
「……やば……」
蹴飛ばせば吹き飛ぶような体だ。
人質に使われでもしたらお互いにヤバいすぎる。
「……なによ、迷惑してんのはこっちなんだからね」
「ああ……うん……?」
結梨の言い分ももっともだろう。
黒の神獣と黒の魔導士なら戦いに巻き込まれる確率は後者の方が圧倒的に大きい。
となると僕のメリットって結梨に「死んでこい」って言われないで済むぐらいじゃ……、
「……でもまぁ……どのみちユーリが死んだら僕も生きてけないしな……」
「…………!!?」
「なっ?!」
もしも結梨をこんな世界に連れてきた上に亡きものにしてしまいました、とか冗談でも結梨の爺さんに殺される。ていうか「あの世で世話をしてこい」と成仏されかねない。
そんな意味合いで言ったのだけど、何をどう勘違いしたのか結梨テイルアタック(いま命名)が飛んできた。
「なにすんだよ!」
「変なこと言うからでしょ!?」
言われれば意識するので流す。
流石にいまのは僕も恥ずかしい。
まぁ……実際、結梨を守れなかったらどのツラ下げてこの世界で生きてんだって気もするし、命が繋がってるってならそれはそれで……、
「いやいや、僕は良いとしても結梨はダメだろ」
「……なにがよ」
「ぁーー、いや……あの……、」
思わず素で突っ込んでしまったけど、僕が死んだら結梨も道連れってのはちょっと辛い。
もちろん死ぬ気も無いし死にたくもないんだけど、連帯責任っていうには重すぎやしないか……?
それに「契約」なんて物騒なものを交わしてる割にメリットがなさすぎる。
言葉が通じる? それだけ……?
いや、通じなかったら割と困ってたかもしれないけど。マジで……。
「ユーリって神獣っぽい技とか持ってないの……? 巨大化するとか、炎を吐くとか……」
適当にいってみたつもりだけど睨んで返された。
ーーそんなことできるわけないでしょ、……かぁ……。
言葉が通じなくても幼馴染だけあってなんとなく言いたいことはわかる。
だとすれば本当にメリットないな。この関係。……契約が結ばれてるかどうか怪しいもんだけど。
「お二人はきっと契約よりももっと深いもので繋がっているのでしょうね?」
やり取りを(片側一方通行の会話を)眺めていたエミリアは笑うけど僕らとしては冗談じゃなかった。
そんな繋がりいらないから契約を解除させて欲しい……クーリングオフとかないの……?
生憎、魔導書には契約に関する記述はなかったと思うし(たぶん)。あったとしても見落としてる(のだとすれば屈辱的だ)ので一旦置いておくしかないだろう。
あの本がこちらのものだとすれば、それに関する文献もどこかに眠っているハ……ズーー、
「……おお……」
「着きましたね」
「おお……」
思わず感嘆の声を上げるしかできなかったけど、ついた。
緩やかな下り道をひたすら歩いた先に大きな扉。
振り返れば元来た道は闇の中で、待ち伏せされなかったのが不思議なほどに暗い。
「……ここが竜宮の祠……?」
「ーーの最深部ですね」
大きな石の扉があった。
地上の祠にあった扉よりもさらに大きな、そして荘厳な彫刻が刻まれたそれは二つの大きな獣のようだ。いまにも動き出しそうな迫力に思わず息を飲む。
「……」
動き出してもおかしくないーー、突然低い声で「汝らに問う……」とか言い始めてもおかしくない出来だ。
というか、生き物じゃないことが不思議に思えるほどに「生々しい」。
まるでその獣たちが実在する生き物で、生きたまま「彫刻にされた」と言っても違和感がないほどに。
「これは……?」
エミリアも神妙な面持ちで二対の巨大な獣を見上げている。
「かつての黒の神獣と黒の魔導士様です」
「……ん……?」
確かに片側は見ようによっては猫にも見える。猫科、百獣の王、ライオンか神話に登場するキマイラかーー。
荘厳なタテガミを靡かせ、鋭い牙をむき出しに吠えている。
その四肢は逞しく、鋭く伸びた爪は如何なる物さえも切り裂いてしまえそうだ。
「……これが黒の魔導士……?」
対するもう一体の「獣」は二本足で立っているように「見える」ものの、やはりそれはどう見ても獣だった。
神獣が猫ならこっちは犬かもしれない。
狼を思わせる獰猛な牙に鋭い目、全身を覆う長い毛は流水を思わせるほどに美しく流れている。
フェンリル。北斗神話に登場する月と太陽を飲み込んだロキの飼い犬を連想させるほどに巨大な顎は唸るように引きつけられている。
「……僕……変身とかできないよ……?」
今後のために、期待されても困るので釘を打っておく。
こんな大怪獣ヨロシク特撮映画みたいなのは流石にゴメンだ。
「あくまでも当時の人々がお二人の様子を描いたものですので……、『神をも屈服させる力を使いし黒の魔導士は夜と朝、昼を飲み込み、この世を支配する程に力を見せた』。かの時代から魔法を使える人は崇拝されていたようですので、恐らくは神格化してこうなったのかと……」
「はぁー……?」
あらためて見上げるが完全に怪物だ。
黒の魔導士は神様扱いされる程だった……?
