すまない。私は真実の愛に巡り合ってしまったんだ。君とは白い結婚になる。

ぐう

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第二部

15

 そして母国への帰還前日の夜更け。
 
 ジークハルトの自室の前で男女が潜めた声で言い争う声がする。

「お…く…い」

「は…て」

「だめ…も…」

「だ…」

「犠牲に…」

 なにを言ってるのかさっぱりだが、ジークハルトの自室で最後の夜に何かあるだろうと待っていたユリウスとジークハルトは扉を大きく開けてみた。開けてみたらそこにはダンドリーとエレーナがいた。ダンドリーはエレーナの腕を掴んでいた。エレーナは王女なのに寝間着にガウンと言う淑女としてはあり得ない姿だった。

 扉が開いてエレーナとダンドリーは驚愕で目を丸くしていた。

「おや 意外な人もいるけれど、何か御用ですか?こんな夜更けに。我らは明日朝出立ですので睡眠時間を削られたくないのですが」

 おお!悪役令息ユリウス最高潮!と心の中で拍手するジークハルト。

 ダンドリーがエレーナを後ろに庇って

「うるさくして申し訳ありませんでした。なんでもありません。失礼します」

 と言ってエレーナの腕を掴んだままで立ち去ろうとする。エレーナはダンドリーに掴まれた腕を無理矢理振り解き、ジークハルトの方に向かってきた。

「ブリーゲル伯爵 私と結婚してください!」

 ジークハルトに抱きつこうとしたが、ジークハルトはさっと避けた。エレーナは勢いが付いて転がりそうになったがダンドリーが抱き止めた。

「奇妙なプロポーズですね。この国は夜更けにそんな格好で女性がプロポーズするのが流行りなんですか」

 申し込まれたのはジークハルトなのに悪役令息ユリウスが返事をした。

「エレーナ王女殿下止めて下さい。御身を犠牲にするのはやめて下さい」

 え、なんですか。私と結婚するのは自身を犠牲にする事だと?失礼だなーーーとムカつくジークハルト。

「でもダンドリー。ウーラントに援助をしてもらわないとこの国はやっていけないわ。難民保護への援助だけじゃ足りないわ」

 なんか図々しいな。またもムカつくジークハルト。

「ジークハルトと結婚するとなぜ援助してもらえると思ったのですか」

 悪役令息ユリウスが冷たい顔で言った。ジークハルトのことなのに全部ユリウスおまかせでいいのか!

「ウーラントの王族の適齢期の男性は王太子殿下だけですが、先日結婚されてしまった。だったら側近の方と結婚すればウーラントから援助してもらえる」

 エレーナは震える声で言った。ダンドリーがエレーナを抱きしめて

「それで私を捨てると言うのですか!」

 あのー痴話喧嘩?なんだか知りませんが人の部屋の前では止めて下さい。

「だって だって ルイーザが王女で無くなったら私が我が国のために政略結婚しなくちゃだめでしょう?」

「あなたが犠牲になる必要はありません!」

 エレーナとダンドリーが手を握りあって見つめ合ってる。

「あーはいはいもう馬鹿らしい。側近が王女を娶ったとしても援助なんてそんなことで決めません。我が国の国王陛下と王太子殿下は情に左右されません。援助しても見返りがある事業や施策を持ってきて下さい。我が国に利が有れば援助もありえます」

 ジークハルトにはっきり言われてエレーナはようやくジークハルトを見る事にしたようだ。

「駄目なんですか?」

「駄目ですね」

 ジークハルトに突き放されて、エレーナはダンドリーの腕の中でぐったりした。

「ジークハルトの言う通りです。援助目当てで夜這いを掛けるなんて、冷静さをかいていますよ」

 他国の王族に散々な言い方だがダンドリーはエレーナを抱きしめて

「申し訳ありませんでした。国を思う気持ちが強い方で一途に援助をと思い詰めてしまって。どうかこの事は御内密にお願いします」

 と言い訳をした。言い訳としか思えないよ。

「我が国を軽く観ていらしたようですので恋人のあなたからも諭しておいて下さい。この事は国王に報告しませんのでさっさとお帰りください」

 そう言ってユリウスは扉を閉じた。

「国王に報告した方がいいのでは?」

 ジークハルトがそう言うとユリウスはふっと笑った。

「ここは王族のプライベートな居住部分だ。我らは声を潜めなかったからあの二人も釣られて声が大きくなっていた。私達が国王に報告しなくても、すぐに国王に報告が上がるさ。あの二人が秘密にしていたとしても、これで明るみにでるんだ。国王もエレーナを我が国に嫁がせたいと思ってたとしても、我々がこの件を知っている限り言い出せないだろう。面倒が減って助かるな」

「婚約者がいても恋人がいて、婚約者がいなくなったら恋人を捨てて政略結婚をしようなんてなんだかなぁ」

 ベッドに腰を掛けながらジークハルトがぼやくと

「まあ女心はジークハルトでは察する事はできないな。悲劇のヒロインになったつもりでジークハルトに嫁いで来るつもりだったのだろう」

 とユリウスが言った。ええーー自分は悲劇のヒロインになって我慢しないと結婚できない相手に見えたんだーーーショックである。



 
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