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しおりを挟むなんと美形は一人で来ていた。従者も護衛も無し。
「危険ではありませんか」
「私も魔術師でもありますし、攻撃魔法は得意です」
とにこやかにのたまった。思わず敬語になってしまうほどの美形の威力である。
「こちらです」
と言われて行く道は一度外に出て、なにやらわかりにくい小道をぐねぐね歩くのである。
「魔術師の塔にはあまり人が近づかないようにわかりにくいところに建ててあるのです。ですから、私から離れないで下さいね」
王宮の中は部屋にいても人が行き交う音が聞こえたが、ここはしんとしている。王宮の庭とはまた違って森のような雰囲気だ。我が国の王宮にも森があるが、単にそこまで建てる必要がなくて、森のままにしているのだけとは違って、森でありながらきちんと手入れされている。歩く道も煉瓦が敷き詰められている。
感心しながら歩いていると、蔦に覆われた背の高い塔が目の前に現れた。どこが入り口か蔦で全く見えない。リヒャルトが手を挙げると、いきなり目の前にぽっかり穴が開いた。あまりにいきなりで護衛騎士が私を取り巻いた。
「大丈夫ですよ。ここには魔術師と魔術師が許可した人間しか入れませんので、入り口は無いのです。」
「え、どうやって出入りしているのですか」
「魔術師自身は窓から出入りします。それ以外の人間は魔術師がこうやって穴を開けて入れます」
「窓から……それって箒に乗って出入りするんですか」
リヒャルトがぷっと吹き出した。私王女なんですけれど、割と失礼な男だ。
「そんなのに乗る必要はありません。自身が窓から飛び降りて来るのです」
「怪我しませんか」
「そういう魔術なので問題ないです。王太子ぐらいになると魔術を使わなくとも、三階くらいの窓から身体能力で飛び降りて来ますよ」
人間離れしているということか。いや人間じゃ無いのかも。だから番、番、と本能に従っている。
穴をくぐって全員中に入ると、後ろの穴が縮んで壁に戻った。帰りは私達窓から飛び降りないいけないの?
「大丈夫です。窓から飛び降りろとはいいません。魔術師以外はまた穴を開けて外に出られるようにしますから」
ほっとしたよ。全く心配させないでよ。
目の前には背の高い塔とは思えない広々とした空間がある。部屋がずらりと並んでいるのだ。外から見ると背が高いけれど中は狭そうだったのに、これはどうなっているのだろう。
「外の塔自体は目くらましです。実際はこう言う普通の建物です。ただ出入り口がないだけです」
出入り口がないだけで十分普通じゃないぞ!
手前の扉が開いてローブをかぶった男女どちらかわからない人が出てきた。その人がこちらを見て歩み寄って来た。そして甲高い声を掛けて来た。
「リヒャルト様、お客様ですか」
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