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第二部
7
食堂で朝食を済ませ、休憩室でユリウスとジークハルトがお茶を飲んでいるとエレーナが近づいてきた。
「おくつろぎのところ申し訳ありません。お話をさせていただいてよろしいでしょうか」
居丈高なクラリッサやルイーザと比べるからだけれども、王女と思えないほど低姿勢だ。
「よろしいですよ。どうぞお座りください。この方にお茶を入れて差し上げて」
ユリウスが自分の従者に命じる。エレーナは従者がお茶を入れて、自分の前に置かれるまでじっと俯いていた。
「王女殿下 どうぞ」
ユリウスが勧めると、カップを持ち上げて一口飲んだ。
「美味しいです。これは?」
「我が国から持ってきました」
「そうですか。信用がありませんのね」
寂しげに微笑んだ。ジークハルトはどきっとして慌てて口を挟んだ。
「そ、そういうわけでは。私の領地には茶の名産地がありますので飲み慣れたものを持参させただけ……」
と言いかけたら、ユリウスが冷たい声で
「毒殺予防ですね」
と言い切った。あーもう親善もへったくれもありゃしないと思うジークハルト。あわあわしてなんとか取りなそうとしたけれどエレーナはジークハルトの方を見て
「よろしいのですよ。クラリッサとルイーザのしたことを考えるとなんと言われても当たり前です」
とエレーナは二人を真っ直ぐ見つめた。
「でも話を聞いていただけますか?」
ユリウスは気の無さそうな雰囲気で
「どうぞ お好きに」
と言い放った。
「亡くなった父と母は政略結婚でしたが幼馴染でしたので、仲は良かったのです。ですがある日視察に出かけた先で子爵令嬢の側妃に会って全てがおかしくなりました。証拠はないので、あくまで疑いですが子爵に薬を盛られて男女の関係になりました」
さすがにそう言う話題は辛いのかエレーナは下を向いた。
「男女の関係になった以上は放置はできませんので、子爵令嬢は側妃になりました。父は大変後悔して母に謝ったそうですが、我が国は後宮が存在しますので、代々の国王は数人の側妃を持っていました。前例がある以上母は強く言えませんでした。最初はお渡りもなかったのですが、さすがに面会を求められて父も断りきれずに側妃の元に会いに行きました。何か嗅がされたか盛られたのか、その日から三日間、側妃の部屋から父は戻って来ませんでした。母はその時私を妊娠中でしたので父が側妃に渡ってもおかしくありません。誰も気が付かなかったのですが、しばらくして執務に戻ってきた父は目が虚ろだった様です。それから何かを求めて側妃の元に渡り続けて、クラリッサが生まれました。それからは側妃が王妃の様に振る舞い、王女はクラリッサのみのように贅沢三昧でした。側妃の父親も陞爵されて今は侯爵です。父はそれから一度も私たちの元に戻って来ませんでした。私は生まれて一度も父に抱き上げて貰ってません」
エレーナは言葉を切りカップに口を付けた。
「そのお話を聞きますと前国王陛下は麻薬中毒にされて操られた様に聞こえますが」
ジークハルトがそう聞くとこくんとエレーナは頷いた。
「その時はわかりませんでしたが、父が亡くなって遺体を調べてわかりました。重度の麻薬中毒でした。密かに調べさせてやっとわかったのですが側妃の実家では麻薬を栽培していました。父の死因は麻薬による衰弱死です。父の暴政を止めるために兄が父を退位させ離宮に押し込めようとした時に心臓発作で亡くなりました。兄が殺したわけではありません」
殺したと思っていたが違うのか…意外だ。
ユリウスが自分のカップをソーサーに戻して姿勢を正した。
「そのお話はどう言うつもりで他国の私共に聞かせておいでですか」
エレーナはそのユリウスの目を毅然と見返した。
「泣き言でも、お情け頂戴でもありません。姉のルイーザが何をしているか聞いていただいて、救って欲しいのです。即妃の父親の侯爵は父が亡くなってしまったので兄に麻薬を盛ろうとしました。兄が政略結婚の王太子妃と白い結婚で寄り付かなかったのはそれを用心したのです。侯爵は兄に近づけなかったので、姉のルイーザを狙って姉に近づきました。侯爵がしたことの証拠を得るためにわざと姉は侯爵の陣営に飛び込んだのです」
ユリウス黙って聞いていたが
「それは国王陛下はご存知で?」
と聞いた。
「私が先程話しました。ルイーザが麻薬中毒にさせられる前に助けてやって欲しいと訴えたのです。兄はルイーザが嫌疑をかけられたと言うことで侯爵から引き離すために拘束したままにするつもりです。でもそれだけでは姉がしようとしたことが無駄になります。どうか姉の取り調べとして姉と会ってください。侯爵達の陰謀を暴く助けをして下さい!」
急に立ち上がり深々と頭を下げるエレーナ。それをじっと見ているユリウス。沈黙がこの場を支配した。ジークハルトの苦手な雰囲気なので思わず言葉を発しようとしたら
「そんなことをして我が国に利益は?」
ユリウスのそれは冷たい声がその場に響いた。
「おくつろぎのところ申し訳ありません。お話をさせていただいてよろしいでしょうか」
居丈高なクラリッサやルイーザと比べるからだけれども、王女と思えないほど低姿勢だ。
「よろしいですよ。どうぞお座りください。この方にお茶を入れて差し上げて」
ユリウスが自分の従者に命じる。エレーナは従者がお茶を入れて、自分の前に置かれるまでじっと俯いていた。
「王女殿下 どうぞ」
ユリウスが勧めると、カップを持ち上げて一口飲んだ。
「美味しいです。これは?」
「我が国から持ってきました」
「そうですか。信用がありませんのね」
寂しげに微笑んだ。ジークハルトはどきっとして慌てて口を挟んだ。
「そ、そういうわけでは。私の領地には茶の名産地がありますので飲み慣れたものを持参させただけ……」
と言いかけたら、ユリウスが冷たい声で
「毒殺予防ですね」
と言い切った。あーもう親善もへったくれもありゃしないと思うジークハルト。あわあわしてなんとか取りなそうとしたけれどエレーナはジークハルトの方を見て
「よろしいのですよ。クラリッサとルイーザのしたことを考えるとなんと言われても当たり前です」
とエレーナは二人を真っ直ぐ見つめた。
「でも話を聞いていただけますか?」
ユリウスは気の無さそうな雰囲気で
「どうぞ お好きに」
と言い放った。
「亡くなった父と母は政略結婚でしたが幼馴染でしたので、仲は良かったのです。ですがある日視察に出かけた先で子爵令嬢の側妃に会って全てがおかしくなりました。証拠はないので、あくまで疑いですが子爵に薬を盛られて男女の関係になりました」
さすがにそう言う話題は辛いのかエレーナは下を向いた。
「男女の関係になった以上は放置はできませんので、子爵令嬢は側妃になりました。父は大変後悔して母に謝ったそうですが、我が国は後宮が存在しますので、代々の国王は数人の側妃を持っていました。前例がある以上母は強く言えませんでした。最初はお渡りもなかったのですが、さすがに面会を求められて父も断りきれずに側妃の元に会いに行きました。何か嗅がされたか盛られたのか、その日から三日間、側妃の部屋から父は戻って来ませんでした。母はその時私を妊娠中でしたので父が側妃に渡ってもおかしくありません。誰も気が付かなかったのですが、しばらくして執務に戻ってきた父は目が虚ろだった様です。それから何かを求めて側妃の元に渡り続けて、クラリッサが生まれました。それからは側妃が王妃の様に振る舞い、王女はクラリッサのみのように贅沢三昧でした。側妃の父親も陞爵されて今は侯爵です。父はそれから一度も私たちの元に戻って来ませんでした。私は生まれて一度も父に抱き上げて貰ってません」
エレーナは言葉を切りカップに口を付けた。
「そのお話を聞きますと前国王陛下は麻薬中毒にされて操られた様に聞こえますが」
ジークハルトがそう聞くとこくんとエレーナは頷いた。
「その時はわかりませんでしたが、父が亡くなって遺体を調べてわかりました。重度の麻薬中毒でした。密かに調べさせてやっとわかったのですが側妃の実家では麻薬を栽培していました。父の死因は麻薬による衰弱死です。父の暴政を止めるために兄が父を退位させ離宮に押し込めようとした時に心臓発作で亡くなりました。兄が殺したわけではありません」
殺したと思っていたが違うのか…意外だ。
ユリウスが自分のカップをソーサーに戻して姿勢を正した。
「そのお話はどう言うつもりで他国の私共に聞かせておいでですか」
エレーナはそのユリウスの目を毅然と見返した。
「泣き言でも、お情け頂戴でもありません。姉のルイーザが何をしているか聞いていただいて、救って欲しいのです。即妃の父親の侯爵は父が亡くなってしまったので兄に麻薬を盛ろうとしました。兄が政略結婚の王太子妃と白い結婚で寄り付かなかったのはそれを用心したのです。侯爵は兄に近づけなかったので、姉のルイーザを狙って姉に近づきました。侯爵がしたことの証拠を得るためにわざと姉は侯爵の陣営に飛び込んだのです」
ユリウス黙って聞いていたが
「それは国王陛下はご存知で?」
と聞いた。
「私が先程話しました。ルイーザが麻薬中毒にさせられる前に助けてやって欲しいと訴えたのです。兄はルイーザが嫌疑をかけられたと言うことで侯爵から引き離すために拘束したままにするつもりです。でもそれだけでは姉がしようとしたことが無駄になります。どうか姉の取り調べとして姉と会ってください。侯爵達の陰謀を暴く助けをして下さい!」
急に立ち上がり深々と頭を下げるエレーナ。それをじっと見ているユリウス。沈黙がこの場を支配した。ジークハルトの苦手な雰囲気なので思わず言葉を発しようとしたら
「そんなことをして我が国に利益は?」
ユリウスのそれは冷たい声がその場に響いた。
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