幸せを噛みしめて

ゆう

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新しい世界

広幡修斗と言う男

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 慣れない生徒会の仕事と、社交ダンスの練習で俺はその日すぐに寝落ちた。
 次の日は睡魔に耐えながら、午前中の授業を終えて、小鳥たちにパンくずをあげながら昼休みを過ごしていた。
 ガサガサと言う音とシャーッと言う鳴き声が聞こえたと思うと人の声も聞こえた。
 
「あ…」
 
「?」
 
 小鳥たちに向けていた目線をあげると、そこには猫を抱えた修斗が立っていた。
 
「………」
 
 修斗が無言でこちらに歩いてくると、猫が大きな声でニャーッっと鳴く。
 その鳴き声に驚いたのか一斉に小鳥が飛び立つと、それを残念そうに修斗は空を見上げた。
 
(そりゃ逃げるよな…)
 
 どこから見つけてきたのか、凶暴そうな猫を抱えていた修斗はご機嫌そうだった。
 
「広幡先輩?猫のひっかき傷、感染症にならないよう気を付けてくださいね?」
 
 修斗の手は猫のひっかき傷だらけだった。
 腕は制服で守られているが、手から血が滲んでいる箇所がるし、今も猫に爪を立てられている。
 生前は看護学校に通っていたので心配になった。
 
「山に住んでるっぽい猫…捕まえたら気性がはげしくて…」
 
 なぜ野生の猫を捕まえたんだ…と、動物好きの修斗には言えなかった。
 
「野生ならなおの事、すぐ保健室で手当てしましょう」
 
「え、でも…」
 
「その猫を飼うつもりならいいですけど、飼えないのならむやみに野生の動物に人間がかかわらない方がいいですよ」
 
 学生寮はもちろんペット禁止、学校には動物がいなので、修斗は猫を発見したとき嬉しかったのだろう。
 少し厳しめに言うと落ち込んでいるようだった。
 しぶしぶといった感じで猫を離すと、ぴゅーっとどこかに逃げていった。
 
「ひどくなさそうですが、みてもらいましょう」
 
「うん…」
 
 俺は修斗と一緒に保健室に向かった。
消毒と、血が出ている所には絆創膏を貼ってもらった。
 
「多分大丈夫だと思うけど、もし熱が出たらいってね。すぐ大きい病院連れていくから」
 
「先生ありがとうございます」
 
 保険医の先生に手当てをしてもらって、保健室を出るとちょうど昼休みが終わるチャイムがなった。
 
「では、俺は一年の教室に戻るのでここで失礼します」
 
「あ、ねぇ。いつもあそこで小鳥に餌やってるの?」
 
「いつも…ではないですが、だいたい居ますよ…」
 
「次は俺も小鳥に餌をやってもいい?」
 
「…ふふ、どうぞ」
 
 相変わらず動物が好きな修斗は健在なんだなぁと嬉しくて笑ってしまった。
 

 それから俺は昼休みに修斗と小鳥に餌やり仲間になっていた。
 
「昨日より二匹増えてる」
 
「仲間よんだんですかねぇ」
 
 そんなまったりする会話を楽しみながら、パンくずをあげる。
 あんまりやりすぎは良くないからちょっとだけ。
 動物に関してはかなり観察力がすごいのか、この子は新しい子だとかこの子はまだ警戒しているとか言っていた。
 
「そういえば先輩手、大丈夫でしたか?」
 
「ん、なんともなかった」
 
 感染症になると熱とか出るらしいので良かった。
 まだ手に後が残っていたが、すぐ消えるだろう。
 
 
「じゃあそろそろ昼休みも終わりますし、戻りましょうか」
 
「ああ」
 
 座っていたベンチから立つともう餌の時間は終わりだと理解した鳥たちが飛び立っていった。
 
 
「あ、そうだ広幡先輩!」
 
「ん?」
 
「一年生交流会の社交ダンス、もし空いていたらお願い出来ませんか?」
 
「俺?」
 
「はい、俺二年生の先輩に知り合いとかいなくて…」
 
「うん、いいけど」
 
「良かったぁ、ありがとうございます」
 
 笑顔で言うと、頭をぽんぽんと優しくたたいて、二年生の教室棟に歩いていった。
(修斗…お前は優しい子だな…)
 
 
 今日の朝に一年交流会の話が出たので、もしかしたらもう誰かと…と思ったが、声を掛けてみて良かった。
 これで、なんとか一人にならずに済んだので、後は当日までにダンスをマスターするのみとほっと胸を撫でおろした。

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