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第2話
その5
しおりを挟む本当に何から何まで情けなくて、涙が出てくる。ついサージェ様に貸してもらった布で涙を拭くと、頬に付いてた泥がその綺麗な布を汚す。
ていうか顔にも泥ついてたの? やだ。そんな顔でサージェ様とお話してたの? 恥ずかしいっ。
申し訳ないけど借りた布で顔を拭う。もう一回泥付いちゃったし、いいよね。サージェ様もそのつもりで貸して下さったんだし、ちゃんと洗って返そう。
鏡が無いから顔のどの辺に泥が付いちゃってるのか分かんなくて、とりあえず全体を拭く。ついでに手や足に付いた泥も拭く。
と、その前にぐちゃぐちゃに濡れてるスカート絞っとこう。でもスカートの裾の方はコートに隠れてなかったからかなり泥だらけなんだよね……。洗いたい。
そういえばサージェ様はどうやってコートの汚れを取ってくれてるんだろう? あ! それよりサージェ様、洞窟の外に出ちゃってるじゃん。雨まだ降ってるのに!
慌てて後を追いかける。それじゃなくても迷惑かけてるのに、わたしのコートの泥落とす為にサージェ様びしょ濡れにさせるなんてダメダメじゃん。
洞窟を飛び出し辺りを見回すと、洞窟の壁の一部が雨のせいで滝みたいになってて、そこでサージェ様はわたしのコートの泥を洗い流してくれていた。
「ごめんなさいっ。サージェ様が風邪引いちゃいますっ。そんなのいいから中に入ってくださいっ」
声を掛けるとサージェ様がびっくりしたようにこっちを見た。
「駄目じゃないか、エミルちゃん。ちゃんと中に入ってないと」
慌ててやって来てわたしを洞窟の中に押し戻す。だからわたしもすかさずサージェ様の腕を抱きかかえた。
「サージェ様もですっ。中に入って下さいっ」
手を離したらまたコートなんかの為に雨の中に出ちゃいそうで、洞窟の中に入ってもサージェ様の腕にギュッとしがみついたままでいた。
「あー。分かった分かった。分かったから手を放そうね」
まるで小さな子に言い聞かせるみたいな口調についむくれてしまう。けど、とりあえずサージェ様が中に入ってくれて良かった。
手を放し、サージェ様を見上げる。
「すっかりびしょ濡れじゃないですか。幾らサージェ様が慣れてるって言っても風邪ひきますよ」
わたしのせいで風邪ひくとか、悲しすぎる。
「このくらいは大丈夫だよ。エミルちゃんこそすっかり濡れちゃって」
確かにわたしも濡れていた。元から転んだ時に濡れてたスカートなんて、絞らなくてもポタポタ雫が落ちちゃうんじゃないかってくらい濡れちゃってる。
「雨が上がるか小降りになったら一度帰ろう」
言いながらサージェ様が、自分の服の絞れるところを絞り始める。わたしもスカートくらい、絞っとこう。
ギュッと絞るとやっぱり結構水が出る。それ見てるだけでため息が出る。
と、隣にいたサージェ様も、深々とため息をついた。
「……あのね、エミルちゃん。隣りにいるのがおじさんだから油断してるのかもしれないけど、さっきみたいにギュッと抱きついてきたりそんなふうに足を見せるのは、良くないよ?」
ん?
言われて自分の足を見る。水を絞るのに集中しちゃってたせいか、スカートを太ももの辺りまでからげちゃってる。やだ、恥ずかしい。
慌ててスカートを下ろす。けど、そんなふうに言ってくれるってコトは、サージェ様ちょっとはわたしの事意識してくれた?
ちらりとサージェ様の顔を見る。
だけどサージェ様の顔はいつもと全く同じ。わたしを女の子として意識したっていうよりは、姪っ子のはしたない行動を注意したって感じだ。がっかり。
そうこうしている内に雨は小降りになってきた。とりあえず帰ろうって洞窟を出たところで、わたしたちを捜していたコーウィさんと合流した。残念。屋敷に帰るまでは二人きりだと思ってたのに。
そうして今回の現場検証はお開きになった。
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