『少女、始めました。』

葵依幸

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【3】旅行で少女。

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【3】旅行で少女。

 ご主人サマの家を出てもう随分と経った。新宿から特急に乗り換えて、電車に揺られる事はや2時間。外の景色は一向に変わる事無く、のどかな田園風景が広がってる。最初は珍しくてワクワクしていたんだけど、流石にそんな景色にも見飽きて、睡魔も襲って来ていた。さっき車内サービスで駅弁を買って食べてお腹が膨れたっていうのもあるんだろうけど――、でもきっと朝早くに叩き起こされたせいだ。いつもだったらまだウトウトしてる時間帯なのだ。それを無理矢理起こして連れ出して――、そうだ。全部ご主人サマの責任だ。うん。私は悪く無い!

 そんな風に言い訳をして、向かい合った4人がけのシートのうちの2つを占領して横になり、すやすやと可愛らしい寝息を立て始めた頃。ずしん、と体の上に何か重い物を乗せられて、目を覚ました。

「んぅ……、ねむいですよぉ……」
「……良いから起きろ」

 体の上に置かれたのは私の可愛いリュックサックで、少し高い位置からはご主人サマが睨んでいた。

「んぅー……、どうしてこうも人の気持ちがわからないんでしょう……」

 まどろみの気持ち良さを知らないんだろうか。まるでゆりかごの中にいるような、うとうとして、意識も曖昧になって来た時の――、

「ってちょっと待って下さいよ!!」

 窓の外、既に駅のホームへと降り立った姿を見て慌てて私もイスから飛び降りる。

 ――少し位人の話聞いてくれても良いのに……!

 っと、走り出してから靴を脱いでいる事に気がついた。確か「イスを汚しちゃいけないから」って思って座席の下に――下を覗き込むと少し奥の方に滑っていってしまっていて、手を伸ばすけどなかなか届かない。

「ぬぅー……んぅーっ……!」

 肩が外れるかと思う程頑張って伸ばして――ようやく指先が引っかかり、そのまま引っ張りだす。少し汚れちゃったけど気にしない気にしないっ。

「ふぃ……」

 救出した靴を前に溜め息が溢れた。もしこの靴を失ったお家まで裸足で帰らなきゃ行けないし、それはちょっと恥ずかしい。

「何はともあれ、よかったよかった……!」

 靴を履いて、座席の間を抜け、るんるん気分で扉をくぐろうとした瞬間――、

「――――ん?」

 ぷしゅーと扉が目の前で閉まった。

「あ、あれ……?」

 一瞬意味が分からず呆然と立ち尽くして扉を見つめる。
 ガラス越しにご主人サマも立ち尽くし、唖然としていた。

 やがて動き出す景色。流れていく駅のホーム。

「ちょ、ちょちょちょちょ……! えっえええええ!?」

 ようやく頭が理解して、扉に手を着き慌ててご主人サマに助けを求めるけど――その姿は豆粒みたいに小さくなってしまっていた。
 知らない土地で一人、電車の中に取り残されてしまった。

 一応おこずかいとしてお金は貰っているけれど、この特急列車が何処まで行くのか私は知らない。そもそも携帯電話を持ってないからご主人サマに連絡出来ないい。

「…………」

 田園風景はいつの間にか山沿いの景色に姿を変え、生い茂った木々が流れる様に消えていく。
 ガタンゴトンと心地よいリズムを電車が音を奏で、私はトボトボと元の席に戻って行った。

「……まぁ、仕方ないかっ」

 リュックから駅弁と一緒に買ったお茶を取り出す。キャップを開けて、ぐいっとそれを仰ぎ「ふぅ」と溜め息。まさかのお出かけがこんなことになるなんて、なんだか先が思いやられる。

 慌てた所で電車が止まってくれる訳でもないし、きっと次の駅で待ってればすぐに追いかけて来てくれるだろう、

「早く迎えに来てよねーっと」

 窓ガラスには案外楽しそうにしてる私が映り込んでた。――旅ってのはハプニングが有るから楽しいよねーっと。

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