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【6】少女、終わりました。
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【6】少女、終わりました。
「――先輩っ!」
先を行く後ろ姿が俺の声で足を止める。白のカーディガンや淡い水色のロングスカートが風に揺れ、長い茶髪が宙を舞っていた。
「あ、あのっ――おれ……!」
必死で追いかけて来たせいか息があがってしまって上手く言葉が続かない。額を伝う汗が、背中にへばりつく汗が気持ち悪い。震える膝を押さえ込んで、それでも伝えないといけないと気持ちばかりが焦った。
「……ぁっ……あっ……あのっ……!」
無理矢理息と一緒に言葉を吐き出す。
「おっ、おれっ……おれっ! 先輩の事ッ――!」
そこで初めて先輩の隣に居る人物に気が付いた。見覚えのある顔が悪戯っぽい、柔らかい笑みを浮かべて俺を見ていた。
「あら……た……?」
何気ない仕草で先輩の肩に手を置き、微笑む。そして先輩はそれに微笑み返す。ただそれだけの事だった。ただそれだけの事なのに、2人の中がとても親密に見えた。もう誰もそこに割って入れないような――、そこに俺の居場所なんて無い様に感じる。
荒太が俺に微笑みかけた。まるで「先輩が自分の物だ」と、そう言っているかのように。
頭の中で考えが空回りする。
先輩との思い出が駆け抜けて行く、2人で過ごした部室、2人で過ごした夏の夜、2人で過ごした日の出来事が――、
「しんや?」
荒太に声を掛けられ引き戻される。頬を伝う汗が何かの生き物の様に感じられた。
脈打つ心臓は搔き出してしまいたい程に鬱陶しく、また自然と握っていた手には汗が滲みだしていた。
「な、なぁ荒太……、実は俺と先輩は――、」
「――すまないね、佐々木」
透き通った先輩の声が響き渡った。
「本当にごめん」
先輩が向こう側へと行ってしまう。離れて行ってしまう――。
背を向ける姿に俺の中で何かが崩れ落ちていくのを感じた。
先輩と過ごした時間、荒太に引っ張られていったあの日々。それらが全て幻の様に、ひび割れ、はがれ落ちては崩れて行く。
「ッ――――!」
必死に腕を伸ばし、再び歩き出したその腕を肩を掴もうとする。足を踏み出し、先を行く2人に追いつきたくて足掻く。足掻いてようやくその背中が手が届きそうになったとき――、
「ぁ――――」
思わずその手が止まった。
――でも俺は一体どっちを掴もうとしてるんだ……?
自然と足が止まっていた。二人の背中は徐々に遠ざかって行く。名残惜しそうに伸ばされた手だけが二人を追い求め、それでいてそこには永遠に届かない。
「……せんぱい……? あら、た……?」
縋る様に、ただ足を止めて欲しくて二人の名前を呼ぶ。だって俺達はいつも3人で、3人で一つだったんだ。誰か一人が欠けてもいけない、俺と荒太と先輩と、三人が揃って初めて一つだった。
「なのに俺だけ置いて行くなんてそんなの無いだろ……? あんまりだろ、荒太――?」
足は動かない、腕ばかり伸ばして二人を追いかける事は出来なかった。
そんな俺に荒太は足を止めて振り返る。
朗らかな笑みを浮かべ、いつもの様に笑って、
「最初に奪ったのはお前だろ?」
そう告げた。
「ぁ……」
「ねぇ、晋也。最初に先輩を好きなったのって僕でいいんだよね?」
「そ、それは――」
「晋也は僕の気持ちを知っていて――僕が映画に打ち込む理由を知っていて横取りしたんだよね?」
「ち、違う! 俺はただ――、……ぁ……」
先輩がじっと俺を見つめていた。
いつもの気怠そうな目が俺をまっすぐに見つめ、瞳の中で光が揺れる。まるで俺を責めるような視線に耐えられず、思わず後ずさった。
「せん、ぱい……」
先輩の目の中で儚く光が揺れる。先輩を抱きしめ、微かに残るタバコの匂いと、頬をくすぐる柔らかい髪の感触が蘇る。
「先輩っ……、」
本当は寂しがりの癖に素直になれなくて。人使いが荒いのに内心それで相手にどう思われてるかを気にしてる。頭の中で始めて先輩を抱きしめた夜の事が巡る。珍しく甘えた声で囁く彼女の言葉が蘇る。
「――晋也」
「っ――――」
そんな考えを見抜く様に荒太は俺を睨んだ。
いままで見た事も無い目で、俺を見つめていた。
「ち、違う……、俺は……俺はっ……!」
一体何を弁解しようとしているんだろう――?
一体、何を言おうとしてるんだろう?
