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リックの出来心

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「リック~私イチゴが食べたいな♡」

「はい、あーん♡」

リックは幸せの絶頂にいた。
可愛い妻、結婚していると知りながらも健気に慕ってくれる可愛い愛人。両手に花とはこの事と浮かれていた。

妻のララに不満がある訳では無い。
元々は自分が惚れて結婚までこじつけ、夫婦仲も良く生活も充実している。しかし、月日はマンネリ化という敵を生んだ。そしてそこに声を掛けてきたのが愛人のミグだった。

「あ、あの…ちょっとだけ二人でお話しませんか…?」

雑貨屋の目の前を通った時に顔を真っ赤にしながら服の端を摘んできた地味な女性。その様子から自分に気があるのかなと思って振る為にコクリと頷く。
リックはブラウンの髪と瞳で顔も普通の部類だったが、紳士的な性格で全くモテない訳では無かったので慣れていた。

「あ、あの…一回でいいのでちょっとだけデートしてくだしゃいっ!」

顔を真っ赤にして俯き、噛みながらも伝えられたその言葉に思わずキュンとしてしまった。無意識に頷いた後に後悔はしたが、一回だけなら良いかと自分を納得させると日付を決めて立ち去った。
後日、待ち合わせに来た女性に地味さなど一欠片も無く思わず胸が高鳴ったのは仕方の無い事だったはずだ。

「この服…似合ってますか?」

「ああ、とても似合っているよ!いつもそうしていたら可愛いのに。」

「リ、リックさんの前だけでいいんです。」

赤い顔でモジモジとしながら言う彼女はイジらしくて思わず抱きしめたくなった。気がつけば夜まで時間を共にしてしまい、告白を受け入れ朝帰りとなり、家に帰ったらララに適当な言い訳をしていた。

「サム達と飲んだ後に夜通し語り合っちゃって、ごめん。」

「もう、連絡くらい入れてくれなくちゃ心配するわっ!」

上手く誤魔化せた事にホッとして、その後も適当な理由をつけてミグと逢瀬を重ねた。気がつけばもう半年は経っている。
やめなければと思ってはいるのにミグの顔を見ると別れを告げられない。だがララとも別れたいなどとは一ミリも思っていない。ズルズルと関係は続いていく。
幸いミグは結婚したいなどの無茶は言わないのも理由の一つになっているかもしれない。

「リック~今日は家に来るでしょ?」

「ああ、もちろんさ!」

そう返事をした時に一瞬何かが引っかかった。
何か大事な事を忘れている気がする。何だかソワソワする。

「どうしたの?」

「何だか…今日何かあったような気がするんだけど思い出せないんだ。」

「え~!私と居てくれるんでしょ?思い出せないなら大した事ないのよ!!」

「う~ん…それもそうか。」

引っかかった感覚は無くならないが大した事無いだろうと言われて納得したリックは考えるのをやめた。
ここで結婚記念日という事を思い出さなかったのは致命的だった。
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