初代国王を導いたとか、祭祀的な立ち位置なのかと思っていたけどこれでは鬼神に近い。
畏れた結果が信仰につながり、怒りを抑える為に生贄や祈りを捧げるーー。
……とまでは言わないけど、エミリアが「目を煌めかせるほど」に輝かしい存在なのかは疑問に思えてきた。
この世界の文字は魔導書のものと同じようだし、やっぱり伝承について書かれてる書物とか見せてもらおう……。自分が何に間違えられてるのかは把握しておいたほうがいいだろう。人違いなのだとしても「そういう風に見られる」のは避けられないんだろうし。
「あかり、あかり」
「ん? どしたの?」
「……私たちの記憶って意識と脳、どっちに基づくものだと思う?」
「……んんん……?」
何だか急に現代チックな、ファンタジーに相応しくない話題が飛び出してきて頭がついていかなかった。
「そこはほらアカシックレコードに基づくとか魂に刻まれてるとか」
「記憶ってさ、脳に保存されてる電子情報でしょう? コンピューターの0と1の配列みたいに人の頭にも刻まれてる」
「ああ……うん……」
わかった。これ何か答えて欲しいわけでも何かに同意して欲しいわけでもないや。ただ会話で考えをまとめたいだけだ……。
「でも意識ってね、……私も専門に勉強したわけじゃないから分からないんだけど……魂ってものが存在せず『記憶の情報によって』価値観や経験則なんかが反映されたものが私たちで、意識と呼ばれるものなのだとしたら……、」
「……だとしたら?」
「『脳に刻まれた記憶』って意識に反映されるのかしら……」
「……」
「だから、この体の記憶って、私たちの記憶や意識に上書き、もしくは追記されてるのかしら……?」
結梨が言いたいことはなんとなくわかった。
僕がここに入った時から感じていた違和感を有利も感じていたんだろう。
ーーこの場所に来たことがある、……気がする。
異世界に飛ばされたのだから「来たことがある」なんてことは「絶対にありえない」。
現実世界のどこかに似ているのかと思っていたけど、こんなものを向こうの世界で見たことは「絶対にない」。
だとすればその「違和感」や「既視感」は「体に刻まれたもの」ではないだろうか? ということなんだろう。
転移したのは僕らの意識か魂と呼ばれるもので、この体の持ち主に入った。精神の交換か乗っ取りなのかはわからないけど、この体が以前ここに来たことがあって、僕はそのことを知らないけど「体は覚えていた」というだけの話。
「……少なくとも他の場所に見覚えはなかったかな」
「でも、私だけじゃなくて燈も既視感(デジャブ)を感じてた。……平気よね……?」
体の記憶が意識を蝕むようなことがあるとすれば、それは知らずうちに「体の方に引っ張られていく」ことになるんだろうか。
いつのまにか「この体の持ち主」が「僕らの知識」を持つような状態にーー、
「……心配しすぎだって。大丈夫だよきっと」
「でもーー、」
「ユーリは『この体の持ち主』とか『刻まれた記憶』とか気にしてるけど僕はそう思わない」
「……?」
「たぶんこの体は僕らのものだ。見たことがあるような気がするのは『女の子』と『猫』に変換された時に書き込まれたんだと思う。……体の仕組み弄るぐらいだから記憶を弄るぐらい楽勝じゃないかな……?」
「それはそれで信じられないし怖いんだけど……」
「まぁね」
既に弄られてるのだとすればもうどうしようもないし、正直そんなことを言ったら「今の自分は本当に自分なのか」ってことになるし、そもそも自我ってなんだ。だから不安に思う気持ちは分かるけど、怯えることはない。
「大丈夫。結梨は結梨だよ。それは僕が知ってる」
「……燈(あかり)。……そんな格好で言われても説得力ないけどね」
「あはは……」
