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Heir tag(エアタグ)
しおりを挟む田村美咲は、仕事で疲れ果てて帰宅した。
都会の喧騒から解放される瞬間、少しでも心を落ち着けたかった。
だが、その日の晩、彼女の部屋に一つの小さな物体が落ちていた。
丸い形、薄い金属のボディ。それはアッポロの「HeirTag」だった。
「誰かの間違えて持ってきてしまったのかな?」
美咲はそれを拾い、部屋のテーブルに置いた。特に気にも留めず、手元のスマホで何かを確認していたが、何か引っかかるような気がした。それは、普段感じないような違和感。HeirTagがどこから来たのか、誰のものなのか、心の中で何度も考えたが、特に思い当たる節はなかった。
翌日、会社に出かける前、美咲はそのHeirTagをポケットに入れた。落ちていたものを持ち帰っただけだし、特に悪いことをしたわけではないと思ったからだ。しかし、その日から、奇妙な出来事が続き始めた。
朝、家を出た時、スマホに通知が来た。「あなたの位置情報が確認されています。」最初は何も気にせず、そのまま仕事に出かけた。しかし、午後になってもう一度、通知が届いた。今度は、「HeirTagがあなたの近くにあります」と表示された。
「え、どういうこと?」
美咲はすぐにスマホを確認したが、特に不安は感じなかった。自分が持っているHeirTagだと分かっていたからだ。しかし、次の通知が来た時、彼女は背筋を凍らせた。
「あなたの位置が追跡されています。」
そのメッセージは、冷徹で、どこか不安を煽るような言葉だった。誰かに追跡されている。心の中でそれが確信に変わる瞬間、彼女はHeirTagが突然、怖ろしい存在であることに気づいた。
その晩、美咲は家に帰ると、家の中に誰かがいるような気配を感じた。普段は静かな部屋なのに、何かが違う。玄関の扉を開けると、部屋の中に足音が響くような気がした。誰もいないはずの部屋が、まるで誰かに見張られているように感じられた。
「誰かいる?」
彼女は声を上げたが、返事はない。だが、机の上に置いていたHeirTagが微妙に動いているのを目にした。その動きは、まるで誰かがそれを意図的に触っているかのようだった。
心臓が早鐘のように打ち始め、手元のスマホが突然震えた。
画面には「HeirTagがあなたの近くにあります」という通知が再び現れた。だが、今回のメッセージには続きがあった。
「今、あなたの家の中にいます。」
その瞬間、美咲は恐怖で動けなくなった。
誰かが、確かにこの部屋にいる。自分の後ろに。
「誰…?」
彼女は振り返った。しかし、そこには誰もいなかった。むしろ、部屋の中には何かが変わった痕跡が残っていた。
椅子の位置が少しずれている。
カーテンがわずかに開いている。
まるで、誰かがここにいて、ずっと自分を見ていたような感じがした。
その後、恐怖が美咲を支配し続けた。毎日のように、スマホに届く通知は異常を示していた。「あなたの位置が追跡されています」「HeirTagがあなたに近づいています」「現在、あなたの部屋の中にいます」——通知が来る度に、美咲の心は徐々に壊れていった。
そして、ついにある夜。美咲は寝室で目を覚ますと、どこかから足音が聞こえた。
暗闇の中で、誰かが歩いている。彼女の心臓が止まるかと思った。
その音は、確かに近づいてきている。
冷たい空気が部屋を包み込むように感じられる。
スマホを手に取った瞬間、また通知が来た。
「今、あなたの背後にいます。」
その瞬間、背後で何かが動いた気配がした。振り返ることができなかった。
怖くて、体が動かない。
無理に体を起こすと、頭の中が真っ白になり、冷汗が額に流れた。
「お願い、誰か…」
その時、部屋の隅から、ぼんやりとした影が現れた。形は人間のようだったが、その輪郭は不明瞭で、まるで霧の中から浮かび上がるように現れた。
影はゆっくりと美咲の方に歩み寄ってきた。
スマホの画面には、次の通知が表示されていた。
「あなたの魂は、もう私のもの。」
美咲は、思わず叫んだ。
「やめて!」
その瞬間、影が彼女に覆いかぶさり、冷たい手が首を絞めるように感じられた。
彼女は必死に手を振りほどこうとしたが、影はそのまま彼女の体を押しつぶしていった。
その夜、美咲の部屋で彼女の姿はなかった。
ただ、テーブルの上には、あのHeirTagだけが静かに転がっていた。
後日、警察が彼女の部屋を調査したが、美咲の行方は分からなかった。
ただ一つ、奇妙だったのは、彼女のスマホに残されていた最後のメッセージだった。
「あなたの魂は、もう私のもの。」
その後、HeirTagは再びどこかに現れることがあった。
しかし、それを見つけた者たちは、必ずその後、姿を消すのだった。
あのHeirTagには、もはや普通の「追跡機能」など存在しない。
それは、ただ一つの呪われた存在、死者を引き寄せ、魂を奪うために存在していた。
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