26 / 34
【5】少年少女。
5-7
しおりを挟む
「――青春してるなぁ」
と、少し離れた所からその光景を眺め。何だが恥ずかしくなって来たので海に向き直る。
隣の荒太も同じように柵に手をつき、乗り出していた。
「うーんっ、そーだね。まさしくせーしゅんって感じだねぇっー?」
海風が少し伸びた髪を弄び、荒太は楽しそうに笑って見せる。
「ああいう姿見てると、ちょっと羨ましくなっちゃうよね?」
意地悪く笑う様子は本気でそう思っている証拠だ。映画なんて物を作っているからか、何処かそう言う味付けの濃い事に憧れる傾向があるらしい。ドラマティックで刺激の強い人生に――。俺には理解出来ないが――。
「……まぁ、綺麗にまとまって良かったんじゃないのか?」
とはいえ、荒太には二人の関係なんてちっとも分かってないんだが――。
だから一人頷く。元々あの二人の関係は歪な物だったようだが、これで少しはマシになるハズだ。圭介も悪い奴じゃない。きっとミコノの事を本当に大切にするだろう。そしてミコノも――。
「…………」
チラリと見つめた先で彼女は圭介にしがみつき、頬を涙で濡らしていた。その様子を見る限りきっと安心は出来る。
仕事だから圭介の恋人役を努めているというだけでもないんだろう。それが正しい事なのかこの先二人がどうすべきなのかは俺の知る所じゃないし、首を突っ込もうとも思えない。他人の問題だ。自由恋愛万歳、と適当に投げ捨て夕日に目を戻す。――少し焼いてしまいそうだったからな。
「にしても、臭い台詞だったねぇー。流石の僕でもあんなのは思いつかないよ」
潮風を仰ぎながら荒太が茶化す。
「咄嗟の思いつきだ、忘れろ」
「忘れろ、ったって……ねぇー?」
「ねぇっー?」
何処からとも無くバカがひょこっと頭を覗かせて笑う。
「かっこいい台詞でしたぜー旦那ぁ」
「知るか」
ニヤニヤしながら脇をつつくなボケ。
構ってられん。特にこの二人を同時に相手にするなど愚行にも程がある。
それにそろそろ日も暮れ始めていた。ミコノも落ち着いて来たようだからそろそろ戻らないと面倒な事になる。季節的には秋の頃合いだが、ろくな装備も無いまま夜の森を抜けるのは流石に危険だ。
「一本だけ煙草を吸って帰るとするかぁー」
とタバコを取り出すと「なぁ」と荒太が何処となく呟いた。
風にかき消されそうな程弱々しい声だったのにも関わらず、俺の耳に届き、思わず手を止めた。
「ん……?」
ライターの火をかざしたまま横目にその姿を見る。
何処か寂しそうに波打ち際を見つめ、荒太は黙り込んでいた。
「……なんだよ?」
怪訝に重い、促してようやく荒太は視線を向ける。
いまにも泣き出しそうな目が俺を見つめ――、赤い夕日で染まった顔は困ったようにひしゃげて、笑った。
そうしてまるで何事も無かったかの様に、
「俺さ、先輩と寝ちゃったんだよね」
荒太は言った。
「子供、出来ちゃったかも知れないんだ?」
赤い夕日が、荒太の表情を掻き消し、吹き付けて来た海風が俺から音を奪い去っていく。
ライターの火が風で掻き消され、口先に咥えたタバコは静かに崖下へと落ちて行った。
それなのに――、
「 ごめんね。 」
その言葉だけはしっかりと耳に届いていた。
と、少し離れた所からその光景を眺め。何だが恥ずかしくなって来たので海に向き直る。
隣の荒太も同じように柵に手をつき、乗り出していた。
「うーんっ、そーだね。まさしくせーしゅんって感じだねぇっー?」
海風が少し伸びた髪を弄び、荒太は楽しそうに笑って見せる。
「ああいう姿見てると、ちょっと羨ましくなっちゃうよね?」
意地悪く笑う様子は本気でそう思っている証拠だ。映画なんて物を作っているからか、何処かそう言う味付けの濃い事に憧れる傾向があるらしい。ドラマティックで刺激の強い人生に――。俺には理解出来ないが――。
「……まぁ、綺麗にまとまって良かったんじゃないのか?」
とはいえ、荒太には二人の関係なんてちっとも分かってないんだが――。
だから一人頷く。元々あの二人の関係は歪な物だったようだが、これで少しはマシになるハズだ。圭介も悪い奴じゃない。きっとミコノの事を本当に大切にするだろう。そしてミコノも――。
「…………」
チラリと見つめた先で彼女は圭介にしがみつき、頬を涙で濡らしていた。その様子を見る限りきっと安心は出来る。
仕事だから圭介の恋人役を努めているというだけでもないんだろう。それが正しい事なのかこの先二人がどうすべきなのかは俺の知る所じゃないし、首を突っ込もうとも思えない。他人の問題だ。自由恋愛万歳、と適当に投げ捨て夕日に目を戻す。――少し焼いてしまいそうだったからな。
「にしても、臭い台詞だったねぇー。流石の僕でもあんなのは思いつかないよ」
潮風を仰ぎながら荒太が茶化す。
「咄嗟の思いつきだ、忘れろ」
「忘れろ、ったって……ねぇー?」
「ねぇっー?」
何処からとも無くバカがひょこっと頭を覗かせて笑う。
「かっこいい台詞でしたぜー旦那ぁ」
「知るか」
ニヤニヤしながら脇をつつくなボケ。
構ってられん。特にこの二人を同時に相手にするなど愚行にも程がある。
それにそろそろ日も暮れ始めていた。ミコノも落ち着いて来たようだからそろそろ戻らないと面倒な事になる。季節的には秋の頃合いだが、ろくな装備も無いまま夜の森を抜けるのは流石に危険だ。
「一本だけ煙草を吸って帰るとするかぁー」
とタバコを取り出すと「なぁ」と荒太が何処となく呟いた。
風にかき消されそうな程弱々しい声だったのにも関わらず、俺の耳に届き、思わず手を止めた。
「ん……?」
ライターの火をかざしたまま横目にその姿を見る。
何処か寂しそうに波打ち際を見つめ、荒太は黙り込んでいた。
「……なんだよ?」
怪訝に重い、促してようやく荒太は視線を向ける。
いまにも泣き出しそうな目が俺を見つめ――、赤い夕日で染まった顔は困ったようにひしゃげて、笑った。
そうしてまるで何事も無かったかの様に、
「俺さ、先輩と寝ちゃったんだよね」
荒太は言った。
「子供、出来ちゃったかも知れないんだ?」
赤い夕日が、荒太の表情を掻き消し、吹き付けて来た海風が俺から音を奪い去っていく。
ライターの火が風で掻き消され、口先に咥えたタバコは静かに崖下へと落ちて行った。
それなのに――、
「 ごめんね。 」
その言葉だけはしっかりと耳に届いていた。
0
あなたにおすすめの小説
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる