5 / 5
5 領地への勧誘
しおりを挟む「――さて、と……っ」
立ち上がろうとした黒軍服さんが、痛そうに顔を歪ませた。
「どうしたの?」
「ちょっと、古傷がね。前に膝を切られた事があって、傷は治っているんだが痛む時があるんだ」
いてて、と言いながらまた立ち上がろうとする黒軍服さんの袖を掴んだ。
「どうした?」
「私、たぶんそれ治せるよ」
黒軍服さんの動きが止まる。
「――っ本当か⁉︎」
「ひぇっ⁉︎近い近いっ‼︎」
ズイッと黒軍服さんの顔が近づく。
男の人なのに肌が綺麗で、睫毛も長くて、アイスブルーの髪はサラサラで、めちゃくちゃ整った顔してるんだから、不用意にそのお綺麗な顔を近づけないで欲しい。心臓に悪い。
「じゃあ、ちょっと見てみるね」
「あぁ、頼む」
期待のこもった青い瞳に見つめられながら、黒軍服さんの体をじっと見る。
普段は何も見えないんだけど、悪い所が無いか見ようと意識して見ると、問題のある箇所に黒くモヤがかかって見える。
「――見えた」
そして、黒軍服さんの言う通り、右膝には子供の拳大位の黒いモヤがかかっていた。
そのモヤを掴み、握り潰すようにグッと力を込めると、パァンと弾けモヤは消えた。
「はい、もう痛くならないと思うよ。動いてみて」
黒軍服さんが立ち上がり、膝の状態を確かめるように色々な動きをする。
「凄いな!全く痛みも違和感も無い!やっぱり君は聖女だ‼︎」
黒軍服さんは興奮冷めやらぬ様子のまま、私の手を取り立たせると、とある提案をしてきた。
「うちの領地に来ないか?」
「うちの領地?」
「あー、まだきちんと名乗ってなかったな。俺はハインツ・シャウマン、辺境伯家の者だ。君はニーナだな?」
「うん。辺境伯……あ、シャウマンっていうと」
「あぁ。この国、ゴルトベルクは東側が魔族領と面しているだろう?その面している領地を納めているのがうち、シャウマン辺境伯家だ」
私たちが暮らしているゴルトベルク国は東側を魔族領、北と南側が隣国、西側が海に面している。
隣国との関係は良好だし、領海のアーリア海も海の幸が豊富に獲れて、海に面した港町は観光客で毎日賑わっているらしい。大衆紙でよく特集される『一度は行きたい観光地ランキング』で一位を取ることも多い。
ただ、反対側のシャウマン領は魔族領と面しているから不人気、かというとそんな事はない。
シャウマン領には大きな火山のミアソ山があり、その裾野には雄大な自然が広がっていて山の幸が豊富に獲れるため、こちらも一度は行きたい観光地ランキングの上位によく入る。ミアソ牛が美味しいと有名で、オーグ二牛から取れる牛乳も濃厚で美味しいらしい。
「いいね、シャウマン領。魚も好きだけど、お肉はもっと好き」
「そうだろう?うちに来てくれるなら衣食住の保証はするよ。美味しい物もたくさんご馳走しよう。どうかな?」
すっごいキラキラスマイルなんだけど……。
「なんでそんなに好待遇で私を?」
うまい話には裏があるっていうし。
100
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる