1 / 3
1
しおりを挟むそれはまるで、よくあるお話の一場面。
「数々のお前の冷たさ、意地の悪さにはほとほと愛想が尽きた。公爵令嬢レティーシャ、お前との婚約、ここで破棄する!」
ここは王立学園のダンスホール。今日は卒業パーティーの日。
さっきの言葉を叫んだのは、わたしの横に立つこの国の第一王子ユークリフ様。正義感が強くて優しい、文武両道のイケメン。
そして目の前にいるのは、彼の婚約者のレティーシャ様。とても美しい方で、プライドも高い。
レティーシャ様は、ユークリフ様の言葉を静かに聞いていた。そして話し終わるのを待ってから、ゆっくりと口を開いた。
「可笑しなことをおっしゃいますのね、殿下。わたくしはそちらの男爵令嬢に礼儀を諭した覚えはございますが、冷たくしたり意地悪をしたことなどございませんが」
扇子で口元を隠しながら、レティーシャ様はにこりと目で笑う。公爵令嬢という身分の高さから、その笑みを怖いと思ってしまう人達はたくさんいるはず。
ちなみにわたしはちっとも怖くなんてないけど。
でもここは怖がったふりしてユークリフ様に寄りかかろう。
顔を伏せて、ユークリフ様の服の端なんかちょっと握りしめちゃったりなんかして。
するとユークリフ様もわたしの腰に手を回して、抱き寄せてくれたりなんかしてくれる。
「お前のそういうところが冷たいというのだ」
ユークリフ様の台詞に、レティーシャ様は大きく息を吐いた。
「そもそもわたくし達の婚約は、王家と公爵家との取り決め。それを勝手に殿下が破棄出来るものではありません」
「心冷たく悪心を持つ者を我が伴侶になど。正式な手続きは後日となるが、皆の集まるここで己の意志を告げたのだ」
学園の卒業パーティーだから、ホールには卒業生と関係者がたくさんいる。そして喋っているのはこの国の第一王子だから、当然みんな静かにその言葉を聞いている。
静かにって言っても、時々ざわついたりヒソヒソと話したりはしてるけど。
「そう……ですか。分かりました。元々この婚約は先程も申しましたように、王家と公爵家のもの。殿下とわたくしでなければならない訳ではありません。その旨、わたくしからも父に伝えましょう」
レティーシャ様は小さく息を吐いてそう言った。
ちょっとあきらめが早過ぎない? これじゃあわたしが全然目立ってないんだけど。
わたしは慌てて目の端に涙を浮かべてユークリフ様を見上げる。
「ダメですユークリフ様。レティーシャ様を許してあげて下さい。わたしは平気ですから」
そんなわたしに気がついて、ユークリフ様は愛しそうに微笑んでわたしを見つめてくれる。
「優しいな、フィオナ。だがお前は気にすることはない」
きっとこの場にいる誰もが気づいただろう。ユークリフ様がわたしを愛していることを。
わたしはひとまず満足して、みんなに見えないようにほくそ笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
始まりはよくある婚約破棄のように
喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
【完結】出逢ったのはいつですか? えっ? それは幼馴染とは言いません。
との
恋愛
「リリアーナさーん、読み終わりましたぁ?」
今日も元気良く教室に駆け込んでくるお花畑ヒロインに溜息を吐く仲良し四人組。
ただの婚約破棄騒動かと思いきや・・。
「リリアーナ、だからごめんってば」
「マカロンとアップルパイで手を打ちますわ」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
側妃の愛
まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。
王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。
力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。
Copyright©︎2025-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる