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新しい世界
決勝戦
しおりを挟む休憩を挟んで、いよいよ決勝戦が始まる。
決勝戦は他の種目の時間が被らないようになっていて、渚も駆けつけていた。
「わ~間に合ってよかった!どっちが勝つかなぁ」
体育館は熱気に包まれていて、選手が中央に並ぶとわああと歓喜の声が上がった。
準決勝をちらっと見たかぎりではどちらも上手そうだ。
「な、なんか…こっちまで緊張してきた…」
「ふふ、雪ちゃん見てるだけなのに」
渚に笑われてしまった。それはそうなのだが、俺は会場の雰囲気にのまれていた。
三年生側が赤のユニフォームを着ていて、二年生側が緑のユニフォームで見分けが付きやすくてよかった。
皆が配置に着くと、真ん中でジャンプボールが始まる。
直人や修斗もかなり身長が高い方だと思うが、バスケ部らしい2mはありそうな体格のいい二人が立っていた。
ここの学園は学力だけではなく、スポーツも盛んだ。
先にボールを先制したのは三年生側で、すぐにゴール前までボールがパスされると圭がさらりとレイアップシュートを決める。
先制が決まった三年側が湧き上がる。
三年生以外の圭のファンクラブもメンバーたちからも圭様素敵―!!なんて声が上がっていて、たしかにこれはみんなが見たくなる気持ちもわかるし、かっこいい。
今度は二年生側がボールをキープして、祐希にパスが回るとそのままスリーポイントラインからシュートが打たれ、綺麗にゴールに決まった。
(すごっ…)
祐希の正確性はスポーツでも現れているようだ。
その後も攻防が続いて、すぐに10分間の一クォーターが終了した。
バスケは全部で四クォーターあり、同点だった場合延長戦がある。
点の取り合いで激しい戦いが続くが、他のメンバー的には三年側がやはり経験も体格も有利そうだ。
徐々にではあるが、三クォーター目には点の差が開いていた。
それでも彼らの勢いは止まらない。
修斗がダンクシュートを決めると、今度は華麗に直人がタップシュートを決める。
(お前たち…生徒会なんてしてないでバスケ部に入ってプロ目指した方がいいのでは…!?)
それくらい彼らはチームを引っ張り、輝いていた。
「将来は家業を継がなきゃだから、ね…」
それを見透かしたように小さく呟かれた渚の言葉はこの歓声の中だがしっかり聞き取れた。
「そっか…」
その言葉に返事するわけでもなく、俺も誰かに向かってそう呟いた。
でも今を楽しむ彼らはとても高校生らしかった。
試合の結果はそのまま三年生側が勝った。
その後も渚のサッカーの決勝戦を見たりと、気づけば体育祭もあっという間に時間がたち、日が傾きかけていた。
各種目ごとの優勝が決まる。成績の良かったクラスはマラソン大会の免除が与えられた。
その後はみんな疲れ切ったように、学食で夕食を済ませると眠りにつくかのように部屋に吸い込まれたようだった。
俺も部屋に戻って一息つくと大あくびが止まらない。
もちろん体育祭は金曜日に組み込まれていて明日から休みなのだ。それでもテレビで毎週金曜日に放送している映画を見る気にもなれず、シャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。
枕元の充電器にさしていた携帯が震えた。
「うげ、圭からだ」
メッセージアプリを開くと圭の名前が表示されている。
圭からの連絡はろくな事がない。
そのまま寝て無視しようと思ったが、意外と腹黒い圭は後々何をしてくるか分からない。
渋々メッセージを確認したことを俺は後悔した。
『体育祭で昂っているので、相手しに来てください』
『俺はデルヘルじゃないので嫌です。大人しく寝て下さい』
『デリヘルってなに?』
案の定そっちのお誘いに俺はがっくり肩を落とす。
こっちは朝早くて眠いんだ。
それにデリヘルって、こっちの世界はないのか…?そんな言葉を出してみたが、こっちの世界でのそう言った言葉を聞いた事かなかったなと思い出す。
前世の世界と違う所はいくつもある。
バース性がない事や、王族や貴族、財閥が存在していること。
だから渚が言っていたようにみんな代々家を継ぐことが大事とされている。
もっと昔はさらに細かく階級があったらしい。現在は文明も法律も変わってきており、大まかに分かれているだけのようだが。
それでもここの世界は、中学まで生活していた平民の世界とはかけ離れているように思える。
圭のメッセージを無視していると、電話が直接かかってきた。
「な…に…」
「雪…早く…」
眠い声で電話を出ると、とても低い声で急かされた。
そんなめっちゃ怒ってる声出さなくてもいいじゃんか…。
怒られせるのは苦手だ。おれは渋々身体を起して、寝間着姿だが、この時間は皆寝てるだろうしそのまま自分の部屋を出た。
(うう…流石に今日は口だけで勘弁してもらおう…)
「雪…?」
とぼとぼ歩いて圭の部屋の近くまでくると突然声を掛けられた。
みんなもう寝ていると思っていたので、俺はここに来たのがバレたと思って焦ったが、どこか聞き覚えのある声だった。
「あれ、直人…先輩…?」
俺の後ろにいたのは直人だった。
直人もラフな格好をしていて、手には缶のコーラを持っていた。
どうやら自販機に飲み物を買いに行っていたらしい。
「こっちの方にいるのは…もしかして圭に呼ばれた?」
さすがに鋭い。
いい言い訳も思い浮かばず、おれはこくりと頷いた。
「ふ~ん、じゃあ俺も圭の所遊びに行こうかな」
「え?」
その意外な返事に俺はびっくりした。
もちろん圭と直人は同じ学年で仲はいいのだろうが、まさか一緒に行くと言い出すとは思わなかった。
「俺がいたら迷惑?」
「い、いや…圭先輩も喜ぶ…と思いますよ…はは…」
「いいよ、皆みたいに気軽にしゃべっても」
余裕そうな笑顔で微笑まれた。う…つい、生徒会のメンバーには言葉遣いとか気を付けようと思っているのに慣れないのか不自然差が出てしまっているのを見透かされていた。
いや、時間が経ったので生徒会メンバーともだいぶ打ち解けて来たとは思うのだが、直人や祐希には中々絡めていなかったから、今もたどたどしい言葉使いになっている。
それだけ言って、直人はコーラを美味しそうに飲みながら俺の前を歩く。
あれ、むしろ直人がいる事によって、これはえっちな事回避できるのでは?
そう思って心の中でガッツポーズを決める。
俺は直人の後についていって、圭の部屋に向かった。
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