ネズミ族の嫁入り

ゆう

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 とある猫の獣人族とネズミの獣人族は昔から仲が良くなかったが、文明化が進み平和的情勢が世界的に拡がる中、二つの獣人族もまた、平和的に友好関係を築こうとしていた。


 ネズミの獣人族であるアイルは貴族の息子として産まれた。
ただネズミ族では珍しい白色の色をして生まれた子であった。国民の殆どはグレー色のネズミだが、突然変異で白色のネズミとして生まれたアイルは家族からもきみ悪がられ、ずっと離れの家で隔離されるよう育ってきた。

 16歳になった年、アイルに婚姻の話が持ちかけられたのは驚いた。もうずっと誰とも関わることなく死んでいくのだろうと幼いながらに思っていたのだ。

 持ちかけられた婚姻の話、それは最近平和条約を結んだ猫族の相手に平和の証として嫁ぐと言うものだった。
 それはつまりアイルが家族から捨てられたのだと理解した。


 話によると猫族の相手は歳40にもなる軍人だと言う。
 王族直属の部隊に勤めていて、由緒正しき貴族出身の家柄だと言う。しかし婚姻はアイルで5人目。今までの人は全て離婚しているらしいとの噂まで入ってきて、これは本人に何か問題があるのはとアイルでも嫁ぐ前からわかっていたた。勿論こちら側も突然変異の白色のネズミが行くのだから、結局の所お互い手に余る者同士なのだろう。

 そんな話を昔から唯一仕えてくれている侍女であるネズミ族のカーラから話を聞くとガックリ肩を落とす内容ではあったが、アイルには拒否する手段はなかった。
 話が持ち上がってからさっさと出て行けと言わんばかりに嫁ぐ為の準備が始まった。
侍女のカーラは屋敷に残るかも知れないと思ったが、どこまでもまで付き添ってくれると申し出てくれてそれだけが唯一の支えだった。

 準備はあっという間に終わった。婚姻の衣装と少ないながらの衣類を手に迎えの馬車は隣国へと走り出した。

「ごめんねカーラ。こんな所まで付き合わせてしまって」

「いいえ、私はアイル様のお傍で仕え、成長を見守る事が事が何よりの幸せなんですよ」

 カーラは30代後半の女性だ。
 反抗期から家を飛び出した家出少女だったらしい。仕事はなんでもすると言う条件でアイルの家に雇われる事になったらしいのだが、与えられた仕事がアイルの侍女としてだった。
 家出少女だった。と言うのは最近までそう思っていたのだが、本当の理由は結婚直前で子宮に病気が見つかり、それを摘出して子供が産めない体になった為、家を出たらしい。
ネズミ族はとても繁殖力に優れている。それは繁殖力が低い他の獣人族からも人気があり、女の子を産んだ親は裕福な生活が出来た。
 子供が産めない体になった途端結婚の話は無くなり、手のひらを返すように酷い扱いをするようになった両親に嫌気がさして家を出たのだと最近になって話してくれた。
貴族の生まれとして隠されたアイルの世話係は子供が産めない身体の持ち主のカーラが適任だったらしい。
 通常ネズミ族は女性しか子供を産めないが、白色のネズミの獣人はまた身体の作りが違った。
 見た目は男性体でありながらも女性の様な体格と中性的な顔付きで産まれて来るのが白色のネズミと言う生き物だった。
 女性の様に身体の中に子宮があって生理もくる。勿論女性を孕ませる事だって出来る言わば両生体であった。

 キラキラと光る美しい白銀の髪に女性よりもきめ細やかな白い肌。ぱっちりとした目ときゅっと小さな鼻。昔の文献で女神として扱われた時期もあったらしいが、近年産まれて来ることの無かった白いネズミの獣人の生態は謎が多いままだった。

 それがまた貴族の出となれば、下手に研究所に送ることも出来ず、この度話が出た猫族との婚姻は父に取ってアイルを手放せる事が出来る理由となり都合がよかったらしい。
 ある程度の身分の出から、子供の産める嫁を交換する条件で平和的な条約が結ばれた。
 アイルは16歳になり、最近初潮が来たばかりだが、それは子供を成せる証であった。
 向こうの猫族からもこちらに嫁が送られてくるのだが、父の息子にはもう嫁が既にいる為にどこか別の貴族の元に嫁ぐらしい。

 カーラはどこから手に入れたのか、そんな話を隣国に行く道中沢山話してくれた。

 そうして嫁ぎ先の屋敷に着いたのが先程。
貴族出身で王族に仕える軍人さんのお家はかなり広く、立派な屋敷であった。
 迎え入れられるように、執事の方に案内され、客室の間に通される。
 ここで初めて旦那になる人に会うのだ。アイルは緊張で心臓がバクバクと音が鳴っていた。

 客室に通されてからすぐにコンコンとノックの音がした後ガチャリと扉は開いた。
 スラリとした高い身長に、軍人だとわかるガッシリとした体格。艶やかな黒髪の中からピンッと生える立派な耳。とても40歳には見えないがキリリとした顔付きに少し年齢を思わせる目元にうっすらシワがある精錬された顔立ち。黒々とした目がアイルを射抜くように目が合った。
 アイルは思わず立ち上がり、お辞儀をした後、隣国から来たアイル・サンチェスだと名乗った。

 彼はゆっくりとアイルの前に立ち、名はルイス・ロジャーズと教えてくれた。
 ルイス様。それが私の旦那様の名前らしい。
 初めて旦那様となる人と顔合わせをした日、結婚式が10日である事を伝えられた。
後の事は何かあれば執事に言って欲しいとだけ言い、彼は勤める先の王宮へと戻っていった。

 それから結婚式までの10日間旦那様が屋敷に帰って来ることはなかった。


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