俺が少女の魔法式≒異世界転移で伝承の魔法少女になった件について

葵依幸

文字の大きさ
25 / 52
〇 4

4-2 再びの手合わせ

しおりを挟む
 中庭は崩壊し、あちこちが焼け焦げていた。
 庭師たちがどうにかしようとした跡があるが、「ここは後回しにしていい」と言われたらしい。様々なものが中途半端に散乱している。

 先日、手合わせした時とは全くと言っていいほど様子が違って見えた。

「暇ではないんですがね」

 向き合ったアルベルトさんは蝶ネクタイを外しながら告げる。確かにその顔には疲労が浮かび、あまりゆっくりと眠れていないようだった。

「すみません。……でもジッとしていられなくて」
「それはアルベルトもでしょう?」

 状況が状況なのにもかかわらず、瓦礫に腰掛けたエシリアさんはのんびりとした口調で話しかける。
 その後ろには主様と呼ばれるあの赤いドラゴンが控えていた。

「ええ、まぁ……それはそうですが」

 言いつつ白い手袋を外し胸ポケットにしまう。
 まんざらでもないのは本当らしい。しかし静かな、落ち着いた口調で僕を見つめる。

「それにしても貴方の方から言い出してくるとは意外でした」
「なんていうか……僕自身そう思います」
「そうですか。ーーとにかく、なんであれ」

 悲しげな瞳が細められ、片足を引いて腰を落とす。

「手合わせすれば心の内も分かるでしょう」
「そんな武闘家みたいな」
「案外そういうものですよ?」

 アルベルトさんの脳筋ぶりに苦笑しつつも頭の中は冷え切っていた。
 というか、全てに現実味がなく、薄い膜で感覚を包まれているような曖昧な感じ。

「行きます」
「はい」

 声をかけられ、地を蹴った姿が一気に接近してきても驚くことなく、ただ淡々とその攻撃を受け流せる。
 動きが、一挙一動が手に取るように分かり、隙をついてその腕を跳ね上げる。

「ットットット。ならば私も」

 僕の回し蹴りを軽く避けたアルベルトさんはボクサーのように軽く跳ね始め、今度は腕だけではなく足も入れたコンビネーションで攻め立ててくる。

 右、左、顎を狙っての蹴り上げーー、踵落とし。
 それらを避けながら頭の中に浮かぶのはランバルトの姿だ。

 鱗を体のあちこちに浮かべ、僕に切りかかってきた。エミリアを、エシリヤさんを、……結梨を切り捨てた。

「っ……!」

 上段蹴りに合わせて僕も蹴りを打ち込み、宙で視線が絡まる。
 アルベルトさんもまた、僕を通して何かを見ているらしい。

「……あの子は、私が拾ってきたのです」
「……」

 上げた足を軸に絡ませ、宙に浮いての踵落とし。
 それをアルベルトさんは両手の拳で受けると押し上げ、空中の僕のバランスを崩させる。

「その出自が亜人の物だということは無論知っておりました」

 突き上げるような蹴り。
 それを体をひねって避けると地面に落ち、瞬時に残されている軸足を払いにかかる。
 軽い跳躍。宙に浮く体。

「しかし人の子であると、私は信じていたのです」

 ぐるりと蹴りだした足を回し、今度はそれを軸に反対側の足で蹴り上げる。
 確かな手応えの後には足を掴まれた感触が伝わり、ぐるり、とひねられた足に合わせるようにして僕は宙を舞う。

「……」

 着地し、反対側の足で踏みつけるように蹴りつけ、地面を転がってアルベルトさんから距離を取ると膝をついた。
 視線の先では静かに拳を掲げる初老の姿。
 当たり前だけど、話しながら殴り合ってたわけじゃない。
 拳と拳、語り合わなくとも通じるものがあるのだろうーー、

「……なーんて、んなわけないか」

 魔法陣を解凍。
 身体強化だけではあのドラゴンには敵わないーー、なら魔法はもっと他の使い方をするべきだ。

「ねぇ、アルベルトさん」
「……なんでしょう?」
「あのバカの事、連れ戻そうとか考えてる?」
「…………」

 静かに、ほんの僅かにその目がエシリヤさんを見た。
 もちろんその事に彼女は気がついていて、可笑しそうに瞳を細める。
 融通のきかない性格は承知の上なんだろう。

「引きずってでも死刑台に送らねば他のものに面目が立ちませんからな」
「そっか」

 なら、余計に僕は強くならなきゃいけないな。
 もう一個、小さな魔法陣を展開。
 両手の先にそれらを構えたまま「ふっ」と重心を落とす。

 ーーあんま、人が悲しむ顔って気持ち良もんじゃない。

 グンッ、と体が前に翔ぶのを感じた。

「ッ!?」

 一瞬で斜め後ろに回り込んだ僕にアルベルトさんが目を見開く。
 しかし流石は歴戦の勇士とでもいうべきか、体はそれについてきていた。

「はッ!」

 振り向きざまに手刀が繰り出され、「ぐっ……」僕は空中で方向を変える。

「なっ……」

 空を飛ぶ感覚とはまた違った。
 無理やり跳ねるように直線距離を移動する。
 勢いを殺してるわけじゃないから自分の動きに潰されそうになる。ーーけどっ、

「がッ、はっ、ホッ……!!!」

 二つの魔法陣ーー、単純な噴出魔法を使用した『ブースター擬きの移動』とでも言うべきだろうか。
 カクカクと飛び回りながら挙動の素早さでアルベルトさんを翻弄する。

「そッ、し、てッ……」
「ーーーー!?」

 避けきれないと悟った瞬間に手のひらを前にーー、「バーストっ」相手の動きに合わせて盛大に風の塊を噴出させる。

「ぶぁっ!」

 アルベルトさんが吹っ飛ぶ、無論僕も後ろにのけぞった。
 けれど、後ろに回転しつつも次の魔法陣は展開済みだ。

乱舞する雷竜ライトニングドレイク

 追い打ちを拒むように、そしてそれ自身が相手への追い打ちへとなるように雷撃が翔ぶ。
 視界の端で、こちらを見ていた結梨がそっぽを向くのが映った。

 ーーそんな顔すんなよ、結梨ゆーり……?

「 や め じ ゃ 」
「あっ」

 バシンッ、とドラゴンの尻尾が割って入り、雷竜は粉々に弾かれた。

「本気でないしにろそんなものを食らったら後遺症が残るやもしれん」
「既に一度直撃してますけどね?」
「な」

 エシリヤさんが驚く主様を見上げてクスクス笑う。

「やせ我慢で平気だって顔をしていましたけど、あの後私のところに来てーー、」
「あー、姫様」

 うふふ、とエシリヤさんは笑う。
 あんなことがあったのに全く気にしていないのか、すごく平常運転で何だかこっちの気まで抜けてくる。

 ……もしかするとわざとなのかもしれないけど。

「どう? 少しは頭冷えた、アルベルト?」
「私は冷静ですぞ」
「はいはい?」

 朗らかに笑いつつエシリヤさんは立つ。
 ふんわりとした柔らかな香りが鼻先についた。

「アカリさまも。体を動かすのは良いことですがそれでは出ぬ答えもあるでしょう」

 優しい手が僕の腕を引き、それほど強くもないのに有無を言わせぬ足取りで連れ出した。

「あの……? 何処へ……?」

 なんとなく。

 いや、なんとなくだけど予想はついていて、恐る恐る聞く形となった。

 そんな僕を可笑しそうに微笑みエシリヤさんは、

「お風呂ですわっ?」

 僕を引っ張っていく。
 いつも通り、何も変わらず。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...