言っておいてなんだけど、僕は僕で相変わらず有利から借りた制服を着ているし、マントと帽子を被って完全に「黒魔道士」だ。我ながら自重しろって感じだけど、実はちょっと楽しい。
女の子の体になってる事自体は不便だし、気恥ずかしさもあるんだけど、やはり魔法が使える事は自分の中で大きかった。
「小難しい話し立ってしょうがないよ。受け入れよう、異世界(ファンタジー)なんだから」
「……あんたのそういうトコ、たまになんかムカつく」
「エェ……」
「……けど……、こういう時は助かる……ありがと……」
「どういたしまして……?」
結梨が素直にアリガトウなんてなにか変なこと考えてるんじゃないかって怖いんだけど……。
「で、どーすんのよ? 開けないの?」
関心は扉の向こう側に移ったようなのでひとまずホッとする。
別に深い意味はなかったらしい。
「開けないのかって、ユーリが」
「ゆ・う・り!」
「ああ!」
結梨の言葉がわからず首を傾げていたエミリアに言葉を通す。
僕らがどーでもいい話をしている間もエミリアはエミリアで僕らをずっと眺めていて、扉の中に入ろうとはしなかった。
というかそもそも、こんな扉どうやって開けるんだろう。また引き戸ってわけでもないだろうし、そもそも「引き戸」で開くサイズとも思えない。
「こちらをご覧ください」
「ほう?」
促されたのは二枚の扉が合わさっている中央部分、ちょうど胸ぐらい高さのところを中心に紋章が描かれていた。
「二体のドラゴン……か?」
「ええっ、そうです」
この紋章は城の中でも何度か見たことがある。
クー様をかなり大きくしたーー、のではなく成長させたような姿のドラゴンだと思ったのを覚えてる。
けど、城のものは「一体のドラゴン」だった。
ここの紋章に描かれているのは陰と陽を表す太極図(たいきょくず)のように互いを飲み込まんとするような二対のドラゴンだ。
片側は禍々しく燃え上り、もう片方は流れる水が如く美しい。
「初代国王の紋章です。2体のドラゴンと契約したそうで……」
「ふーん……」
連帯責任の契約を二体とねぇ……?
正直理解に苦しむ。
「んで、どうやって開けるんだ?」
「いえ、簡単なことです。ここにこーして」
笑顔でエミリアが紋章に手を置くと、
「おおおおお!!?」
手を置いた所を中心に紋章に光が走り、それは徐々に広がってーー、
「スゲぇ!」
一瞬で門全体を、門に刻まれた彫刻を、光が染め上げた。
「……すごいな、エミリア!」
「そんなそんなっ……私は何もっ……」
手をそのままに照れるエミリア。
先ほどまでぼんやりとしか見えなかった彫刻や紋章がかなり細かく彫られていることが分かり、再び感嘆の声を漏らす。
「……で、どーなんのよココから」
「……へ?」
結梨に言われてふとエミリアを見つめる。
扉が開く様子もなければ「汝らに問う……」なんて言葉も聞こえてはこない。
「え……えーと……?」
なんとなく嫌な予感がした。
考えてみれば上の祠も引き戸を「力づく」で開けていた。
どういう仕組みかは分からないが、全身の体重を乗せれば「ズズズーっ」と動く程度に力技だった。
……となると、まさかここも……?
「手伝っていただいてよろしいですか?」
ーーえー……。
なんなんだよこの脳筋システム。魔法があるのに筋力頼りっておかしいだろ……。
とか思わないでもないんだけど、魔力源が限られていて必要最低限しか魔法を行使できない状況で「魔法を相手にする」となると、魔法に対抗するほどの「身体能力を備える必要がある」ってことなんだろう。だとすればアルベルトさんの超人スキルにも納得がいく。
「……納得していいのかな、あれは……」
ウダウダ言ってても仕方がないので肩を鳴らしながら扉に手をやると、エミリアが不思議そうな顔でこちらを見上げた。
「ええっと……、押すのではなく叩くんですよ?」
「……叩く……?」
殴るの間違いじゃなくて?
