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「それはどう受け取ればいい?」
「そうですね。誤解されてるといけないので、言っておきます。王妃はあなたを 男性として愛していわけではなかったのですよ」
フェリクスは悪寒を覚えながら、少しほっとした。
「王妃が小児愛好者でなくてよかったよ。オスカーは王妃の考えを、どうして知ったんだ。王妃に会える人間は、医師のアイリーンだけだったと聞いているが」
オスカーはそれには答えずに、小部屋の隅にある小さな本棚から、本のような物を数冊取り出して、小さなテーブルに積んだ。
「これはなんだ?」
「開いてみて下さい」
オスカーに促されて、一番上の本を開くと、流暢な筆跡でびっしり書き込まれていた。
「これはヒルシュフェルト語だな?」
「はい。我が国と隣国の言語は共通ですが、大陸の東の高い山に囲まれているヒルシュフェルト国は、『呪』でわかる様に、独自の文化を持ち、言語も独自の文字を使います。王妃は誰にもわからない様に、母国語で書いていたようです」
王妃が書いた本らしきものを、手に取ってページをめくったフェリクスは、オスカーに言った。
「オスカー、申し訳ないが、ヒルシュフェルト語は、基本的な読み書きと会話しか、わからない。こんなふうに、崩されると何が書いてあるかーーー」
情けないなと眉を下げて、詫びるフェリクスをオスカーは責めなかった。
「おや?殿下は自分を不勉強と思われてます?こんなふうに、崩してあると、ヒルシュフェルト国の者か学者ぐらいしか読めませんから、安心して下さい。それに隣国との関係が改善された今、ヒルシュフェルト語には、あまり価値はありませんから」
「オスカーはこんなふうに崩してあっても、読めるのか」
「まあ、一応読めますよ」
学者しか読めないと言ったくせにと、サラリと自分の学識を誇るな、こいつと、フェリクスは呆れた。
「では、内容をかいつまんで教えてくれ」
「最初から読み上げなくていいのですか」
ニヤリとオスカーは、少々意地悪げに笑った。
「いや、いいよ。それより概要を」
フェリクスはにべもない。
「おや、残念。ここの中にはフェリクス殿下がいかに素晴らしいか、滔々と書いてありますのに。読まなくていいのですか」
フェリクスはこいつ、わざとと思い少しきつめに言った。
「いいから、早く」
「残念ですね」
オスカーは肩をすくめて、残念そうに眉を下げた。
「だいたい、会ったこともないのに、なぜ素晴らしいなんてわかるんだ」
「殿下、お小さい頃に迷子になって、誰かに助けてもらったこと覚えてますか?」
いきなり話題が変わった事にびっくりして、なんなのだとフェリクスはオスカーを見た。
「覚えてないな。そんなことあったのか?」
「殿下の乳母に確認してあります。殿下はお小さい頃やんちゃで、乳母の手を振り切って庭の生垣を潜って行ってしまって、護衛もまかれしまった事があったそうです」
「そうなのか?乳母が言うならそうなのだろうが」
「その時、離宮の庭に潜り込んだ様ですよ。そしてーーー王妃に会ったと書いてあります」
「ええええぇええええ」
フェリクスは心底びっくりしたように、口をあんぐり開けてしまった。
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