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しおりを挟む私ががっかりして肩を落としていると外が騒がしい。なにやら男と女が言い争っているような声がする。
「テオバルト様!会いに来て下さったのね!」
「やめろ!おまえは謹慎処分になっていたのではなかったのか!」
「明けましたの。反省しておりますわ」
という声が扉の外に聞こえたと思ったら、大きな音をさせて扉を開ける者がいた。
「リヒャルト!こんなところで何をしている。それにこの女をまとわりつかせるなと言ったはずだ!今度は処刑でもなんでもしろ!」
飛び込んできた男は、背が高く骨格は細めではあるが、きっちり筋肉が付いていて、修練しているなと思える身体付きだ。すっと通った鼻筋に、形のいい唇。そして碧眼は形のいいアーモンド型だ。今は怒りで頬は紅潮しているが、美形だ。竜人とは美形しかいないのか。前日に会った国王によく似ていた。うん、これが王太子か。普通に会ったら乙女度の低い私だって、ついうっかり見とれてしまいそうだ。しないけど。
リヒャルトが長椅子から立ち上がって、扉の前で仁王立ちしてるテオバルトに近づいた。
「殿下、うるさいです。私は今日は執務を抜けると言ってあったでしょう。あなたにして貰う仕事も置いてきてあるのに、なぜここに来ているのですか」
そう言われてテオバルトは胸を張って言った。
「仕事など済ませた。それよりアデリナの謹慎処分をなぜ解いた!私に二度ととんでもない魔道具を向けさせるなと言ったはずだ!」
怒りでお湯が沸きそうだなと、のんびり私は見つめていた。だって、私は部外者である。
「何だと!アデリナ!」
リヒャルトが既に逃げ腰になって、逃げだそうとしたアデリナの手首をつかんだ。
「今度はなんの魔道具を持ってきた!」
「実験よ!実験。たいした物ではないわ……」
「俺が感じたところ魅了の魔力だったぞ」
「……魅了の魔道具は禁忌だ。それは王宮の奥の厳重に管理された宝物庫にしまってあるはずだ。なぜ持っている」
「そんなところに忍び込めないわ。自分で作ったのよ。その性能をリヒャルトで試したいと思っていたら邪魔者がいて使えなくてむかついていたら、テオバルト様が来て下さったので、実験しようと思って……」
「王族が魅了の魔道具などで魅了されるか。それにその魔道具程度では猫か犬にしか好かれないぞ」
テオバルトが落ちてくる金の髪を指で押しのけて言った。うん見た目は絵になるな。言ってることは最低だけどね。
リヒャルトがつかんでいるアデリナの手首に何かをはめた。
「これは!やめてよ!外して!」
アデリナの絹を裂くような悲鳴があがる。
「アデリナ、あなたも魔術師になるときに誓約を結んだはずです。禁忌の魔道具を開発しないと。魅了は禁忌です」
「でも!だって!犬猫にしか効果ないって!」
「効果の程は関係ありません。作ろうとしたことが罪なのです。しかもそれは殿下に向けようとしましたね。許されません。禁忌をおかした魔術師は魔力封じを一生受けることになっています。これから、あなたはあなたが一生バカにしていた魔力無しの人間になって生きていくのです」
リヒャルトが言いたいことを言い切ってアデリナの着ていたローブを取り上げた。ローブをばっさばっさとゆすると、中からてのひら程度の大きさのものが転がり出てきた。
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