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 強国キルンベルガーの王妃は立って出迎えてくれた。国力の差は著しいのだから座っていても、決して非礼ではないのに。黒い髪黒い目の東の国特有の色目を持った女性だった。出迎えてくれたときも思ったが、ふんわりとした雰囲気をまとったかわいらしい人だった。年上の女性に失礼かもしれないが、王太子の母とは思えないほど若く見えた。

「お疲れの所申し訳ないわ。親交を深めたくてわがままをいいました」

 そう言って、私に座るように目線で示した。

「ありがとうございます」

 私が座ると、意外なことに王妃は隣に座った。そして座りながら、手で隠すようにして膝においた私の手のひらになにかを握り込ませた。感触から言って紙?王妃は私をにこやかに見つめて、いいから仕舞えと言っているようだった。かわいい人なのに結構迫力がある。

 それからの会話はたわいもないものだった。我が国はどんなところだとか、名産はなにかとか、兄弟はどんな人とか、本当に後ろにずらりと並んだ侍従や侍女、護衛達に聞かれても何の意味も持たないような話しかしなかった。
 小一時間話しただろうか、王妃は『では、晩餐でお会いしましょう』とにこやかに去って行った。

 私も手に汗かいてないかなと紙がよれないか心配しつつ、ここまで連れてきてくれた侍従に先導されて部屋に戻った。着替えるからと寝室に入って、誰も居ないか国から連れてきた暗部に一応探らせた。
 戻ってきた暗部が声を潜めて『この部屋の周りにわからないように、暗部が配備されています。私どもがここの屋根裏まで見張っておりますので、寝室内は大丈夫だと思います』と告げてきた。

 なぜ見張られているのか。逃げないように?王妃も何か自由に口をきけない雰囲気だった。握り込ませられた紙をそっと開いてみた。

「晩餐が終わったら疲れたと言って、寝室に籠もって下さい。周りの侍従や侍女は自国の者以外信用しないようにして下さい。寝静まったらお目に掛かりに参ります。こちらは燃やして下さい」

 まるで暗部スパイ小説だ。この国って何!怖いわ!
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