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二学期
婚約者
しおりを挟む祝賀会が無事に終わり、学園近くの家へと戻ってきた。
やっと気が抜ける。と俺はリビングのソファにごろんと横になる。
「お疲れ雪」
秋人はいつも忙しく動き回っているのもあって慣れているのか、余裕そうな表情だ。
「慣れないことしたから疲れたよー」
数日分の洗濯物をしなくてはと思うけど、まだ起き上がれそうになかった。
置いておけばもちろんここで働いているお手伝いさんが洗濯物を洗ってくれるのだが、それはなんだか申し訳なくて、ここに来てからも自分の事はなるべく自分でしている。
秋人から彼女らの仕事を奪うなとは言われるのだが、庶民なのだからそう言うのに慣れてないのはしょうがない。
秋人に抱き潰された時は動けなくて任せてしまうこともあるのだが、綺麗に洗濯物が返ってくると申し訳ないと思ってしまう。
うだうだソファでしていると、コトリ。と秋人がソファの前にあるテーブルにジュースを置いてくれた。
そこでようやく身体を起こし、飲み物を飲む。ついでにとリモコンでテレビを付けて何か見ようとチャンネルを回していると衝撃的なメッセージが飛び込んできた。
『近衛秋人に熱愛発覚…!?お相手は!?』
と言うテロップの向こうで司会者とコメンテーターが何やら語っている。
「…え……これ…」
「あー、めんどくさい事になっているな」
秋人はテレビを見ながら少し黙った後、口を開いた。
「雪、俺は世間に婚約発表は高校を卒業してからと思っていたが、明日大々的に発表しようと思う。それにあたって、勿論個人情報を隠すつもりではあるが、もしかしたら雪は世間から注目を浴びるかもしれないし、マスコミに付け回されたり生活する上で被害が出るかもしれない。けど俺は雪の事を全力で守るから。俺を信じて話を進めさせて欲しい」
「………う、うん…」
「不安だと思う。だが学園での安全は絶対守らせるし、雪の実家には何かないよう俺の方から警備を回させる」
「そうだ…。婚約の事だって、俺はまだ両親にも…」
「雪のご両親には既に話を付けてある。この学園に入る前からな」
「え…」
なるほど。通りで学費無料、奨学生と言う上手い内容だったわけだ。純粋だったあの頃は両親に負担を掛けたくないと思って選んだが、こうなるように秋人と両親が手を組んでいたに違いない。だって秋人に頼み込まれたら断れる人なんているのだろうか。俺の両親ならどうぞどうぞと言い出しそうな光景が目に浮かんだ。
何となくそこら辺の事が繋がって、俺が見つかった時点で秋人の手の中で転がされている事が分かった。
「少し不自由な生活をすると思うが我慢してくれ」
「ん。分かってる」
「ありがとう雪。愛してる」
恥ずかしげもなくちゅっと、おでこにキスをすると早速明日世間に発表する為にと佐伯さんに電話して手配を始めた。やはり仕事が早い。
秋人のご両親や、王様達に報告した後は特に話題にもなってなかったはずが、まさか祝賀会でこんなにも話題になるとは思っていなかった。
スキャンダルみたいな事はテレビの中の有名人の出来事で、俺とは無関係だと思っていたけど、秋人からしたら想定内だったのかもしれない。
いや、これも秋人の作戦の内だったのか!?一緒に出席させたのも、ペアの服を着て参加だったのも。
今考えると思い当たる節がありまくる。
そりゃ、皆んな俺と秋人がどう言う関係か気になるよな。公の場だから直接は聞かないだろうが、あの時女性に放った言葉は近くにいた者に聞こえただろう。
俺に精神的不安を与えないよう周りから埋めていく。頭が良すぎるのも考えものだなと電話を終えて、ソファの隣に座ったご機嫌な秋人を見ながら雪は思った。
次の日、秋人は早速お昼には記者会見を開いていた。直ぐに会場も用意して本当に仕事が早い。
もちろん俺はお家でお留守番だ。その様子をテレビで見ていた。
相手は一般人であることを理由にどんな人物像かは伏せられていた。真剣にお付き合いをしていて、将来は結婚する予定で話を進めていると。
どこで知り合ったのか、どういう方なのか。色んな記者から質問を投げかけられていたが、そこは想定の範囲内なのか、上手く受け答えをしていた。
ネット上でもかなり騒がれていたが、俺の個人情報は一つも上がっていなかった。
もし情報が漏れたとしたら権力で消すと怖い事を言っていたから、多分大丈夫なのだろう。
俺はひっそりと生きたいだけなんだ。
テレビと携帯を閉じると、またソファにくたりと横たわった。
秋人が記者会見から戻って来るまで惰眠を貪ろう。
昨日の夜も、世間に公認だなと嬉しそうに俺の身体を貪った。少しでも体力を戻さないと。
きっと今日も抱かれるのだろう。
希望とはかなり違うけれど、幸せだからいっかぁ…と瞼を閉じた。
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