先輩を奪ったのは間違いなく俺で、先輩を先に好きになったのは間違いなく荒太だったのに。一体何を――、
「しーんやっ?」
何も言い出せない俺に荒太が再び微笑む。あの意地悪い笑顔で、まるで子供のような純真さで微笑む。
「お互いサマだね?」
その言葉に俺は、
「――――――――――――っ!!!!」
悲鳴を上げる事しか出来なかった。
「――先輩っ!」
先を行く後ろ姿が俺の声で足を止める。白のカーディガンや淡い水色のロングスカートが風に揺れ、長い茶髪が宙を舞っていた。
「あ、あのっ――おれ……!」
必死で追いかけて来たせいか息があがってしまって上手く言葉が続かない。額を伝う汗が、背中にへばりつく汗が気持ち悪い。震える膝を押さえ込んで、それでも伝えないといけないと気持ちばかりが焦った。
「……ぁっ……あっ……あのっ……!」
無理矢理息と一緒に言葉を吐き出す。
「おっ、おれっ……おれっ! 先輩の事ッ――!」
そこで初めて先輩の隣に居る人物に気が付いた。見覚えのある顔が悪戯っぽい、柔らかい笑みを浮かべて俺を見ていた。
「あら……た……?」
何気ない仕草で先輩の肩に手を置き、微笑む。そして先輩はそれに微笑み返す。ただそれだけの事だった。ただそれだけの事なのに、2人の中がとても親密に見えた。もう誰もそこに割って入れないような――、そこに俺の居場所なんて無い様に感じる。
荒太が俺に微笑みかけた。まるで「先輩が自分の物だ」と、そう言っているかのように。
頭の中で考えが空回りする。
先輩との思い出が駆け抜けて行く、2人で過ごした部室、2人で過ごした夏の夜、2人で過ごした日の出来事が――、
「しんや?」
荒太に声を掛けられ引き戻される。頬を伝う汗が何かの生き物の様に感じられた。
脈打つ心臓は搔き出してしまいたい程に鬱陶しく、また自然と握っていた手には汗が滲みだしていた。
「な、なぁ荒太……、実は俺と先輩は――、」
「――すまないね、佐々木」
透き通った先輩の声が響き渡った。
「本当にごめん」
先輩が向こう側へと行ってしまう。離れて行ってしまう――。
背を向ける姿に俺の中で何かが崩れ落ちていくのを感じた。
先輩と過ごした時間、荒太に引っ張られていったあの日々。それらが全て幻の様に、ひび割れ、はがれ落ちては崩れて行く。
「ッ――――!」
必死に腕を伸ばし、再び歩き出したその腕を肩を掴もうとする。足を踏み出し、先を行く2人に追いつきたくて足掻く。足掻いてようやくその背中が手が届きそうになったとき――、
「ぁ――――」
思わずその手が止まった。
――でも俺は一体どっちを掴もうとしてるんだ……?
自然と足が止まっていた。二人の背中は徐々に遠ざかって行く。名残惜しそうに伸ばされた手だけが二人を追い求め、それでいてそこには永遠に届かない。
「……せんぱい……? あら、た……?」
縋る様に、ただ足を止めて欲しくて二人の名前を呼ぶ。だって俺達はいつも3人で、3人で一つだったんだ。誰か一人が欠けてもいけない、俺と荒太と先輩と、三人が揃って初めて一つだった。
「なのに俺だけ置いて行くなんてそんなの無いだろ……? あんまりだろ、荒太――?」
足は動かない、腕ばかり伸ばして二人を追いかける事は出来なかった。
そんな俺に荒太は足を止めて振り返る。
朗らかな笑みを浮かべ、いつもの様に笑って、
「最初に奪ったのはお前だろ?」
そう告げた。
「ぁ……」
「ねぇ、晋也。最初に先輩を好きなったのって僕でいいんだよね?」
「そ、それは――」
「晋也は僕の気持ちを知っていて――僕が映画に打ち込む理由を知っていて横取りしたんだよね?」
「ち、違う! 俺はただ――、……ぁ……」
先輩がじっと俺を見つめていた。
いつもの気怠そうな目が俺をまっすぐに見つめ、瞳の中で光が揺れる。まるで俺を責めるような視線に耐えられず、思わず後ずさった。
「せん、ぱい……」
先輩の目の中で儚く光が揺れる。先輩を抱きしめ、微かに残るタバコの匂いと、頬をくすぐる柔らかい髪の感触が蘇る。
「先輩っ……、」
本当は寂しがりの癖に素直になれなくて。人使いが荒いのに内心それで相手にどう思われてるかを気にしてる。頭の中で始めて先輩を抱きしめた夜の事が巡る。珍しく甘えた声で囁く彼女の言葉が蘇る。
「――晋也」
「っ――――」
そんな考えを見抜く様に荒太は俺を睨んだ。
いままで見た事も無い目で、俺を見つめていた。
「ち、違う……、俺は……俺はっ……!」
一体何を弁解しようとしているんだろう――?
一体、何を言おうとしてるんだろう?
先輩を奪ったのは間違いなく俺で、先輩を先に好きになったのは間違いなく荒太だったのに。一体何を――、
「しーんやっ?」
何も言い出せない俺に荒太が再び微笑む。あの意地悪い笑顔で、まるで子供のような純真さで微笑む。
「お互いサマだね?」
その言葉に俺は、
「――――――――――――っ!!!!」
悲鳴を上げる事しか出来なかった。
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