22 / 81
新しい世界
広幡修斗と言う男
しおりを挟む慣れない生徒会の仕事と、社交ダンスの練習で俺はその日すぐに寝落ちた。
次の日は睡魔に耐えながら、午前中の授業を終えて、小鳥たちにパンくずをあげながら昼休みを過ごしていた。
ガサガサと言う音とシャーッと言う鳴き声が聞こえたと思うと人の声も聞こえた。
「あ…」
「?」
小鳥たちに向けていた目線をあげると、そこには猫を抱えた修斗が立っていた。
「………」
修斗が無言でこちらに歩いてくると、猫が大きな声でニャーッっと鳴く。
その鳴き声に驚いたのか一斉に小鳥が飛び立つと、それを残念そうに修斗は空を見上げた。
(そりゃ逃げるよな…)
どこから見つけてきたのか、凶暴そうな猫を抱えていた修斗はご機嫌そうだった。
「広幡先輩?猫のひっかき傷、感染症にならないよう気を付けてくださいね?」
修斗の手は猫のひっかき傷だらけだった。
腕は制服で守られているが、手から血が滲んでいる箇所がるし、今も猫に爪を立てられている。
生前は看護学校に通っていたので心配になった。
「山に住んでるっぽい猫…捕まえたら気性がはげしくて…」
なぜ野生の猫を捕まえたんだ…と、動物好きの修斗には言えなかった。
「野生ならなおの事、すぐ保健室で手当てしましょう」
「え、でも…」
「その猫を飼うつもりならいいですけど、飼えないのならむやみに野生の動物に人間がかかわらない方がいいですよ」
学生寮はもちろんペット禁止、学校には動物がいなので、修斗は猫を発見したとき嬉しかったのだろう。
少し厳しめに言うと落ち込んでいるようだった。
しぶしぶといった感じで猫を離すと、ぴゅーっとどこかに逃げていった。
「ひどくなさそうですが、みてもらいましょう」
「うん…」
俺は修斗と一緒に保健室に向かった。
消毒と、血が出ている所には絆創膏を貼ってもらった。
「多分大丈夫だと思うけど、もし熱が出たらいってね。すぐ大きい病院連れていくから」
「先生ありがとうございます」
保険医の先生に手当てをしてもらって、保健室を出るとちょうど昼休みが終わるチャイムがなった。
「では、俺は一年の教室に戻るのでここで失礼します」
「あ、ねぇ。いつもあそこで小鳥に餌やってるの?」
「いつも…ではないですが、だいたい居ますよ…」
「次は俺も小鳥に餌をやってもいい?」
「…ふふ、どうぞ」
相変わらず動物が好きな修斗は健在なんだなぁと嬉しくて笑ってしまった。
それから俺は昼休みに修斗と小鳥に餌やり仲間になっていた。
「昨日より二匹増えてる」
「仲間よんだんですかねぇ」
そんなまったりする会話を楽しみながら、パンくずをあげる。
あんまりやりすぎは良くないからちょっとだけ。
動物に関してはかなり観察力がすごいのか、この子は新しい子だとかこの子はまだ警戒しているとか言っていた。
「そういえば先輩手、大丈夫でしたか?」
「ん、なんともなかった」
感染症になると熱とか出るらしいので良かった。
まだ手に後が残っていたが、すぐ消えるだろう。
「じゃあそろそろ昼休みも終わりますし、戻りましょうか」
「ああ」
座っていたベンチから立つともう餌の時間は終わりだと理解した鳥たちが飛び立っていった。
「あ、そうだ広幡先輩!」
「ん?」
「一年生交流会の社交ダンス、もし空いていたらお願い出来ませんか?」
「俺?」
「はい、俺二年生の先輩に知り合いとかいなくて…」
「うん、いいけど」
「良かったぁ、ありがとうございます」
笑顔で言うと、頭をぽんぽんと優しくたたいて、二年生の教室棟に歩いていった。
(修斗…お前は優しい子だな…)
今日の朝に一年交流会の話が出たので、もしかしたらもう誰かと…と思ったが、声を掛けてみて良かった。
これで、なんとか一人にならずに済んだので、後は当日までにダンスをマスターするのみとほっと胸を撫でおろした。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる