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反転する部屋
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大学時代の先輩・関本さんが亡くなったと聞いたのは、六月のじめじめした昼だった。
事故だという。部屋で転倒して、首を強く打ったらしい。
……正直、信じられなかった。
関本さんは昔から「変なこと」に興味があって、大学時代はよくオカルトスポットに俺を連れて行った。
「人は視界を信じすぎてる」とか、「家ってのは、裏返る」とか、意味のわからないことを言っていた。
亡くなる一週間ほど前に、関本さんから久しぶりに連絡があった。
「面白い部屋に引っ越した」とだけ。住所と、ひとこと。
『左右が反転する部屋なんだ。』
何を言ってるのか分からなかった。
訃報の三日後、葬儀のあとで、俺はふと思い立ち、関本さんの部屋を訪ねてみた。
ワンルームのアパート。鍵はすでに外れていた。玄関を開けた瞬間、何かが“おかしい”と気づいた。
冷蔵庫が左側にある。確か関本さんは右利きで、家電を右側に揃える癖があった。
窓の位置も……おかしい。台所の蛇口は左に、エアコンはなぜか部屋の中央に。
まるで、すべてが「左右反転」しているようだった。いや、気のせいか?
俺は不意に、部屋の中で何かを確かめたくなった。
本棚に置かれていた手鏡を手に取り、部屋の奥へと進む。
そのとき、鏡に映った自分の背後――いや、「部屋の中のどこか」に、“誰か”が立っているのが見えた。
俺は振り向いた。誰もいない。
なのに、鏡にはずっと、そいつが映っていた。
思い出した。
関本さんが昔言っていた言葉だ。
「左右が反転した部屋では、“もう一人の自分”が動き出す。だから、決して長くいちゃいけない。」
もう一人の自分。
姿を現さず、ただじっとこちらを見ている存在。
それは鏡の中だけに存在し、そして、少しずつ“俺の動き”を真似するようになってきていた。
俺が手を上げると、鏡の中の“それ”も、微妙にズレながら手を上げた。
少し、遅れて。
まるで……今、初めてこの動作を覚えたかのように。
怖くなって、鏡を伏せた。すぐに部屋を出ようとした。
だが、玄関が、どこにあるのか分からなくなっていた。
鏡の世界に入ったのは、どちらだった?
今いるこの部屋が本当に“こちら側”なのか?
俺がここを出るとき、ちゃんと“本物の世界”に戻れるのか?
いや、もっと言えば――
俺は、本当に“元の俺”のままなのか?
翌朝。
自宅の鏡に映る自分の動きが、ほんの一瞬だけズレた気がした。
気のせいか?
そうであってほしい。心からそう願っている。
ただ……時々思うのだ。
この世界は本当に、俺がいた“正しい側”だろうか?
事故だという。部屋で転倒して、首を強く打ったらしい。
……正直、信じられなかった。
関本さんは昔から「変なこと」に興味があって、大学時代はよくオカルトスポットに俺を連れて行った。
「人は視界を信じすぎてる」とか、「家ってのは、裏返る」とか、意味のわからないことを言っていた。
亡くなる一週間ほど前に、関本さんから久しぶりに連絡があった。
「面白い部屋に引っ越した」とだけ。住所と、ひとこと。
『左右が反転する部屋なんだ。』
何を言ってるのか分からなかった。
訃報の三日後、葬儀のあとで、俺はふと思い立ち、関本さんの部屋を訪ねてみた。
ワンルームのアパート。鍵はすでに外れていた。玄関を開けた瞬間、何かが“おかしい”と気づいた。
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そのとき、鏡に映った自分の背後――いや、「部屋の中のどこか」に、“誰か”が立っているのが見えた。
俺は振り向いた。誰もいない。
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思い出した。
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「左右が反転した部屋では、“もう一人の自分”が動き出す。だから、決して長くいちゃいけない。」
もう一人の自分。
姿を現さず、ただじっとこちらを見ている存在。
それは鏡の中だけに存在し、そして、少しずつ“俺の動き”を真似するようになってきていた。
俺が手を上げると、鏡の中の“それ”も、微妙にズレながら手を上げた。
少し、遅れて。
まるで……今、初めてこの動作を覚えたかのように。
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