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しおりを挟む結婚式までの10日間はそれは苦痛であった。
屋敷に仕えるメイドや執事達がアイルに聞こえるように悪口を言うのであった。
ネズミ族と猫族は元々仲が悪い。最近はそういった事を無くそうと働きかけているものもいるが、この屋敷に仕えている者は後者だった。
旦那様が居ないことをいい事にやりたい放題。
元々離で隔離されて生活したいたアイルは益々部屋に引きこもりがちであった。
この屋敷の人々にカーラもお怒りではあったが、所詮猫族は二人。
カーラが教えてくれた編み物や裁縫をただひたすら部屋の中でするだけであった。
そうして10日後の結婚式の日。アイルは持ち込んだ婚姻衣装に身を包み、ルイス様は軍人らしく軍服に着替え教会で式を挙げた。
参列者のいない質素な式だった。
嫁ぐと決まってから猫族の結婚式などを調べたが、親族や友人を沢山呼び、神父様の前で誓を立てると聞いたのだが、実際は神父様と自分達の二人だった。この結婚式はやはり望まれた者ではない事が分かった。
40歳で4人の人と結婚した話を聞くと、結婚などもうどうでもいい事なのだろうか。
アイルにとっては初めての事で、少し悲しい気持ちになった。
4人とは離婚したと聞いていたが、屋敷では無いどこかで一緒に暮らしていたりするのだろうか。
建前上結婚した事にして、きっとネズミ族のアイルはあの屋敷に閉じ込めて置くのだろうと思った。アイルは嫌な事ばかり考えてしまっていた。
あっさりとした式の後、二人は屋敷に戻って初めての初夜を迎えた。
誰にも知られず生きていくと思っていたアイルは勿論そういった経験などなく、この10日間でカーラに色々教えてもらうので精一杯だった。
初夜の事を聞いていたが、嫌われているネズミ族を抱く事があるのだろうか。と思っていたが、ルイス様は表情一つ変える事無くアイルを抱いた。まるで一つの仕事の様に。
抱く前に男性体の身体を見て、本当に子供が産めるのか?とルイス様は聞いてきた。
確かに、男性体で子供が産めるなんて猫族の中でもあまり無い話なのかも知れない。
初潮は来ていますとだけ答えると、それ以上ルイス様は何も言わなかった。
アイルにとって初夜は嵐に巻き込まれた様な時間だった。痛みと苦しみで何が何だか分からなかったからだ。
痛いのは最初の一回だけだと聞いたが、二回目なんかあるはずもない。今回が平和条約で結ばれた形だけの夫婦なのだから。
そして予想通りルイス様が次に屋敷に帰ってきた時は初夜を迎えた6ヶ月後の事だった。
初夜を迎えて、次の日朝起きると旦那様はもう屋敷に居なかった。
それから毎日結婚式の前の様な日常が始まる。
食事は手抜きされた物が出されたり、調味料が入れられて無かったり。まだこの屋敷に居るの?図々しい!なんて目の前で暴言を吐かれたり。
アイルもカーラも心身ともに限界を迎えていた。
「アイル様。やはりこの屋敷を出ましょう。でなければ、アイル様のお腹……」
「カーラ」
カーラが言いかけた言葉を静止する。
初夜を迎えた日、アイルはルイスの子供をお腹に宿してた。
ネズミ族が繁殖力に優れている事は知っていたが、白いネズミである自分にも当てはまるとは思わなかった。
初夜を迎えて2ヶ月頃から体調が悪くなり、ご飯を戻すようになった姿を見て、カーラはすぐにアイルが妊娠している事に気がついた。
屋敷の者にバレないよう、食事が出来ない時はカーラに手伝ってもらい、何とか医者を呼ばずにここまで過ごしてきた。悪阻が治まり、安定期に入ったが、どんどん張り出るお腹は隠せなかった。
ネズミ族は繁殖力が高く、多産の者が多いと言われている。きっとお腹には一人じゃないだろうと思われる程、6ヶ月にしてはお腹が出ていたのだ。
流石に屋敷の者が気付き、旦那様に連絡を入れたのか、ようやく屋敷に戻ってきた旦那様はアイルの元を訪れて「本当に私の子か」と訊ねた。
第一声に自分の不貞を疑われた事にアイルは驚愕した。この屋敷にそんな者が居るはずもない。ネズミ族が猫族に忌み嫌われて、苛めを受けて来たことを旦那様は知らない。
「初めてが旦那様でそれ以外誰も知りません」
それだけは言葉に出来たがそれ以上声が出ず、涙が止まらなかった。
自分はどこにいてもきっと嫌われる運命なのだろう。
張り出たお腹を撫でて、「明日この屋敷を出ていきます」と旦那様に告げた。
次の日誰からも惜しまれる事無くアイルとカーラは屋敷を出た。
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