乙女ゲームのキャラを彼氏に求めるのは間違っている!

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第1話 最強にして最恐の提案

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 息を吐き出せば、空中に白い息が広がった。
 季節が過ぎるのは早いもので、クリスマスまで後一週間となった。街はイルミネーションの光で溢れており、駅近くには装飾された大きなクリスマスツリーが飾られている。

「あー、クリスマスまでもう少しって事は、千紗の誕生日も近いって事だよな」

 『千紗ちさ』とは同居人で二年付き合っている彼女の事だ。
 ちなみに俺の名前は『山下紘貴やましたひろき』。先月二十五歳になったばかりで、仕事は都内でプログラマーをしている。

「よし、今日こそ何が欲しいか探らないとな」

 そう独り言を呟き、可愛い彼女が待っている家へと歩みだした。

            ◆◇

「千紗、ただいま~」
「おかえり、紘君!」

 そう言って家の扉を開ければ、とびっきりの笑顔で千紗が迎えてくれた。だが、その次の瞬間、衝撃的な発言に全身の動きが止まる。

「あのね、紘君が仕事の間に五人にも告白されたんだよ」
「……は?」

 間抜けな声が思わず出た。一体、何を言っているのか理解に苦しんでいると、千紗がポケットの中から俺の携帯ゲーム機を取り出した。

「紘君に買って貰った乙女ゲーム『ラブ☆マジカル』の事だよ。中でも一番は『一之宮 春稀』! 普段は冷たいのに、章が進むにつれて甘くなっていって、何といっても春稀が主人公にだけ弱さを見せる所とかもうキュンキュンしちゃってね」

 画面には照れた表情を浮かべた黒髪の青年がおり、こちらを見ている。

(その顔でこっち見んな!!!!!)

 心の中で画面の彼にそう言い放ち、次は嬉しそうにしている千紗を見る。頬を緩めているその姿に思わず苦笑してしまったのは言うまでもない。
 付き合った頃から彼女がアニメ好きなのは知っていたが、乙女ゲームも大好きだったと知ったのはつい先日。俺が居るから我慢してたとか何とか言っていたので、「やりたければやれば?」と言ったのが間違いだった……。
 そう、これは昨日の話だ。
 千紗は幼稚園に務めているのだが、冬休みに入ったという事で最新の乙女ゲームをおねだりされ、俺は昨日快く買ってあげたのだ。それが、『ラブ☆マジカル』というゲームだ。

(昨日今日でどんだけ、やりこんだんだよ……)

 頬に手を添えてうっとりしている彼女には悪いが、仕事帰りに家に帰ってきてこの話は結構辛い。

「あー、話の途中悪いけどさ、お腹空いたんだけど、夕飯ある?」

 ダウンを脱ぎながら千紗の横を通り抜け、居間に向かう。そこには大好きなハンバーグが用意されており、俺のテンションが上がった。

「今日はね、ラブ☆マジカルのおかげでテンションが上がっちゃって、紘君の好きなハンバーグにしてみたよ。嬉しい?」

 笑顔で問いかけて来る千紗に「ああ、凄い嬉しいよ」と一言返した。

「……それだけ?」

 ふと不機嫌そうな声が聞こえてきたので千紗を見れば、頬を膨らませて立っていた。何を求めているのか分からず、頭に疑問符を浮かべていると、

「ま、そうだよね。紘君は三次元の人間だもんね」

 溜息交じりにそう呟いて、千紗は台所へと足を進めた。対して俺はぽかんと口を開けて、その場に俺は立ち尽くした。

(え、今の呟き何? まさか、まさか、まさかだけど、あいつ俺に……二次元のキャラ達の台詞を求めたのか――!?)

 これは、まずい。非常にまずい事態だ。嫌な予感しかしない。
 元々、千紗は色々な事に影響されやすいと思っていたが、乙女ゲームに影響されている気がして堪らない。速まる鼓動に唾を飲み込み、何とか乙女ゲームの話題に触れぬよう口を開く。

「この味噌汁美味しいな! ハンバーグなんて何個でも食べれちゃいそうだよ」
「そう? ありがとう。ところでさ、ラブ☆マジカルのキャラソンが出るんだけどね、今日試聴したら全部欲しいぐらい最高だったんだよ。後ね、私がずっと見てた二次元アイドルのアニメ覚えてる? 『ラブキュンMelody』なんだけど、それも乙ゲーになって明後日発売だから買おうと思ってるんだ」

 勇気を振り絞った所でさらりと流され、安定の乙女ゲームの話に戻された。

「ああ、そうなんだ。まあ……いいんじゃない? 俺も仕事だし」
(また新しい乙女ゲーム買うのかよ!)

 内心を悟られないように、ご飯を口に運んでいると、ふと千紗が頬杖をついて俺をじっと見つめていた。

「えっと……どうした? 俺の顔に何かついてる?」

 頬を人差し指で掻きながら問いかければ、千紗は首を横に振り、物思いに天井を仰いだ。

「今日、思ったんだけどね。紘君が声優やればいいのになって思って」
「……はい?」

 思わず、茶碗と箸を落としそうになった。

「例えば紘君の声のキャラクターが乙ゲーでいたらすぐに攻略したいって思っちゃった」

 横目で俺を見ながら千紗はそう言った。今、俺はどんな顔をしているだろう。全然顔に力が入らない。

「ば、何バカな事言ってんだよ。俺が声優なんて無理に決まってるだろ。活舌も良くないし、声優なんてそもそも俺にはプログラムがあるから――」
「うん、そうだよね。そう言うと思ってた。それを頼むには少し遅すぎたかなって後悔してる」

 笑顔を浮かべながらそう言った千紗に、思わず目を見開いた。

「だから、違うお願いをしようと思って」
「……お願いって何?」

 ごくりと喉が鳴る。千紗の顔が穏やかな顔から小悪魔のような顔になっている。目を細めて俺を見下すように見ているその顔は、まるで乙女ゲームで何人もの男を翻弄している時の様だ。

「私の誕生日まで今日を入れて丁度七日でしょ? それでね、今年の誕生日プレゼント考えたんだ」
「誕生日プレゼント? 物? それともさっき言ってた新しく出るゲーム?」

 今日聞こうと思っていたので、丁度良かった。新しいゲームかと問いかければ、千紗は首を横に振った。すると急に席を立ち、この部屋を後にしたかと思うと、数分もしないうちに扉を勢いよく開けてこの部屋に戻ってきた。

「おう、はやかっ」

 俺の言葉を遮るように、目の前に何種類かのゲームの箱や書籍等が積み重なって置かれた。千紗とその書籍達を交互に見やり、震える唇で千紗に疑問を投げかける。

「……千紗さん、これは何でしょうか?」

 一番上に置いてある書籍を千紗は手に取ると、自分の顔の横にそっと並べた。その本は見た事のない男女が微笑みあっている薄い本だった。

「紘君、私の誕生日プレゼントなんだけどね――」



「明後日から誕生日当日まで、私の大好きな乙女ゲームのキャラ五人に一日一人ずつなりきってほしいの。勿論、キャラになりきってもらう事が必須条件だから資料も用意しておいたよ。ねえ、私の為に頑張ってくれるよね? 紘貴」



 口角を上げた彼女に、恐ろしい提案に、俺の顔がどんどん青ざめていった。
 山下紘貴、人生最大のピンチ到来です。




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