なんだか物騒な思考回路になりかけてるのはこの体の持ち主うんぬん。
それは否定したので脇に置いといて、エミリアに「どういうこと?」と尋ねる。
「この扉は分厚くて、向こう側まで声を届かせるのは大変です。ーーですから、」
コンコン、と空いた左手でノックするかのように扉を叩いた。
「このようにしてお知らせするのです」
「……お知らせって……一体誰に」
そして一体何を……。
唖然とする僕をよそにエミリアは嬉しそうに微笑み、胸を張って見せた。
「この国の主様ですっ」
……。
対照的に僕の頭は考えることをやめていた。
あれだ、拳と拳で語らおうから始まったわけだし、この世界では考えるな感じろ精神なんだ、きっと。
深追いしたら怪我をする。なんとなくその場の雰囲気でなんとなく肉体言語で答えよう。うん、そうしようーー。
真面目に考えたところで無駄かもしれないと悟り、右足を下げて扉(というよりも壁)を殴り飛ばす準備をしたところで「ばっかじゃないの」といつも通り、結梨から冷めたツッコミが飛んできた。
「力任せでどーすんのよ。頭使いなさいよアタマ。あんたはそういうタイプじゃないでしょ」
「……え……でも……、」
「もしもーし」
呆然とする僕の前で結梨はコンコン、と扉をノックし声をかける。
「……」
そういえば祠の扉を開けたのも実質は結梨みたいなもんだ。
もしかしてこの扉も……、
「……ほら、あんたもやりなさいよ。私の声じゃ聞こえても『伝わらない』んだから」
「あ、そっか」
僕も習って扉をノックする。もしもーし。
エミリアは不思議そうな顔をしているが思えばこんな重い扉を力技であけようとする方がおかしい。
中に誰かいるなら鍵だって閉まってるかもしれないし開けてもらえればーー、
「鍵はお主らが開けたじゃろう」
……なんか聞こえた。
「あー……? お……?」
もしかして結梨がふざけたのかと思って顔を見合わせる。……見合わせたってことは僕らじゃない。
エミリアに振ってみると「えへへ」と照れくさそうに笑った。
「エミリア……?」
「いっ、いえ! 私じゃないですよ!? 主様です!!」
「主様……」
再び沈黙を見つめると声は続いてこない。
「えーと……主様……?」
こちらの声が聞こえてるのだろうか。
少なくとも向こう側から聞こえた声はとても鮮明だった。
とても扉越しに聞こえたようには感じず、直接脳内にでもーー、
「察しがいいな小娘」
「……」
面倒くさいタイプが待ってるんだなー……。
「二人にも聞こえてるんだよね?」
確認を取る。エミリアは嬉しそうに頷き、結梨は驚きながらも小さく頷いた。
脳筋だとかなんとか考えてたけどちゃんと異世界(ファンタジー)してるじゃないか……。
どうやらこの扉の向こう側にいる「主様」とかいう人は、他人(ひと)の頭のなかを読み取り、さらに「頭の中に直接」話しかけられる力を持っているらしい。
ある意味チートだ。主様とか言われるのも頷ける。他人の考えが読めるなら支配するのも簡単だろう。
『考えを巡らせるばかりで体を動かさぬーー、愚か者のすることじゃぞ』
「脳筋は良くないって叱られたばかりなんだよ」
というか、人の頭の中を覗いておいて文句を言うなんて図々しすぎるだろうヌシ様。心狭くないか。
『聞こえとる』
「聞こえるように言っとる」
「あかり?」
「はぁー……」
結梨が怪訝そうに首を傾げるけどなんだか急に面倒になってきた……。
ここまで気を張ってきた反動か、急に緩い空気にやる気が削られて、僕が真剣になってたのがバカみたいに思える。いや、そんなことはないんだろうけどさ……なんていうかーー、
「状況わかってるのか、この主様って」
「どうでしょう……? この国の事は把握していらっしゃるはずですが、なにぶん高齢なもので……」
「「おい」」
……奇遇だな主様、いまハモったぞ。
「とりあえず押せば開くのか?」
……主様から返事はないっと。
うぃーっと扉を押してみるけどビクともしない。
心なしか扉の向こう側から笑い声が聞こえた気がした。
「……ちょっと退け、エミリア」
「へ、え、あっ……?」
流石にちょっとムカッと来た。
扉の向こう側には人がいて? 鍵は開いているから入れという。
けれどその扉は押しても開かず、もちろん引き戸って罠でもない。
