幸せを噛みしめて

ゆう

文字の大きさ
8 / 81
始まりは

高校生になってから7

しおりを挟む


『雪ちゃん!雪ちゃん!大変なの。秋人の学校から熱で早退したって連絡がきたの。秋人からは大丈夫だって言われたんだけど心配だから学校終わった後様子見てきてくれない?私も旦那も手が離せなくて…』
 

 と連絡が秋人の母親からメールが届いていた。
 秋人のご両親は仕事で忙しい人だ。
 
『わかりました』
 
 とだけ返信を入れて、放課後が来るのが一気に憂鬱になった。
 
 薬局で熱冷ましシートや補給食などを買って、秋人の家に向かう足取りはかなり重かった。
 どうせ、女の子たちが面倒見てくれてるんじゃないの?と思いながら、久々に合い鍵を取り出した。
 
 寝ているかも、と思って静かに開けた玄関に女性ものの靴はなく、シン…と静まりかえっていた。
 リビングの扉を開けると、人が生活していない。
 と言った感じがあった。
 そのまま寝室には向かわず、キッチンに向かうと、ここもまったく使われていないようだった。
(秋人大丈夫かな…)
 コンコンと静かにノックをして、扉を開けると、本当に具合が悪そうな秋人がベッドで寝ていた。
 飲み物を置いて、汗をかいていたので、タオルで汗を拭って、おでこに熱冷ましシートを貼った。
 
「ん……」
 
 そこで秋人が目を覚まし、俺と目が合った。
 
「具合悪いって聞いたから…」
 
「ん…」
 
 そう返事をして秋人はまた瞼を閉じた。
 
 俺はそのまま寝室を出て、溜まってる洗濯物を洗い、部屋の掃除して、おかゆを作った。
 秋人は食欲はあったので、あとは薬を飲んで寝れば二、三日で治るだろう。
 食べ終わったら身体を拭いて、新しい服に着替えさせた。
 
「また明日様子見に来るから、大人しく寝ててね。なにかあったら連絡頂戴」
 
「ん…」
 
 それだけ言って、部屋を出ようとすると、「雪ありがと…」と小さく聞こえた。
 
(なんか調子狂う…)
 
 それから放課後三日ほど通えば秋人がすっかり元気になった。
 四日目は一応安静を取って、休みにしたらしいが、やる事なくて暇だから来い。と呼ばれたのでしぶしぶ行くことに。
(そういえば来いとか言われた事なかったかも…)
 まぁ風邪の事もあるし、家事でもしてあげるかと思い放課後訪れると、秋人はもう一つの部屋で勉強していた。
 部屋にはめちゃくちゃ勉強してますといった、使い古された参考書などがたくさん置いてあった。あと難しそうな本。
 てっきり遊んでばかりいるのかと思っていたので、ちょっとびっくりだ。
 意外だなぁとぼそり言った言葉を聞き取られ、笑うように心外だと言われた。
 そっか、難しい大学受けるんだもんね。
 なにも考えてないのは自分だけなような気がして焦りを感じた。

 休憩もかねて、買ってきたおやつをだし、とコーヒーを淹れた。
 なんかこうやってゆっくり二人で過ごすのはいつぶりだろうか。
 もともと幼馴染で、仲は良かったのだ。
 夕飯の支度だけしてあげると、もう大丈夫みたいなので、帰ると告げる。
 そうすると、何か言いたげに俺を抱き寄せた。
 
「秋人…?」

「…発情期、まだこないって。雪の担当の先生から聞いて、俺のせいだってずっと思ってた。ごめん雪…ごめん…」
 
 最後は消え入りそうな声だった。
 そんな事をまだ気にしているなんて思いもよらなかった。
 
「俺は嬉しいと思ってるよ?もうずっと発情期なくなればいいって思ってる。Ωだけにある発情期なんてなければいいって。だから、俺はなんとも思ってないよ?あ、もし発情期セックスがしたいなら、俺と番解除して、他のΩと番になって…「雪…!!」」
 
 その言葉は最後まで言えなかった。
 乱暴に口を封じられる。
 秋人の目は怒っていた。
 俺の身体は秋人によって軽々と抱え上げられ、ベッドに倒される。
 

「秋人…?俺…発情期じゃないよ…?」

「そんなの分かってるッ!少し黙れ」
 
 そう言ってまた乱暴に口づけされた。
 初めてだった。
 発情期じゃない秋人とのセックスをしたのは。
 そしてこんなに怒った秋人も初めて見た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...