『少女、始めました。』

プロローグ

【プロローグ】

「はいはい、わろすわろすっと。」

　パソコンのモニターに表示された画面は一秒単位で更新し続けられ、次々と文字が流れ続ける。

「しっかし、くだんねぇなぁ。」

　バイト先で人間扱いしてもらえないと嘆く大学生の書き込みに対して、俺達は冷たい。そんなの自己責任じゃないかと話半分に聞き、適当に茶化していた。人間扱いされようがされまいが根本的な所で自分がどう思うかだ。他人に自分の価値を決められてたんじゃぁ人間とは言えない。自分の人生なんざ自分で決めろアホ。

「――っとな。……――ん？」

　キーボードを打ち終え、書き込みを終えたとき唐突に一つのレスが目に飛び込んで来た。

「あなたも少女を、かってみませんか……？　なんだ、えんこーか？」

　ご丁寧にURLまで張られて、どうせ踏めば架空請求のサイトでも開くんだろう。

「んなものに引っかかる程馬鹿じゃねーですよー」

　と言いつつも、自動スクロールに設定していたせいで指先が狂いクリックしてしまう。
　表示されたのは案の定「ご契約ありがとうございます。」と大きな字で書かれたありきたりなサイト。契約内容から起用規約までずらずらと長々に渡って書かれている。

「んなのに引っかかる奴いるんかねぇ……」

　なんて事は無い。開かれたウインドウを閉じると元のスレッドが表示される。
　詐欺に遭いかけたと言えばそうなんだろうがこんな物は詐欺のうちにも入らない。子供の悪戯と大差ない。そんな物に引っかかる奴がいるってのも事実なんだろうが――。それを躍起になって叩くというのには、大人様の自尊心を傷付けられた怒りもあったりするのです。なーんて。

　画面をスクロールして次の文字を追うとスレ主はもう何処かへ行ってしまっていた。今頃何処かで首でもつってるんだろうか。相当追いつめられていたようだけど。ま、関係無い話だわな。
　そこにいる奴らもまた同じ様に考えているのか、画面上ではどうでも良い会話が繰り広げられていた。本当に他愛もない、どうでも良い文字が並ぶ。

「…………」

　暗い部屋にキーボードの音と、マウスのクリック音は響き続ける。
　下らない言葉遊び、どうでも良い話題。
　何一つ生産性に乏しい毎日。

　自分の生活を振り返る。とてもじゃないが自慢出来るような物でもない。それでも毎日つつがなく暮らせているのだから、不満は無かった。

「……禿げるぞ、ハゲ？」

　――不満なんて、無かった。

　キーボードを叩きつつ、夜は更けて行く。
　変わらない、いつもの光景だ。