なのに入り方を教えてくれないってならーー、
「……ちょっと手荒にやっても文句は言われないだろ」
好きに入れと拡大解釈させて頂く。
頭の中に浮かべるのはあの魔道書。
パラパラとページをめくり、必要な魔法陣を幾つか取り出してーー、
「後悔すんなよヌシ様。手加減はできないと思うからさーー、」
両手を前に突きだし、魔法陣を一つ展開すると更にそこに「魔法陣を重ねがけ」していく。
一つ、二つ、三つ。
青白く光る円形のそれは幾何学模様を中で渦巻かせながらも互いに作用し始め、徐々に収縮されていく。
「喰らえッ、複合魔術・天元の雷槌!!!」
「ちょっ、燈(あかり)!!!」
結梨の叫び声を掻き消すかのように魔法陣の作動する耳鳴りのような音が響き、魔法陣が歯車のように回転し始めるとーー、
「……ぉ……?」
しゅ~っと紋章に吸い込まれていった。
「……え……?」
代わりに訪れたのは沈黙である。
否、静寂とも呼べる。
何が起こったのかわからないエミリアは目を丸くし、僕もぱちくり瞬きを繰り返した。
「……失敗した……?」
複合魔術は魔導書の中に記載されていた「魔術を乗算させる方法」だ。
無論組み合わせがあり、相反する魔術を掛け合わせようとしてもうまくいかない。
一度も試したことない(向こうの世界では発動しなくて当たり前だった)から初挑戦だったんだけど……、
「……はぁー……なんかこの感じ久しぶりだなぁ……」
盛大にバットを空振りした虚しさがある。
この世界にきて「魔法が使えるのが当たり前」だったから「発動しない」のってこんなに寂しいものだったんだな……。なんだかその「当たり前の事」を再実感した。
せいいっぱい頭を働かせて、知恵を振り絞って解読した魔導書。
書かれている言葉を授業で習う英語そっちのけで覚え、翻訳し、理解しようとした。
いま思えば英語なんてあの世界の言語だ。同じ世界で4本足の愛玩動物といえば犬か猫でドックかキャットみたいな単純な話だ。……どれだけの苦労と時間をかけて僕は本を読み解き、魔法陣を描いた上で「失敗し続けて来た」のか……。
それまでに積み重ねてきた労力が「わかっていながらも無駄になる瞬間」、いや「無駄だったんだ」と突きつけられるあの感覚ーー。
それを久ししぶりに味わい、僕は落胆していた。
いや、失望していた。僕自身の無力さに、「想いを形にできない不甲斐なさにーー」。
「燈(あかり)!! バカなこと言ってないで!」
「ん……?」
結梨に怒られて視線を戻すと紋章が光っていた。
「……あれ……」
魔法はどうやら消えていなかったらしい。
不発か思いもよらぬ化学反応か、扉の紋章がじんわりと光り始めたかと思えば「うわっ?!!」目を覆う程の光が扉から発せられた。思わず一歩後ろに飛び下がり、構える。半分上に上げた腕で光を遮り、悲鳴を上げた。
地響きを伴い、大きな音を立てながら扉が奥へと動いていた。
二つの大きな彫刻の施された扉は「自ら」その扉としての役割を果たそうとしていたーー。
「ーーーー」
そうして十数メートルはあるであろう両開きの扉が開き、奥の部屋に閉じ込められていたのであろう空気が雪崩れ出してくる。
足元から、ゾワッと。思わず一歩後ろに退いてしまうほどの「なにか」が。
「……燈」
その空気から逃げるように肩によじ登ってきた結梨がその目を奥の部屋へと向ける。
「ああ……」
僕自身、柄にもなく緊張していた。ごくり、と息を飲み、神経をそこに集中させる。
猫の目ならばその部屋に、いや大きく「開いた空間に」鎮座する物体をハッキリと見えているのだろう。
徐々に目が慣れていく中、ゆらゆらと青い炎によって浮かび上がる姿を僕も捉え始めていた。
分かっていた、何処かでこうなるんじゃないかってのは気付いていたーー。
それでも尚、息を飲み、緊張せざるえない圧倒的な存在感がそこにはあった。
憧れていた。何処かでこう言う出会いを求めていたーー。
そして魔法に引き続き、僕はその存在に出会うことになった。
「……紅(あか)いドラゴン……」
部屋の中には巨大な、……地下とは思えない大きな空洞の中の中に地上の祠ほどある身体をした「ドラゴンが」こちらを睨んでいたーー。
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