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新しい世界
新しい世界では3
しおりを挟む寮に辿りつき、俺は少ない荷物を閉まった。
通常は二人部屋だが、きっと秋人の手回しだろう、俺は一人部屋だった。
(二人部屋が一人だと逆に広すぎてやだな…)
今は春休み、入学式までもう少し日にちがあり、この学園に残っている生徒はまばらだろう。
学食や、図書館、保健室などはいつでも空いているようなのでそこは安心だ。
とりあえずお腹が減ったので、学食に向かう事にする。
貰ったパンフレットを頼りに足を運ぶと、それは大きな学食だった。
購買部でパンなども買う事ができるらしいが、ほとんどの生徒がこの学食を使うのだからこの規模は納得できる。
今は生徒が少ない分、学食には人がまばらだった。
タッチパネルでメニューが選べて、専用のカードで支払われるようになっている。
お金は学校側が負担するとあって、そんなうまい話し…と疑っていたが理事長が秋人ならなんの躊躇もなく使える。
俺はミートボール入りのミートスパゲティを頼んで、番号が呼ばれるまで、空いてるテーブルで水を飲みながら待った。
番号が呼ばれると、それはもう美味しそうなスパゲティが出てきた。
(うまそう…)
食べ盛りの学生設定なのかいい感じのボリュームがある。
席に戻って、一口頬張ると、想像通りとてもおいしかった。
もくもくと一人で食べていると、突然きゃぁぁっという黄色い声が学食にこだました。
といっても、男性ばかりのこの学園で、その声はそこそこ低いのだが、俺はその声の方を振り向く。
(あ…)
入ってきたのは見間違えることはない、俺の前世の息子たちだった。
息子5人はその際立つ美貌でキラキラと輝いて、生徒達の注目の的だった。
(流石は秋人の血を引いているだけはあるなぁ…)
だが秋人には念を押されていた。
息子達は前世記憶がない。
秋人とも血の関わりもなければ、5人とも兄弟ではない。
皆赤の他人なんだと。
そういわれて少しショックだったが、ここは前とは違う世界なのだからしょうがないだろう。
うん。と返事を返した。
いきなりしゃべられても向こうは困惑するだろうし。
きっかけがない限りは赤の他人を通せ。
気になるだろうが、遠くから見守るのも親心だ。と秋人に念を押された。
とりあえず、俺は息子たちがこの学園で立派にやってくれる事を願いながら目の前のスパゲティに意識を戻した。
俺の息子達の説明は軽く秋人から聞いた。
長男、一条直人、この春から三年生。
次男、西園寺圭、同じくこの春から三年生。
三男、九条祐希、この春から二年生。理事長室で出会ったのは彼だ。
四男、広幡修斗、この春から二年生。
五男、徳大寺渚、この春から一年生、俺と同い年になる。
俺さ、三男生んだ辺りからそろそろ女の子ほしいなーって、思ってたんだよね。
結局5人とも男だったわけだけどさ、創造主こうなる事見越してない?
ぜったいこういうの好きそうじゃん創造主…。
そんな疑念が生まれつつ、聞かされた名前は皆苗字が違っていて、本当に他人なんだなぁと思った。
話に聞くには、皆貴族のお坊ちゃんらしく、幼い時からの知り合いらしい。
仲良くやっていると聞いて、それにはほっとした。
後はまぁ人気があるからファンクラブには気をつけろーとか言われたけど、遠くから見守ろうと決めたので、結構そのあたりの話は流した。
ガラガラに空いていた学食の席、それなのに俺の横にどんっと腰を下すものがいた。
「「………」」
(祐希……?)
俺はまた驚いたように顔をみた。
彼もまた俺の顔を見る。
(記憶…ないんだよね…)
終始ドキドキと心臓がなった。
隣に座ってどうした祐希!
三男は昔から真面目な子だった。
長男はしっかりしていたが、次男がけっこうやんちゃだった為、上をみて育った彼は真面目で大人しかった。
表情は崩さないまま、祐希がそっと口を開いた。
「アンタ理事長の女…?」
あ、っとそこで理解した。
秋人とのキスを祐希には見られていたのだ。
なんてごまかそうかとプチパニックを起こしていた俺にまた新たな声がかけられた。
「なになにー?祐希の知り合いー?」
少し高めのその声のする方を向けば、五男の息子の面影を残す、渚が立っていた。
唯一俺に似て、まだ中学を卒業したばかりの彼は幼く可愛いと言った印象だった。
自分に似た息子は最初Ωなのではと心配になっていた。
検査の結果はαで、本当によかったと胸を撫で下ろしたのを思い出した。
そんな息子の思い出に浸っていると、現実に引き戻すかのように横にいた祐希が声を出した。
「渚か、コイツは理事長のお…んむっ」
俺はとっさに自分の皿にあったミートボールを祐希の口に突っ込んだ。
祐希、ミートボール好きだったよね。
そして、俺は祐希の方をみてなるべく皆には聞こえないように低い声を出した。
「それ以上喋ると殺す…!」
口が悪いのは前世からなので許してほしい。
これ以上喋るなと言うオーラ感じ取ったのだろう。一瞬ビクリと肩が震えた祐希は口に含まされたミートボールを食べながらウンウンと頷いた。
「なになに~、二人とも怪しい~」
俺たちのやり取りを見て、興味深々な渚。
「おい、そんなところで食べると混乱するだろうが!さっさと二階のテラスに行け」
「はーい」
「ああ」
そう二人に言ったのは長男の直人だった。
周りにはなんだなんだと人が確かに増えていた。
直人は俺の方をちらりと見たが、興味なさそうに二階のテラスに消えていった。
うーん、流石は長男。しっかりしてる~。
二階のテラスは、彼らの食事する場所らしい。
人気のある彼らは一階だと混乱を招くと学校側の配慮だと言う事。
嵐が過ぎた学食では、アイツ一体何者!?と不躾に刺さる視線を無視してミートスパゲティを完食した。
部屋に戻ると、改めて一人なんだなーと感じた。
今世でも兄弟がいて、賑やかだったし、一人の夜は初めてかもしれない。
秋人の『会いたい♡』のメールは無視して、携帯を閉じる。
もうすぐ始まる入学式が楽しみだった。
友達出来るかな~。なんて思いながら布団にもぐり、瞼を閉じた。
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