ロストデイズ

葵依幸

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本編

第11話 友人

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「         」

 白く染まる世界。
 全身を絡み取っていた根が吹き飛ばされる感触。

「……へら……」

 僅かな気力で“神様の能力”を発動させ、しかし、足には力が入らずにそのまま顔からコンクリートに倒れこむ。
 鈍い痛み。
 ズキズキと痛み始める身体ーー。
 けれどそれは自分の体が再び正常に作動し始めたことを意味する。

「っ……たく……、ろくでもねぇ……」

 ふらつく足に力を込め、ようやく繋がった骨と肉で地を踏む。
 嫉妬深き神、ヘラ。その神様から与えられた力は「不老不死」の一部だった。
 死なない限り能力を使えば体の傷を治すことができる。無論、意識を失えば意味がないし、使えば痛みから解放されるわけでもなく傷が治る痛みは傷を受ける痛みと同格だ。

「ッ……」

 ミンチにされた体が治っていく感覚は悲鳴をあげることすら許されない。

「っ……はぁー……」

 深呼吸をし、頭の中の霧を振り払う。完治し、回り始めた思考を焦点を目の前の現実に合わせる。屋上に広がっていた不気味な木の根は吹き飛ばされ、ミユが剣先が突きつけられていた。

「ミユッ……!?」

 咄嗟に叫び体が駆け出そうとするが、それは突き出された手のひらによって遮られる。栗色の髪がふわりと宙を舞い、電気でも纏っているみたいにパチパチと放電を繰り返している。 ーー生徒会長とは又違った意味で、お嬢様みたいな女の子だった。

「平気ですよ、ジュンさん……?」
「……?」

 右手に持った西洋造りの大剣をミユの喉元に突きつけながらこちらに向かって微笑みかける。浮かぶ笑顔は美しく、どこか儚いーー。
 まるで古い友人に再開したかのように感じられるそれは、自然と過去の記憶を辿らせた。

「……どっかで会ったことあったか……? 祖父じじいの集会とか……?」

 身に纏う雰囲気が庶民のものじゃなかった。
 儀礼を尽くし、振る舞い方を教え込まれた堅苦しさが匂ってくる。

「いえ、まぁ……、でもいまはそんなことよりもーー、」

 ピタリと張り付くようにして構えられていた剣先が僅かに肌に触れるのが見えた。

「……ミユさん……? 貴方はいま、何をしようとしていたかお分かりですか?」
「……わかってるよ……?」

 僅かに身構えられたまま視線は倒れている生徒会長に向けられる。それを追うようにし突然然現れたそいつもチラリと後ろを伺った。

「……貴方の力は決して使っていいものじゃない」
「言われなくてもわかってるよ……? アカネさん?」
「…………」

 二人の間に緊迫した空気が流れていた。
 普段のミユからは想像もつかないようなピリピリとした肌を裂くような真剣さが感じられ、それをアカネと呼ばれた少女は冷めた顔で受け止めている。

 ……顔見知り……? いや、“このゲームが始まってから知り合った”……?

 当然のようにミユのことを何も知らないんだということを突きつけられる。
 いままで絡んでくるのをひたすらスルーし続けてたんだから当然っちゃぁ当然かもしれないがーー、

「……おい、俺は蚊帳の外かよ?」

 こうもトントン拍子に無視されると腹が立つ。
 ゆったりと歩みを進めつつ、隙を窺った。
 下手を打てばミユが殺られるーー、そう思わせるだけのものをそいつは持ってる。

「黒江さん……、貴方はこの戦いを“どうしたい”のですか?」
「……は?」
「命をかけて殺し合い、自分の願いのために誰かを傷つけるーー……。そうまでして得た願いに価値はあるとお思いですか?」
「……知るかよ。第一、俺は神様の言うことなんて信じちゃいねぇ。神様が叶わないって言ったからって、はいそうですかって信じられんのかよ? こんなくだらねーこと思いつく奴らだぞ? はいそーですかっていいなりになれっかよ」
「あなたは……そうですわよね?」

 その表情に影が差し、突きつけられていた腕は下された。
 落胆ににも似た姿が妙に胸をざわつかせる。

「……安心しましたわ?」

 寂しげな瞳が、痛々しいほどの微笑みを持って笑う。

「……なんなんだ……あんた……」

 生徒会長のように狂っているようには見えない。
 ただ、普通じゃないってのは確かにわかる。

「ミユさん……、私はこの争いを止めますわ……? 例え、貴方と敵対することになったとしてもーー」

 私の問いかけは無視され、アカネとミユは静かに睨み合う。

「アカネさんは、何を知ってるのかな……?」
「まだなにもーー?」

 くすっと小さく笑い少女はふわりと宙を舞った。
 距離を取るようにして屋上の貯水タンクの上に着地し、優雅にお辞儀をするとーー消えた。
 瞬きの瞬間に消え、
 バチバチと、残り香のように弾ける電流の音だけがその存在を囀っている。

「……なんだったんだ……いまの……」

 突然現れて、ぶち壊して、突然意味のわからねーことを言い始めた。
 だがまぁ、仮に、彼奴がミユの知り合いならば尋ねれば良いだけの話だ。

「なぁ、ミユーー?」

 そう思って話しかけ、

「ーーーー…………?」

 ミユの浮かべている表情に首をかしげた。

 困惑、苦渋、焦燥、ーー怒り……?

 複雑に折り重なり、ほんのわずかに伺えたその感情は「らしくない」。
 それほどコイツのことを知っているわけでもないが、普段のミユからはかけ離れたものに感じた。

「……ばーっか。一人で悩んでんじゃねーっよ」
「わぁ!?」

 だから肩を組み、わざと声のトーンを上げて微笑みかける。
 らしくなくて上等。ミユもミユなら私も私だ。本当に調子が狂う。

「力貸してやるっつってんだろ。みずくせーことはすんな」
「ジュンちゃん……」

 以前までの自分が聞けば笑い飛ばしそうなセリフだが、別段友人を作らないと決めたわけじゃない。……どうせ、コイツはどれだけ跳ね返してもくっついてくるだろうし。

「うんっ、ありがとねっ」

 ミユらしいーー、といえばおかしな話だけど見慣れた笑顔が戻ってきた。そんな様子に何処かホッとし、居心地の良さみたいなものを感じてしまう自分が少しくすぐったい。

「さて……と。とりあえずこの困った生徒会長さんをどうにかすっか。……午後の授業は中止だろうしな」

 さっきの雷で騒ぎが大きくなったのか、屋上に向かってくる足音が聞こえてきた。
 青天の霹靂ーー。
 チャイムは昼休みの終わりを告げているが、事件はまだまだ終わっちゃいない。

「説得、できるといいな……」

 静かにこぼしたその言葉に、私は何も返すことができなかった。

 ーー争いが止められないことは、人間の長い歴史が物語っているのだから。
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