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二学期
祝賀会
しおりを挟む年が明けてからも甘えてくる秋人をかまいつつ、俺は祝賀会に行く準備の為、持ってきていた荷物を小さな旅行バックに必要最低限のものを移した。
正装は以前秋人とペアで作ったものを着る事にし、秋人の荷物は佐伯さんと一緒にまとめた。
3日に学園近くの家を出て、その後は秋人の実家に泊まらせてもらう。4日はゆっくりして、5日が祝賀会と言う予定だ。
久々に会う秋人のご両親は笑顔で迎え入れて、豪華な夕食を振る舞ってくれた。
そして訪れた祝賀会当日。やっぱり王様に会うのは緊張して手汗がすごい。ましてや今度は色んな人がいる訳だから粗相しないか心配だ。
お城の入場までは一度経験しているので、入る手順は大丈夫だった。
身元確認と受付を済ませ、秋人に導かれて大きな広間へと向かった。
時間より早めに到着したが、そこにはすでに沢山の人がいて、華やかな雰囲気だった。中にはテレビの中で見た事のある有名人もいて、俺がこんな所にいいのかさらにドキドキした。
立派な中庭のような場所は、花などで豪華に飾り付けられている。
高い位置に作られた玉座には王様達が座るであろう椅子が置いてある。そこで新年の挨拶がされるのであろう。
辺りを見回して人の多さに若干引いて、秋人の手をきゅっと握ると秋人はなるべく隅の方に連れていってくれた。
ここには貴族や著名人、国に貢献した様々な人が集まっているのだと言う。庶民として生きてきた俺にはどうにも肌に合わず息苦しい。
「話はここからでも聞けるから、なるべくここに居よう。…何か飲むか?」
「うん」
給仕の人に水を運んでもらった。
口の中がカラカラだったので助かった。
王様が登場する時間まではまだある。
水を飲んでふと気がつくと秋人の周りには人が溢れていて、挨拶をしていく構図が生まれた。
一人一人長い話をされるのかと思ったが、みんなあっさりとした会話で済ませていく。
皆んな秋人に声をかけたいらしく、長時間の会話はタブーらしい。俺は邪魔にならないよう空気の様に存在感を消すよう務めた。
秋人も時折声を掛けてくれるし、このまま順調に終わればいい。
そんな事を思っていたら甲高い女性の声が秋人の名前を呼んだのに気がついた。
そちらに目をやると、すらりとした女性は高身長で茶色のウェーブ髪を横に流し、豊満な胸が強調されたスタイルのはっきりと分かるドレスを身に纏い秋人の腕を掴み身体を寄せていた。
あからさまな女性の態度に俺は目を逸らす。
もちろんこう言う事は予想していた。秋人は三十を過ぎた独身で引く手数多なのは分かっている。
だが、見ていていい気分はしない。
秋人は誰に対しても同じ対応だ。女性だろうが男性だろうが。その事に俺はちょっとほっとしていた。
彼女は挨拶をした後、最近会えなくて残念だとか、次のパーティーには来るのかと色々機会を伺っているのが分かる。
そんな会話が耳に嫌でも入ってくるので、はぁ。と思わず重いため息が出てしまった。
次に別の所へ視線を移すと直人と圭が仲良く話しているのが見えた。
ここに居ても…と思いそちらに行こうと足を進めようとすると、抱かれていた肩にぐっと力が入った。
俺は秋人の方を振り返る。
「俺、あっちの方に行ってるよ」
あんまり話の中断をしない方がいいと思ったけれど、勝手にうろつくのは良くなかったか。と思い秋人の表情を見ると、いつも冷静な顔なのに今は心底うざったそうな顔をしていた。
「あら?そちらの方は…?」
秋人が話す前に声を掛けたのは秋人の隣に居た女性だった。気づいていたのか、気づいていなかったのか、あたかも今視界に入りました。と言わんばかりに声をかけられた。
「あ、…えっと…」
俺は正直こういうタイプの女性が苦手だ。前世で女性のαにされた事の記憶は残っているし、その時のαの女性の様な目つきは俺の身体を固くさせた。
「彼は私の婚約者です。まだ高校生なので発表は卒業してからと考えていましたが、今日はおめでたい日なのでこうして一緒に参加しました」
「ッ…!?秋人様のこっ、婚約者!?」
彼女は驚愕した表情で俺の顔を見たあと、悔しそうに顔が歪む。
そりゃそうだろう。俺の容姿はまだ高校一年で成長途中の少年と言っても過言ではない。そんな子供のような相手を婚約者なんて言われても納得はいかないだろう。
「ええ。また機会があればゆっくりとご紹介いたします。では私たちは他にもご挨拶するところがありますので」
秋人はそう言うと俺の肩を押して、その場を離れた。
その後の女性の顔なんて見れなかった。
「女性はなんでああも話が長いんだ」
とうんざりした表情で愚痴る。
はは、と軽く笑って頷いた。と言うか婚約者なんて言ってよかったのだろうか。
まぁ、秋人が言うんだから大丈夫なんだろうけど。
「そうだ!あっちに直人と圭が居たんだ。話に行こう」
「そうだな」
二人の方へ向かっていると、こちらに気づいた二人はすぐに向かってきてくれた。
学校の時とは違う余所行きな表情だ。ここには色んな目がある。
形式的な挨拶に、よくある称賛の言葉。
そこで彼らも貴族のお坊ちゃんなんだなって実感させられた。
そのあと祐希や修斗、渚も挨拶に来てくれて、学校ぶりのみんなの姿を見れて嫌だった気分も忘れてしまった。
早めに到着していたが、話をしているとあっという間に王様が現れる時間になる。
皆玉座の方を向き、騎士団の人が重厚な扉を開くと一斉に皆頭を垂れる。
ゆっくりとした歩調で壇上の上にある椅子に王様が座り、その横に王妃様、そしてその後を継ぐ王子三人が座る。
王様が顔を上げるようにと声をかけると、皆王様の方に注目した。
以前会った温厚そうな表情とは違う精悍な顔付きだった。
煌弥もそうだ。学園の時の甘えた感じはなく、正装に身を包み真っ直ぐ射抜くような表情で王様の話を聞いている。
王宮に引きこもっていたワガママな頃とは違う、王子としての自覚を持って立っている。その事が何よりも嬉しかった。
話が終わり、後は王様に声をかけたら終わりだと秋人に手を引かれる。
皆が王様に挨拶する為にと並ぶ列に秋人と並んだ。
人数が多い事から個人的な話をしてはならない。
順番が来て秋人に習い、定型文のような言葉で挨拶をする。それだけで終わり。あっという間だった。
こういう社交的な場に行くことが増えるのかなと思うと、そういったマナーも勉強しなくてはなと思った。
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